異種格闘技戦

赤コーナーに登場したのは文学の帝王ドストエフスキーだった。ドストエフスキーといえば今さら私が語るまでもなかろう。文学中の文学。排泄物までも文学でできているような大文豪だ。心臓の弱い人は彼の代表作の『罪と罰』のタイトルを見ただけで衝撃のあまり発作を起こしてしまうだろう。続いて青コーナーに登場したのは音楽の帝王ベートーヴェンだった。ベートーヴェンといえばもう音楽中の音楽。現在も苦悩しまくりの指揮棒振るにはうってつけの曲をたくさん書いた人である。彼の代表曲『運命』などは多くの人々を苦悩に至らしめたものだ。さて今回の異種格闘技戦はそんな文学と音楽の苦悩界を代表する二人の念願の直接対決になる。当然観客も興奮しどっちの苦悩がすごいかを激しく論じ合っていた。ドストエフスキーの方が苦悩しまくっているんだぞ!でなきゃあんな長く苦悩をかけるわけねえわ!バーカ!ベートーヴェンさんの方がずっと上なんだよ!露助なんかと一緒にするなボケ!お前んとこのは楽譜も読めねえじゃねえか!苦悩するんだったら楽譜ぐらい読めるようになれ!試合前の会場は客同士の争いが起こった。とうとう乱闘騒ぎになりかけた時、会場にゴングがなって赤コーナーと青コーナーから二人が現れたのだった。

「バーカこのカス!」
「黙れこのウンコ野郎!」

リングに現れた両者は客の期待に反してずっとこんな小学生みたいな悪口を言い放っていた。偉人といえど向き不向きがある。どんなに偉大な芸術家でも専門外の事に関して赤子であるように、この二人もペンとピアノの代わりにボクシンググローブをつけられたら何も出来ず小学生みたいに吠えるしかなかったのだ。二人は苦悩に満ちた表情でお前の母ちゃんでベソ!と延々と罵り続け、試合は不毛な引き分けに終わった。


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