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妄想スパイス・トリップ#1 「ストロベリーシェイク」

〜一枚の写真から広げる妄想の旅。平凡な日常にスパイスを〜

近所のアメリカンダイナーで働き始めて3ヶ月。ようやく英語も慣れてきて、お客さんと細かいコミュニケーションも取れるようになってきた。
忙しいランチタイムも終わって一息ついた頃、毎日同じ時間にやってくるクセ毛の男性客に、いつもと同じようにストロベリーシェイクとポテトをサーブする。彼はポテトをシェイクにディップして食べるのが好きらしい。日本からはるばる米国へやってきた私にはその組み合わせがずっと不思議でたまらなく、意を決して「いつもそうやって食べてるけど美味しいの?」と聞いてみた。彼は何も言わずにポテトを一本、私に差し出す。恐る恐るシェイクにディップして口へ運ぶと、甘じょっぱさとしなったポテトの食感が癖になるコンビネーションになって口の中に広がった。

「イケる」と言った私に彼は笑って「でしょ?」と言う。
「やっと話しかけてくれたね」
「え?」
「君に覚えてもらうために毎日ポテトとシェイクを頼んでたんだよ」

頬がほんのり熱を帯び始めたとき、名前と電話番号が書かれたレシートを渡された。「僕はもうここには来ないから、僕のことを思い出したら電話してね」と言って、20ドル札をテーブルに置き、彼は店を出ていった。
私の口の中には、ストロベリーシェイクの甘さだけが残っていた。

#っていう世界線どこ?

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