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彼女に嘘はつけない

 彼女に嘘はつけない。黙っているなんてもっと出来ない。それなのに僕は今彼女が被告人の二人だけの最高裁の証言台に立っている。被告人の彼女はさっきから証言者の僕を救いを求めるかのように見つめていた。でも答えなくちゃいけない。だけど、だけど僕は彼女には嘘がつけないんだ!嘘で騙してもいずれ彼女は真実に気づく、そして深く傷つくんだ。そうならいっそ全部本当の事を言ってしまえ。全部洗いざらい白状してやれ。

「ねぇ、いつまで黙ってんの?さっきからこの可愛いワンピ私に似合ってるかって聞いてんのよ!」

「似合わないよ。確かにそのワンピは可愛いよ。だけど君には宿命的に、運命的に、超絶的にあり得ないぐらい似合わない。それがどうしてかわかるかい?それは君が、宿命的に、運命的に、超絶的に、科学的に、骨格的に、造形的に、美学的に、ありえないぐらいブスだからだよ。君がそのワンピが似合うようになるためには韓国かモロッコに行って全身整形するしかない。僕だってこんなことは言いたくないよ。だけど僕は君には嘘がつけないんだ。どうして嘘がつけなかったんだ!許してくれ!馬鹿正直な僕を責めないでくれ!」

 僕がこう言うと彼女は俯いて体を震わせた。と同時に目の前が真っ暗になった。僕は何事かと思って見渡したら、周りはいつの間にか喫茶店から裁判所のようなものへと変わっていた。僕は驚いて彼女の方を見た。したらなんと彼女もいつの間にか裁判官みたいな格好に着替えて厳しい顔で僕を見ているではないか。ブスの彼女はトンカチで机を叩いて僕に判決を下した。

「え〜っと、あなたは今すぐ死刑。超死刑!テメエ人に向かってよくもブスだなんて言ってくれたな!今すぐ縄持って来させるからちょっと待っとれ!」

 そして死刑執行の前に彼女は僕に言った。

「死刑の前に懺悔とかない?私をブス扱いしたのを間違っていたって認めたら情状酌量ぐらいしてあげるけど……」

 彼女は温情からか首に縄を掛けられた僕に救いの手を差し伸べた。だがそれは結局彼女が僕という人間をまるで理解していなかった証拠でしかない。僕は今までずっと嘘をつかずに生きてきた。だからたとえその結果命を失う事になろうとも僕は最後まで嘘をつかずに自分に正直に生きる。僕は首に巻きつく縄に若干の息苦しさを感じながら彼女をきっと睨んでハッキリと言った。

「残念だけど僕には嘘はつけない。どう見てもやっぱり君はブスだよ。宿命的にも、運命的にも、超絶的にも、科学的にも、骨格的にも、造形的にも、美学的にも、そして法学的にもありえないぐらい君はブスなんだよ!良い加減現実に目覚めて自分がブスだって事を認めてくれ!」

「やまかしい!今すぐ死ね!」

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