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#月島書簡 4

早月くらさんへ

こんにちは。まちライブラリー、日がたっぷりあたって、歌集がたくさんあって、いいところだったね。連れて行ってくれてありがとう。

先日(二〇二三年十二月十三日)朝日新聞夕刊に掲載された連作「近影」、とてもよかったです。特に一首め、わたしは突然のお誘い常習犯なので「約束は急にするほどあざやか」の言葉に救われた気持ちになりました。笑 これからも急に誘います!

どの歌もしずかで美しく、それなのに遠すぎる存在ではないというか、見逃していたけれど自分にも確かにこういう瞬間が(実際の風景ではなく心象風景として)あったな、と思わせてくれる近しさを感じました。くらさんの歌を読むと、見逃していただけで自分にもちゃんときれいなものが見えていたんじゃないかな、と信じたくなる。

最後の一首、歌そのものの良さもさることながら、タイトルとのつながり、そしてまさに「近影」と一緒に掲載されるという仕掛けにグッときました。かっちょいいぞ早月くら!

前回の月島書簡でくらさんが書いていた「読者がその歌に想像力を働かせた時点で、その想像の行き着く先が作者の狙いと多少違ったとしても、読者の心に入り込むことには成功している」に納得です。誰かの心に入り込んで、思い出してもらえる歌がつくれたら嬉しいなといつも思う。

そして、想像させる以前に「問答無用で生活(人生)に入り込むパワーのある歌」もあると思っていて、わたしにとってそのひとつが

さよならの中で最もうつくしい「よいお年を!」と揺れるてのひら/早月くら

うたの日二〇二一年十二月十日、
LUXEうたカレ二〇二三年十二月


です。これは! 年末に絶対思い出す! これを読んで以来「よいお年を」と言うときは手を振らずにいられない。

そんなわけで、きょうは二〇二三年の大みそかです。仕事納め以降、家では自分の部屋の片づけに四苦八苦していました。とにかくモノが多い……。ふるい手紙、使いかけのマニキュア、読み切れていない本。片付けのハウツー本なら「捨てる」一択であろうあれこれを、結局処分できずにただ移動させています。つい昔の日記を読み始めたりして。嫌なことを思い出したわけじゃなくても、昔のことを一気に振り返るとすごく疲れるのはなぜだろう。「いま」がぐらつく感じがするからかな。忘れるって大事な機能なんだなぁと思います。

ひとを招待するのがいちばん片付けの原動力になるので、よかったらいつかあそびにきてくださいね。

引き受ける痛みもあって冬椿いまがすべてと思いたかった


桐島あおさんへ


こんばんは。あっという間に2024年も半月以上経ってしまいました。こうしているうちに一年がまた終わってしまうのでしょうか。こわすぎる…。

「近影」、丁寧に読んでいただきありがとうございました。嬉しい!
特に嬉しかったのが「見逃していたけれど自分にも確かにこういう瞬間があったな、と思わせてくれる」というところです。ソール・ライターという写真家が好きなのですが(ストリート写真がかっこ良いんです)、その写真集の随所に添えられている本人の名言(?)のひとつに「写真を見る人への写真家からの贈り物は、日常で見逃されている美を時々提示することだ」というものがあります。わたしが初めてこの言葉に出会った時は写真を撮るひととして読んだわけなのですが、巡りめぐってまさか短歌でこれができるとは…かなり感激してしまいました。

さて、前回あおさんのお手紙に書いてあった「モノが多い部屋」、わたしも!です。思い出の品々は引越しでもしない限り手放せないだろうとなかば諦めていますが、せめて読み切れていない本を読み進めたい。短歌を始めてからは読書ラインナップに歌集が加わり、常に何冊も読みかけがあるのが拍車をかけているのだと思います。ひとまず部屋のなかに散らばった未読〜読みかけを集合させてみたところ、未読の塔が生まれてしまいました。なんてこった…。この塔を崩してわたしの糧にしていきます。

「忘れるって大事な機能なんだなぁ」にもすごく共感しました。すべてをそのまま憶えておくことはもちろんできなくて、いつか思い出したいかもしれないことは言葉や写真で外部に残しておくんですよね。忘れる↔思い出すを繰り返すほど、記憶がぎゅっと凝縮されるような気もします。ぎゅっとなった記憶が脳の中に(一時的にでも)居座る感覚が、あおさんの言っていた「いま」がぐらつく感じにも繋がるのかもなあなんて思いました。わたしは日頃から記憶の外部化に頼りすぎているような気がしていて、たとえば「最近おもしろかった映画は?」とかでもすぐに思い出せないのでうまいバランスを見つけたいなと思っています。(最近おもしろかった映画は「カラオケ行こ!」です。漫画の原作も好きで、笑いを待ち構えながらちゃんと笑う良さがありました)
月島書簡も思い出すきっかけになっています。感謝〜!!

半透明の墓守りが来て裏庭に埋もれたいまをときおり磨く



早月くらさんのnote

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