桐島あお

本を読んだりお話を書いたりするのが好きな大人。百合小説を文学フリマに出したりします

桐島あお

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マガジン

  • 性欲に差があるカップルと公認のセフレがストリップを観る百合

    性欲に差があるカップルと公認のセフレが三人でストリップを観に行く百合小説です。絵は岡藤真依さん(@maiokafuji)の作品。

  • 25℃の嫌悪

    2015年に発行した短編小説集。完売から時間が経ったのでweb再録します。絵は岡藤真依さん(@maiokafuji)の作品。

  • 顔が生まれる(ストリップ劇場のポラ列からはじまる百合小説)

    黒井ひとみさんの素敵なつぶやきから生まれた作品のまとめ。最終話は冊子版のみ収録しています。 「話を面白くしようとするあまり盛ってしまった表現があります。ストリップは法律を遵守する風俗です」

  • しずむ深爪(ストリップを観てからホテルに行く百合小説)

    ストリップを観てからホテルに行く百合小説。最終話は冊子版のみ収録しています。絵は岡藤真依さん(@maiokafuji)の作品。

  • わたしたちはきれいに死ねない

    2020年に発行した「女と女のエモい関係性」がテーマの百合短編小説集。完売から時間が経ったのでweb再録します。タイトルのイメージほど物騒ではない(はず)。関西弁の女の子多め。ふしぎなお話も。絵は岡藤真依さん(@maiokafuji)の作品。

最近の記事

20240615大和ミュージック感想

はじめての大和ミュージック! 方向音痴なので駅から迷ってしまったのだけど、帰りにあらためて歩いたら駅からめちゃくちゃ近かった笑 天羽夏月さん フィナーレの、●(ネタバレかもなので自粛)たちにいじめられるイケナイ姿を見たあとなので演目中ずっとどきどきした…なんかこう、子どもの頃に後ろめたく思っていた妄想を可視化されたような…! そして周りを囲む光る●たち。笑っちゃってて可愛かったし、あの状況でちゃんと踊ってらしてすごい!!笑 OPの選曲まで作品への愛を感じて好きでした。

    • #月島書簡 4

      早月くらさんへ こんにちは。まちライブラリー、日がたっぷりあたって、歌集がたくさんあって、いいところだったね。連れて行ってくれてありがとう。 先日(二〇二三年十二月十三日)朝日新聞夕刊に掲載された連作「近影」、とてもよかったです。特に一首め、わたしは突然のお誘い常習犯なので「約束は急にするほどあざやか」の言葉に救われた気持ちになりました。笑 これからも急に誘います! どの歌もしずかで美しく、それなのに遠すぎる存在ではないというか、見逃していたけれど自分にも確かにこういう

      • #月島書簡 3

        早月くらさんへ こんにちは。夏日が来たと思ったらまた気温が下がりました。ひさしぶりに家の湯船にお湯をためたら、3時間くらい入ってしまった。 くらさんのうたの日デビューが同年八月十日なので、かなり初期の作品ですね。同じ題にわたしも出詠していて、選を終えたあと遙禽すみさんとお互いの歌を予想し合ったら、二人ともこの歌が相手の作品だと予想していた、というエピソードがあったのでした。とても好きな歌だったので「早月くら」がすごく印象に残って、この人のお歌すきだわ! とじっとり想い続

        • #月島書簡 2

          早月くらさんへ 先日はお返事をありがとうございました。「月島書簡」第一回、いろんな人に読んでもらえてうれしかったね。 コミュニケーションの瞬発力の件、よくわかります。あとになって言えばよかった、聞きたかったと思うことたくさんあるよね。逆に、言わなければよかった! と身悶えることも少なくないので、とかくに人の世は住みにくい。 平安時代、和歌は素敵だなあと思うけど、わたしは綺麗な水洗トイレがないと暮らせないタイプなので現代で頑張ろうとおもう。 早月くらに、わたしの短歌につい

