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ノンタイトルで生きる

 人生はノンタイトル。だってタイトルをつけでも裏切られるから。私はそう思って毎日を生きている。タイトルなんか捨てて無勝手流に生きてやれ。タイトルで自己主張してなんになる。そんな風に自分を演出してもメッキなんかすぐ剥がれる。だから私はいつもノンタイトルだ。仕事はいつも無勝手流。契約なんかに縛られない。私はクライアントの前で契約書を破ってやった。私たちに契約書なんて必要ないでしょ?解き放つのよ。この契約に縛られた馬鹿げた世界から。粉雪のように紙が舞い散るオフィスを抜け出して二人で新たな世界へと旅立とう。日の差す方へ、タイトルのない素敵な明日へ。だけどクライアントの社員は私と一緒に来なかった。どうしてあなた何を迷っているの?そんなに契約に縛られた人生に未練があるの?あなたは他の人とは違うと思っていたのに。彼は言った。

「君ね、こんな事してただで済むと思ってるの?」

 幻滅だった。こいつもやっぱりタイトル好きの平凡な人間だった。人生の目標とやらに縛られてフリーを見失った哀れで凡庸な人間たち。アンタなんかこっちからおさらばしてやるわ。私はマジックでこいつの頭に馬鹿と書いてやった。あなたにはそのタイトルがお似合いだわって。

 その翌日私は朝来るなり課長から呼び出された。クライアントになんてことしてくれたんだ今すぐやめろという。本来なら懲戒免職なんだが何でも社長の温情で退職処分になったらしい。私はこんな大げさなタイトルばかりつけたがる凡庸な人間しか会社なんて今すぐやめたかったから、懲戒免職でも何でもすればいいと思っていたからどうでも良かった。そんな私に課長はとっとと退職届を書けという。知った事か。私は財布に入っていたレシートに『じゃあやめます』と書いて課長のおでこに貼り付けてやった。課長はふざけんな退職届もろくにかけんのかと私を罵ったけど、そんなもの関係ない。だって私はいつもノンタイトル。タイトルなしの人生を送っているから。


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