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しずむ深爪(ストリップを観てからホテルに行く百合小説)

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ストリップを観てからホテルに行く百合小説。最終話は冊子版のみ収録しています。絵は岡藤真依さん(@maiokafuji)の作品。
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記事一覧

ストリップを観てからホテルに行く百合小説①

ストリップを観てからホテルに行く百合小説①

第一話

マスクを息苦しいと思ったことはなかった。顔を半分覆うだけで、呼吸はずっと楽になる。

「前の方、空いてるんじゃない?」

身軽な足取りで席を取りに行った千紗は、すぐに戻ってきて「荷物置いてあった」としょんぼり言った。薄いピンクのマスクに睫毛の影が落ちる。

「開演前でも結構人居るね」

辺りを見回し、後ろにある一段高くなった立ち見エリアに陣取った。ここには椅子がないけれど、体重を預けられ

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ストリップを観てからホテルに行く百合小説②

ストリップを観てからホテルに行く百合小説②

第二話

三回目の公演を途中まで見て、千紗と一緒に劇場を出た。空はすっかり暗いのに、大きな家電量販店が集まっているから辺りは煌々とあかるい。
劇場を出てすぐに入場料と写真代を千紗に差し出すと、千紗は三千円をわたしの手に戻した。

「毎回言ってるけど、入場料はいいってば。私も楽しんでるし。スタンプカードだって持ってるんだよ?」
「でも……」
「もう、じゃあアイスおごって」

ストリップ観たあとアイス

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ストリップを観てからホテルに行く百合小説③

ストリップを観てからホテルに行く百合小説③

第三話

みなとはとても優しい。
指でふれるときも、舌をつかうときも、からだのパーツではなく「わたし」を見ているのがちゃんとわかる。みなとは目を合わせるのがすきじゃないみたいだけれど、たとえ視線が合わなくても意識がちゃんとこっちを向いている。

「くすぐったいよ」

靴擦れのあとを舐めてくれるみなとはわたしと目が合うと、照れくさそうに目を細めて笑う。いつもマスクで覆われている頬は上気して、普段から

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