        20240615大和ミュージック感想

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        • 性欲に差があるカップルと公認のセフレがストリップを観る百合
          1本
        • 25℃の嫌悪
          11本
        • 顔が生まれる(ストリップ劇場のポラ列からはじまる百合小説)
          4本
        • しずむ深爪(ストリップを観てからホテルに行く百合小説)
          3本
        • わたしたちはきれいに死ねない
          8本
        • スト感想
          12本

        記事

          #月島書簡 1

          早月くらさんへ こんにちは。先日は突然のお誘いに乗ってくださりありがとうございました。「酔っぱらった早月くら」が見てみたくて、お茶のあと自分から飲みにも誘ったのに、早月くらはお酒に強いのが計算外でした。ハイボールおいしかったね。またお茶もお酒も行きましょう。 さいきん、自分のなかの「覚えていてほしい」願望についてよく考えます。たとえば個展(来てくれてありがとう!)のあと、誰かがすこしでもこの個展を覚えていてくれますように、という気持ちがすごくあって。どんなに大切なことでも

          #月島書簡 1

          性欲に差があるカップルと公認のセフレが三人でストリップを観に行く百合小説①

          十七時半に定時で仕事を終えてから、三十分あれば東京駅に着く。そこからうまく新幹線に乗り換えてしまえば、熱海は思ったほど遠くない。もっと休みが取れれば在来線でゆっくり向かってもいいのだけれど、三人の予定を合わせるにはどうしても今日、終業後に新幹線に飛び乗るのが一番効率良く事が進むのだった。 ≪上がれたよ! 大手町から歩くね≫ ≪おつかれさま 宮田と舞ってる≫ 届いた返信はすぐに取り消されて、正しい漢字に訂正されたあとさらに≪誤字った 再送≫という文言が続いた。今日子ちゃんの

          性欲に差があるカップルと公認のセフレが三人でストリップを観に行く百合小説①

          #花二輪展 展示紹介テキスト

          2023年8月1~31日に、高円寺にあるShisha&Cafe Celluloidさんにて、わたしの百合短歌を集めた個展を開催させていただくことになりました。 会場ではわたしの既刊「花二輪」に掲載している百合短歌連作、そして大好きな漫画家の岡藤真依さんの原画(桐島の私物)をたくさん展示します。 また、大好きな踊り子である黒井ひとみさんの演目をイメージした新作の百合短歌、そしてそれをイメージして描き下ろしていただいた岡藤さんの新作も展示いたします。 物販やトークショー(8

          #花二輪展 展示紹介テキスト

          ざくろ

          五歳のころ。私立小学校を受験することになったわたしは、はじめて塾に通った。することになった、と言うと母は怒る。人が決めたことみたいに聞こえるから。自分で決めたことには自分で責任を持ちなさい、と母はよく言った。はじめて塾に行く日、母とランチに入った店のオムライスは学生仕様なのか異常に大きく、食べきれない、とすぐにわかった。けれど自分で決めたメニューだから、ばかに大きなスプーンに少しずつケチャップライスを乗せながら、とても長い時間をかけて全部をたいらげた。わたしが食べ終わるのを待

          雨に咆哮

          学校から駅までを結ぶ長い長い帰り道、リリコと二人音楽を聴いて歩いた。リリコは私よりずっと背が高いから、歩幅がずれるたび分け合っているイヤホンがたわむ。外れそうになるそれを中指で抑えて、重い鞄を肩に掛けたり肘に掛けたりしながらよたよたした足取りで帰り道を進んだ。 醜さのあまり群れからもれたライオンが、さみしく死んだあと花になりましたっていう悲しいくせに軽快なリズムの音楽は、リリコの好きな歌。私には歌詞の結末が美しすぎてとっつきにくい感じだけど、リリコが嬉々として見せてくれる歌

          サイレント

          チカちゃんは恋人がいると言う。 「ねえこの子あんたに似てない?」 ひどい、と私は思う。チカちゃんの言うその赤ん坊は猿みたいだから。チカちゃんは私の返事がないなんてどうでもいいみたいに振る舞い、赤ん坊にばかり構った。親戚の子どもだというその子は、チカちゃんにぜんぜん馴れないみたいでよく泣いた。赤ん坊が泣きだすたびにチカちゃんはその子のオムツを外し、汚れていないそれを丁寧に取り換える。期待外れの接待しか受けられない赤ん坊は発情した猫みたいな声で騒ぐけど、涙が呼ぶものはオムツの

