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《長編小説》全身女優モエコ 高校生編 第八話:秘められた欲望

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 地主の息子は部屋に入ってきたモエコを見てブヒヒと鼻を鳴らして喜んだ。それからモエコに向かってこう言った。

「僕ちん来ちゃった。モエコちゃんに逢いに来ちゃった」

「会いに来ちゃったじゃないわよ!大体どうやって家を探したのよ!私うちなんか教えてなかったわよね!」

「ブヒヒーッ!僕ちんモエコちゃんが帰る時こっそり後つけたんだブヒ!」

 モエコはそれを聞いてもう烈火の如く怒り狂ってこのクソデブをどやしつけた。

「私言ったわよね!演劇大会終わるまで会えないって!私は今あなたと遊んでる暇なんてないのよ!カルメンを演じるだけで精一杯なの。お願い、帰って。今すぐこっから出て行って!」

「イヤだイヤだ!僕ちんモエコちゃんに逢えないなんてイヤだ!カルメンなんかよりアニメの方が楽しいブヒよ!」

「やまかしい!さっさと出て行け!」

 その時能天気に酒をかっくらっていた父親が割り込んできた。

「おい、モエコぉ!お友達に何失礼な事言ってやんでえ!オメエは礼儀ってもんを知らねえのか?この方はな、わざわざこんな貧乏小屋に来てくださったんだぞ!おまけに初めてあった俺らにこんなに金くれたんだ!」

「そうよぉモエコ。この方はね、モエコちゃんにいつもお世話になってますって言ってくださってこんなにお金くれたのよ!これでキンキラキンのドレスたんまり買えるわ!」

 ああ!そう言ってこのクズ両親は二人してモエコに見せびらかすように札束を広げた。それから二人はその醜い体で抱き合って咽び泣いたりなんかしはじめた。

 モエコはもう両親を無視して再び地主のバカ息子を怒鳴りつけた。

「いいから帰ってよ!今帰らないと二度と会ってなんかやらないんだから!」

「モエコォ‼︎」

 父親がいきなり怒鳴ってきたのでモエコがビクッとして立ち止まった。そのモエコに向かって父親は話を続けた。

「お前には人情ってものがないのか!せっかく来てくれた恩人を叩き出すのか!俺はオメエにそんな教育したこたぁねえぞ!とにかく今日はこうしてお友達がいらしてくれたんだ。俺たちゃ外に行くからオメエはお友達と水入らずで過ごせ!一晩中たっぷり優しくしてやれ!お友達を泣かせんじゃねえぞ!」

 そう言うなりこのクズ両親はさっさと外に出てしまった。二人は自慢げに地主のバカ息子が用意したタクシーで町のホテルに泊まりに行くとか言った。玄関を出る時何故か母親が顔を赤らめモエコに向かって下卑た笑いを浮かべた。モエコはタクシーに乗り込む両親に向かってこう叫んだ。

「お前らなんか死んでしまえ!」


 さてこうしてモエコと地主のバカ息子は二人きりになったのだが、二人きりになった途端バカ息子は無口になってしまった。彼は童貞だったので女の子の家に入ったのは初めてだった。だがモエコの家には漫画はなく、テレビもとうにアニメの時間帯は終わってしまっていた。彼は必死で会話を探したが、このバカ息子は漫画とアニメ以外のことは、それが常識的な事であっても、何も知らなかったので会話など出てきようかなかった。モエコはモエコでこのバカ息子と自分を家に置いてけぼりにした両親に腹が立ち、バカ息子と一言も喋るつもりはないので、私お風呂入るからと言ってさっさと自分の部屋に入ってしまった。

 自分の部屋に入ったモエコがガサゴソとパジャマなんかを持って再びバカ息子の元に現れたが、しかし彼女は彼を無視してそのまま風呂場へと向かってしまった。一人取り残された地主のバカ息子はこのモエコのつれなすぎる仕打ちにニキビだらけの頬に涙をポロリと流したが、ふとモエコの部屋の覗きたい衝動が頭をもたげてきた。

 モエコは今お風呂に入っている。今だったらずっと憧れだった女の子の部屋に入るチャンスだ。彼は興奮にうち震え、四つん這いでモエコの部屋の戸を開けた。

 開けた途端にふんわりとした女の子の匂いがしてきた。彼はすぐにポチりと電灯をつけてモエコが起きたり寝たりしている部屋を隈なく覗いた。貧乏人のモエコの部屋は普通の女の子の部屋と違って酷く殺風景だ。部屋の床にはモエコが先程敷いたらしい布団があり、壁には彼女が小学校の文化祭で着たあのボロボロのシンデレラの衣装がかけられている。その真下にはまるで捧げ物のように未だ図書館に返していないシンデレラの絵本が置かれていた。普通の人間だったらこのあまりの殺風景さにゾッとして尻込むかもしれない。だがこの童貞のデブにはこんな殺風景な部屋でさえ興奮してしまった。彼はつぎはぎだらけのシンデレラの衣装に頬を寄せ、シンデレラの絵本には舌なめずりまでした。もはやただの変態であった。ああ!モエコちゃん!僕ちんの可愛いお人形ちゃん!そうしてひとしきり味わい尽くした後、彼は布団を凝視した。

