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Twitter家族

 とある一家が家族全員Twitterを使っていた。ネトウヨの父親は愛国主義と排外主義丸出しの文章を書き散らし、サヨクの息子はリベラル全開の自己肯定感に満ちた文章を書いていた。母親は昔かぶれたフェミニズムに再びハマり、ネトフェミ満開の文章を書いてアニメやコミケなどヨタクが好きはものをひたすら罵倒していた。

 家族はお互いがTwitterをやっていることをまるで知らなかった。なので家族の話題にTwitterのことが出ることはなかったが、それぞれのアカウントがアルファユーザーであったので、気づかずに出くわしてしまう事が度々あった。ネトウヨの父親はリベラルの息子のツィートを引用して「このバカ! クソみてえなこと書いて頭おかしいんじゃねえの?」と嘲笑し、息子はその仕返しにと父親のツィートを引用して「こういう老い先短いネトウヨ馬鹿がいるから日本はダメなんだ。こんな奴とっとと処分しろ!」と激烈に罵倒した。それから父親と息子は互いが身内だと知らず「お前の親はまともな大学出てるのか? 一体どういう教育してんだ!」「うちの親父はバカ大学出のバカだからってそれがお前になんの関係があるんだ!」と激しく罵りあった。そして二人は母親が自分の身の不幸を嘆いて書いた「私は結婚相手を間違った。あんな男権主義的な人はいない。家事を少しも手伝わず、女性に母親としての役割を押し付ける。私は女性たちに言いたい。結婚するなら女性のありのままを尊重する男性を選びなさいと」というツィートを見つけたのだが、その反応は見事なまでに対照的であった。父親は当然のように「このバカ女! いつまでも夢見てんじゃねえ! テメエみてえを飼ってやってる旦那の気持ちも考えろ!」と罵り、逆に息子は母親のツィートをリプライして「酷いやつと結婚したんですね。もう話し合っても無駄だと思います。あなたは離婚して女性の自立を手に入れるべきですよ!」と励ました。

 今日も家族はTwitterでそれぞれの立場で発信し、気が済んだところで湯色を食べつために食堂に集まった。妻であり母でもある彼女は心の中で何もしない旦那と息子に呆れながら黙って皿をテーブルに並べてゆく。父親は早速箸をつけようとするが、その時妻がキツく睨んだので思わず箸を止めた。逆に息子は部屋で食べると言い出し、母親に感謝の言葉も言わず、おぼんに乗せた料理を手に二階へと上がって行った。夫もやがて食べ終わるとごちそうさまも言わずリビングでテレビを観出した。

 彼女は一人食器を片付けながらこの夫と息子への怒りを燃え上がらせ、Twitterで奴らをどう罵倒しようか考えている。出てくる言葉は限りない。言葉だけなら夫と息子をシベリア送りにすることは出来るが現実では全く無力だ。こうなったら本当に離婚届けを出して連中に絶縁状を叩きつけようか。しかし彼女はそうしたら今のような暮らしが出来なくなる未来を考えると怖くなり、やがて現実から離れるようにTwitterに向かって文章を書いてゆくのだった。

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