          サイレント

          盲の蛙

          へびは恥じていました。手足のないことが恥ずかしくなったのが、いつのことだかへびにはもうわかりません。生まれたころは気にもしませんでしたのに。一度芽吹いた思いはどうにも腑の裏にこびりついてしまって、いくら身体を地面になすくったとて剥がれるものではないのです。何にも会いたくないけれど、何もいない場所というのは見あたりません。トリもネズミも、ムシでさえ、手足のようなものをぶらさげています。舌を弾ませると、彼らのにおいが、熱が、頭に直接なだれ込むようでした。 目のあまりよくないへび

          エスケイプ

          「誰か犯してくれへんかなぁ」 まりはそんなふうに言った。紙パックのレモンティーにさしたストローを噛みしめて。まりの隣では声の大きいグループが、スマホを眺めながら笑っている。私たちの教室は窓が大きくて、ふんだんに日が差すぶんものすごく暑い。クーラーの冷気も窓側ではほとんど意味がなくて、カーテンを閉じたまま窓を開けて風を通すから、さっきから何度もカーテンが翻る。それをじゃまそうに手で払いながら、それでもまりが席を変えないのは外に近いところに居たいから。 まりは時々、こういうこ

          さよならベイビー

          「るうちゃん。ごきげんようって、言って?」 言いながら姉は、こころもち首を傾ける。玄関を開けてすぐ、目に飛び込んだ姉の姿に動じ、背負ったラケットバッグがちいさく跳ねた。高校を出てすぐに家を出た姉は、しばらく顔を見せない間にすこし肉づきがよくなっている。微笑んで高くなった頬が、光を抱いたようにほの明るく見える。こんなふうにして、恥じらいもせず百点の笑顔を見せられるのは、自分がきれいだと知っているからだ。 姉がわたしの姉になったのは、五年前のことだった。病死した父とは違い、恰

          さよならベイビー

          はりがゆれる

          私の可愛いひとは正直なので、私のどこが好き? などと腑抜けた質問をしようものなら「あたしのことが好きそうなところ」なんて言葉が容赦なく返ってくる。こういう言葉にいちいちシュンとしてしまうあたり、私にこのひとは荷が重いというか合わないのだろうとは思うのだけど、私は私でこのひとの顔かたちが気に入っているという理由で好いているのだから、ダメになるまでは頑張ると決めている。私は不正直なので、口に出しはしないけれども。 正直で可愛いこのひとは私よりも三つ歳が若いので、私はそれはもう猫

          はりがゆれる

          プリズム

          きょうが晴れていなければいいのにと願いながら、屋上までの薄暗い階段を上る。教室は一面が大きな窓になっているけれど、日焼けを嫌う子が多いから厚ぼったいカーテンはいつも閉ざされている。静まり返った授業中よりも、賑やかな昼休みの方が息苦しく感じてしまうのはどうしてだろう。そして、そんな教室から連れ出してくれる彼女が望んでいる通りの晴れ間を、私が期待できないのはどうしてだろう。今日が晴れていなければいいのに。 耳の奥を掻くような、不快な音を立ててドアが開く。ノブを引いて、重たいドア

          春は戻らない

          その日が来たら死のうって、そう思っていた瞬間はあっさりと訪れた。 「好きな人ができたの」 私が大切に大切に、世の中のいやなものから守ってきたはずの彼女はいつもの柔らかい笑い方でそう言った。奥二重でまつ毛がすごく長くて、笑うと黒目がちになる。私の大好きな表情で、可愛いこの子は世界の終わりを教えてくれる。 手を離したのは私のほうだった。あの子を守るだけの私をやめたくて、地元から離れた大学に進学を決めた。それなのに、彼女の一言でおかしいほど気持ちが乱される。 彼女はずっと、

          春は戻らない