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カリスマミュージシャンテレビゲームに出る

 アイザック・グレゴリーはメロディック・メタルバンドエターナル・ウィザードのリーダーでギタリストであった。彼は神の子と呼ばれそのあまりにテクニカルなギタープレイは光のギターと称されていた。そのアイザックは先日突然エターナル・ウィザードの解散を発表した。この解散発表は他のメンバーの寝耳に水でメンバーは揃ってこれは解散という名の不当解雇であり今から告訴の準備を進めると声明を出したが、アイザックはそれに対してメンバーを能無しのゴキブリ共と罵り、今までコイツらが自分の足枷になっていた。俺には新たな変化が必要なんだとコメントを出した。アイザックは常々天才の自分がメタルという狭い世界で埋没していい人間ではないと思っていた。先祖はスウェーデンの伯爵で幼き頃からクラシックを学んできたこのメタルの貴公子はその王子様丸出しのルックスを生かしてオーバーグラウンドに旅立ちたかったのである。

 解散しソロとして再出発するであろうアイザック・グレゴリーの去就は当然各所で注目された。ソロはどういう音楽でやっていくのか。もしかしたらメタルを卒業してメインストリーム向けの音楽をやっていくのか。もしかしたらアイザックがボーカルもやるんじゃないか。彼の歌はユニゾンでしか聴いた事はないがなかなかの美声であった。ボイトレしてボイスも鍛えたらボーカリストとしてもやっていけるんじゃないか。あるいはイケメンのルックスを生かして俳優デビューするんじゃないかという噂も立った。この俳優デビューの噂に関してはメタルの貴公子のアイザックに王子様以外の演技ができるもんかとの反発もあった。ファンはアイザックの去就についてこのような事を予想していた、

 しかしアイザック・グリゴリーのソロ活動の第一声はファンや野次馬の予想を完全に裏切るものだった。彼のソロ活動の開始のニュースが流れた瞬間ファンは皆腰を抜かした。なんとアイザックは彼主演のビデオゲームの発表をしたのである。アイザックによるとこのゲームは世界No.1のソフトメーカーペセスタとの共同制作のMMORPGでプレイアブルキャラクターは全て彼だそうだ。そのゲーム『アイザック・グレゴリー 〜光のギター』の内容は主人公のアイザック・グレゴリーがギター一本で世界を救うというRPGの世界ではありきたりの話であるが、主人公のアイザックのキャラクリは彼の協力のおかげで異常に豊富で、少年時代のアイザックやバンドでデビューした頃のガンズアンドローゼスの影響丸出しのアイザックやブレイクした頃のアイザックや最近のアイザックなど多種多様のアイザックが楽しめる。勿論衣装は好きにきがえても構わない。例えば少年時代のアイザックにブレイク後の派手なメタルスーツを着させてもいいし、今のアイザックに少年時代の制服を着させてもいい。これはアイザックファンの女子にとっては垂涎ものの内容であった。アイザックはこのゲームをただのゲームではなくて今後は自分のメディアにする事を考えていると語り、さらに制作中のファーストアルバムもゲーム内で発表したいと続けた。

「勿論アルバムだけじゃなくてライブもここで配信するつもりさ。今後の俺の全活動はこの『アイザック・グレゴリー 〜光のギター』に集約される」

 アイザックスは発売前のテスト版で自分を操作しながらオーディエンスが始めてこのゲームを触ったら速攻でハマるに違いないと恍惚となった。きっと無数のアイザック・グレゴリーが俺を探すに違いない。色とりどりの衣装を着た俺、そいつらが「アイザックここにもいない?」とか俺に向かって「あなたアイザックじゃないわよね」とか口々にコメント吹きながら俺を操作しているんだ。たまらねえよ。世界中が俺だらけだ。

 そしてとうとうアイザック念願のゲーム『アイザック・グレゴリー 〜光のギター』が発売された。アイザックは発売日の朝起きるとすぐPCを立ち上げてゲームのアイコンをクリックした。長いロード時間の間、彼はファンたちが大勢集まって自分を待っている姿を想像して期待を膨らませた。連中はもしかして裸で俺を待っているかもしれない。いろんな時代の俺の裸でキャッキャしながら。フッ、モービー・ディックを大きめにして良かったぜ。ファンはきっとアイザックってやっぱりデカかったのねなんて思って俺を待っているはずいざ飛び込め!このアイザック・グレゴリーによる、アイザック・グレゴリーのための、アイザック・グレゴリーの世界にようこそ!

 アイザック・グレゴリーは自分のキャラを輝かしく見せるために股間に金のオリーブのパンツを履かせ、光のギターを持たせた。その格好でゲームの開始地点である草原に降り立ったのだが、そこには何故か誰もいなかった。一人のアイザック・グリゴリーもいなかったのである。アイザックは慌ててPCのデスクトップ画面をみてこれがデモ版でない事を確かめた。ちゃんとした製品版なのになんで誰もいないんだ。アイザックはもしかしたらみんなすでに街へ行ったのかと思って街へと移動した。フッもしかしたらみんなメタルホールにいるのかもしれない。全く俺のファンは気の早い連中ばかりなんだから。ライブなんてまだやんねえっての。でもみんなが集まってたら特別に一発やってもいいかなと、一旦PCから席を外して部屋の壁からギターを持ってきた。これにエフェクターとアンプを繋いで、PCに繋げりゃ生でライブできるぜ。イかせてやるよベイビーと準備を終えたアイザックはメタルホールの中へと入った。しかしそこにもアイザック達はいないではないか。アイザックはもしかしたらアクセストラブルが起こってみんな入れないんじゃないかと考えた。しかし彼は街の掲示板にでっかく書かれた文字を見てキーボードから手を離してオー!と呻いて頭を抱え込んだ。そこには公書かれてあった。

『このゲームクソゲー。みんなやらない方がいいよ』

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