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ウェルテル二世の最期

 若きウェルテル二世はロッテ二世に本気の恋をしていた。彼女のためなら死ねる。本気でそう思っていた。だがウェルテル二世にはその思いを伝える勇気がなかった。なぜなら彼は普段から他人と喋ることが苦手で、特に好意を抱いている人を前にすると一言もしゃべれなくなるからだ。いざ彼女に告白しようとしても頭が真っ白になって言葉が出てこないだろうとウェルテルは思った。ウェルテル二世はロッテ二世を激しく思いながら何もできず悶々と日々を過ごしていた。しかしウェルテル二世はロッテ二世への想いを胸に秘めていることに耐えられなくなってきた。

 ああ!もはや耐えられぬ!こうして部屋に引きこもってもロッテ二世への想いは頭の中に膨らんでくる。どうしたらよいのか。このまま手をこまねいていたらきっとどこかの領主がロッテ二世をめとって私が一生することがないことをロッテ二世に毎日するのだ。ああ!耐え切れぬ!そうなったら私は死ぬしかない!

 ウェルテル二世は悩んだ末に死ぬことに決めた。自分のロッテ二世への恋はこの世ではかなわぬもの。ならば誰ぞがロッテ二世をものにする前に命果てよう。そうすれば彼女は私の中で死に至るまで永遠に美しく輝くのだ。だが、とウェルテル二世は考えた。だが、このままロッテ二世に何も伝えずにこの世を去ってよいのか。私という人間がいたことを、私という人間が彼女を命を懸けて恋していたことをロッテ二世に知られずに命果ててよいのか。いや、良いわけがない。ウェルテル二世は彼女に恋文を書こうと思った。だが書き出しそうとした瞬間、頭が真っ白になって便箋を破り捨ててしまった。ダメだ私には恋文など書けぬ。一度も女というものと話したことのない私には恋文の書き方などわからぬ。彼はならば詩を書こうと思った。詩ならゲーテやシラーはだしのものは書ける。詩は文学だ。言葉の芸術だ。我が恋を天上の高みにまで上げてくれるに違いない。だが、詩も失敗に終わった。彼は詩を書きだして自分の言葉に恥ずかしくなってしまったのだ。ああ!こんな気持ち悪い詩を読んでロッテ二世が喜ぶはずがない。彼はまた便箋を破って机に頭を叩きつけた。どうすればよいのだ。俺はこのままロッテ二世に愛の証の一つも見せることも出来ずに死んでいくのか。ウェルテル二世は三日三晩悩みまくった。悩みまくりすぎて一晩中絶叫してしまい警察に通報された。

 ウェルテル二世が小説を書こうと思い立ったのは留置場の中である。そうだ。詩がダメだったら小説を書けばいい。小説なら自分の想いをもうちょっと客観的に描くが出来る。彼女を初めて見た日から今までどのように思い続けていたか。事実をありのままに書くことでロッテ二世に自分の想いを伝えることが出来るはずだ。釈放されたウェルテル二世は近所のおばさんの冷たすぎる視線にさらされながら自宅に戻ると一心不乱に小説を書きだした。ウェルテル二世は書きながら激しくロッテ二世の事を思った。これは文字通り命を懸けた創作であった。ロッテ二世よ。この物語は私の命ごとあなたに捧げる。あなたと付き合うのは現実では到底かなわぬが、この物語ならあなたと私は永遠に結ばれる。ウェルテル二世は小説を書き終えた瞬間激しく号泣した。ロッテ二世よ、コアラのマーチよ。この小説を暴走半島の馬車であなたに贈ろう。せめてあなたの心にマジックを点灯させるために。

 ウェルテル二世は机に銃を置いてロッテ二世からの返事を待った。小説は送ったのだから死ねばいいと思ったが、やはりマジックを点灯の奇跡を見たかったのである。ロッテ二世が自分の小説に心動かされてチャンピオンズリーグに上がることが出来てロッテ二世と結ばれる夢を捨てることが出来なかったのである。ロッテ二世!お願いだから私に返事をしておくれ!私の暗い人生にマジックを点灯させておくれ!

 その時奇跡が起こった。なんとロッテ二世から返事が来たのだ。暴走半島の馬車の運転手は彼に分厚い郵便物を差し出しロッテ二世からの贈り物で~すと陽気に言った。しかし彼はその分厚い郵便物を見て不安に思った。まさかロッテの奴バットも振らずに私の小説を敬遠したのか!ウェルテルは激しく波打つ胸の鼓動を手で押さえ郵便物を開けた。するとなんとそこにロッテ二世のグラジオラスのような美しい筆跡で書かれた便箋があるではないか。ウェルテルは嘗め回すように便箋を顔に近づけた。

『ウェルテル二世さん。ご献本ありがとうございます。見知らぬ方から突然ご本をいただいてびっくりしています。ママはこんな怪しい同人本早く捨てろと言われましたが、私には本を捨てるなんてできませんでした。それで昨日の就寝前にお部屋でウェルテル二世さんのご本を読ませていただきました』

 ウェルテル二世はこのロッテ二世の手紙に大喚起した。ああ!やはり私と彼女は結ばれる運命だったのだ!もう自殺なんてやめだ!早く彼女の元に行ってプロポーズしなくては!私たち二人はリーグ優勝しなくてはならないのだ!ウェルテル二世は歓喜に満ちて便箋の続きを読もうとしたが、その瞬間どん底に叩き落された。

『ご本を読んだら無数の誤字脱字と、文法の誤りが見つかりました。あなたは多分小説家になりたくて私に小説の出来の判断を乞うためにこうして小説を送ってくださったのでしょうが、お気の毒ですがあなたの小説は小説として全く体をなしていません。でも私はそれではあなたが可哀そうだと思って、差し出がましいですが、あなたの小説のほとんどのページに赤ペンを入れさせていただきました。かなり厳しい言葉でダメな理由を書きましたが、これもあなたの将来を思ってのことです。ではこれにて失礼します。あなたの将来にご多幸あれ!』

 ウェルテル二世はロッテ二世の手紙の衝撃に思わずよろけた。その時彼は間違って銃の引き金に指を突っ込んでそのまま引いてしまったのだ。部屋中に銃声が響き渡った。ウェルテル二世はこうして叔父の若きウェルテルそっくりそのまま真似るかのように死んだ。


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