 ああ!このデブは厚かましくもモエコの布団に入ってしまったのである。彼は布団に入るなり興奮のあまり体を小刻みに震わせてしまった。布団の匂いを何度も鼻で吸ってモエコの香りを嗅ごうとする。これがモエコちゃんの匂いなのかと。

 モエコは風呂から上がって居間の戸を開けたが、そこに地主の息子がいないのを不思議に思った。トイレかと思ったが、トイレは風呂場のそばにあるのでバカ息子が入ってきたらすぐに気づくはずだ。だからモエコはもしかしたらバカ息子が帰ったのかと喜んだ。ああ!男友達ってほんとにうざい。女の子よりずっとわがままなんだから!彼女はこう愚痴りながら部屋に入った。

 部屋に入って早速モエコは布団に入って目を閉じたのだが、しばらくして布団が妙に生暖かく感じて寝られず、つい気持ち悪くなって足で布団を蹴ったのだが、何かぷよぷよしたものに当たったので思わず目を開けて前を見た。

「モエコちゃん!」

 ぎゃあああーっ!モエコは思いっきり絶叫した。なんとモエコの布団に地主のバカ息子が全裸で寝ていたからである。目の前のバカ息子は充血した目をガン開きにしてモエコを危険なほど凝視していた。

「モエコちゃん、僕ちんといっじょに寝よう。モエコちゃんが小学校の時だって僕ちんと旅館で同じ部屋に寝たじゃないか。だから今度は同じ布団で!」

 ふざけんなぁー!とモエコは思いっきりバカ息子をボコボコした。そして気の済むまでボコボコにするとバカ息子を肥溜めに向かって放り投げて捨ててしまった。モエコはこの時男という動物の恐ろしさの一端を無意識に感じとっただろう。だがウブすぎる事で定評のあるモエコはまだ男たちが自分を友達として心から慕ってくれていると思っていた。あの大惨事が起こったその時でさえそう思っていた。


 大惨事には必ず予兆というものがあるわけで、今回の演劇大会もモエコたち演劇部はトラブルに見舞われた。なんと背景を担当していた生徒がストレスからくる胃痛で急に入院してしまったのである。地区予選まであと二週間を迎えた時だった。実は彼の入院の責任は半分以上モエコにある。 

 部長は凡庸な脚本家であるだけでなく凡庸な演出家でもあったのでモエコが半分ぐらい演出のアイデアを出していた。役者への演技は勿論、背景に対してもガミガミうるさく言った。彼女は背景担当が出してきた絵コンテを見てこれじゃない!こんな貧弱な背景じゃ私のカルメンが絶望して自殺しちゃうわ!と怒鳴りつけ、私のやりたいのはこうよと丸と三角のど下手くそな絵を描いて自分のアイデアを背景担当に向かって一時間以上に渡って説明した。ああ!モエコは致命的に絵が下手くそだった。彼女は美術の成績が壊滅的に悪かったのである。背景担当はモエコから下手くそな絵を片手に説明されても何が何だかわからなかった。そして背景担当は苦しみの果てに倒れて病院に担ぎ込まれた。

 部員全員が背景をどうしようかと悩んでいだが、モエコは背景と聞いてひとりの人間を思い浮かべた。彼女は早速部員たちに向かって当てがあると言って、そして部活が終わるとまっすぐその人物の住んでいるアパートに駆けつけた。ここまで書いて察しのいい読者から既に思い当たる人物を挙げることができるだろう。そう、彼こそがモエコのお友達の第三の男の財閥の御曹司である。


 御曹司は玄関から入ってきたモエコを見て皮肉な笑みを浮かべて言った。

「モエちゃん、しばらく僕と会わないって約束だったんじゃないのかい?」

「ふん、事情が変わったのよ。私あなたに頼みがあるの」

「それが人にものを頼む態度かい?」

「そんなのどうだっていいじゃない。あなただってずっと私に会いたかったでしょ」

「チッ、しゃあねえな。そんなに潤んだ目で僕を見ながら生意気なこと言うんじゃないよ。調子が狂っちまうぜ。でも僕だって忙しいんだ。タダじゃ相談には乗らないぜ。なあ、モエちゃん。そろそろ僕の願いを叶えてくれてもいいだろ?」


 翌日モエコは部室に見知らぬ男を連れてきた。いかにも長髪の芸術家といった感じの男だ。モエコはこの人が背景を監督してくれるからと言った。女子部員はこの男を見て、多少歳はいっているが、その甘いマスクを見てときめいてしまった。顧問は外部のものを入れていいものかと口に出したが、モエコは自信満々に無理矢理にでも教師たちに承諾させてみせると言い張った。男はそんなモエコを見ながら意地の悪い笑いを浮かべていた。






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