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創造的な人生の持ち時間は10年。君の10年はどうだったかね? /『風立ちぬ』【#9: #思い出の映像作品 】

ジブリは問いかける。「夢を叶えるために、全力を尽くしたか?」と

カプローニ「ブラボー 美しい夢だ。創造的な人生の持ち時間は10年だ。設計家も芸術家も同じだ。君の10年を力を尽くして生きなさい。

この言葉に出会ったのは、2013年夏。新宿バルト9のスクリーンで、宮崎駿監督作品『風立ちぬ』を観たときのこと。就職活動を控えていた私は、これから訪れうる「10年」に憧れ焦がれていた、はずだった。

それから5年後が過ぎた、2018年の夏。私は、この言葉を渋い表情で見つめ返している。「自分の10年って、いつなんだろうか?」と。

戦時中の運命を受け入れた、才人の物語

大学時代から脳裏に焼き付いているこの物語について、説明をしたい。

主人公・堀越二郎は、「零式艦上戦闘機」を設計した人物。幼き頃から、夢に現れた飛行機の設計家・カプローニ伯爵に励まされ、飛行機の設計家になることを志していた。大学卒業後、飛行機の開発会社に就職し、5年目にはチーフに大抜擢される。しかし、戦時下にあったために、その希望と才能は爆撃機製造に費やされることとなった。

そこで描かれる主人公は、好青年ながらも「大軍需組織の中でみなに認められ、平然と世わたりしつつ、自分の美しい飛行機を創りたいという野心をかくしている」という人物どころ。時代背景に抗うことなく、受け入れながら、自らの才能を開花させる機械を虎視眈々と狙っている。状況は違えど、現代人もそのまっすぐな生き方には、背筋の伸びる思いがある。

「昔の人は生き方が潔いのだよ。必死に生きようともがく感じではなく、与えられた時間を精いっぱい生きている、そんなイメージで演じて欲しい」

そんな登場人物を演じる声優たちに、宮崎監督は、こんなアドバイスをしたそうだ。彼の先人たちに対する敬意のまなざしが窺える。

"創造的な人生"の持ち時間が、終わるとき

『風立ちぬ』の物語は「太平洋戦争敗戦」という形で終わりを迎える。

二郎は「自ら実用的な飛行機を設計する」夢は叶えた。しかし、その飛行機(戦闘機)たちは一機も戻ることはなかった。戦いの末、日本は焦土となった。そして、戦争に翻弄されながらも二郎の夢が叶ったとき、最愛の人・菜穂子は病で帰らぬ人となる。

その後、彼の夢の中では、その最愛の人が「生きて」と微笑みかける。夢から醒めた二郎は、何もかも失われた敗戦後の現実の中で、生きていかねばならないことを悟ったのだった…という結末。

初めての鑑賞後、「二郎の夢は、戦争に消費されたのだろうか?」とモヤッとした感触が残ったことを覚えている。そこに答えてくれたのは、宮崎監督は企画書の言葉だった。

自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである。夢は狂気をはらむ、その毒もかくしてはならない。美しすぎるものへの憬れは、人生の罠でもある。美に傾く代償は少くない。二郎はズタズタにひきさかれ、挫折し、設計者人生をたちきられる。それにもかかわらず、二郎は独創性と才能においてもっとも抜きんでていた人間である。それを描こうというのである。

※宮崎監督による企画書

環境の影響はあれど、「キラッと光った才能は与えられた環境で咲いている」というメッセージを受け取った。二郎の生涯は、彼自身が運命を受け入れて生きたともいえるし、さらに肯定的に捉えれば「プランド・ハップンスタンス理論」の発想にも近い。

「モメンタム」の賞味期限は、10年?

冒頭の「創造的な人生は10年」という問いに対して、映画「私をスキーに連れてって」で有名な脚本家・一色伸幸氏も、以前このように記していた。

たしかに、(粒感は様々だが…)パッと思いついた人々の系譜を調べてみると…なるほど、不思議なことに「世間をあっと言わせる」のは10年程度だ。

坂本龍馬・・・1861年に土佐勤皇党に加盟し、積極的な政治活動を始める。薩長同盟の成立に尽力するなど、明治維新を推進し続けたが、1967年に京都・近江屋事件で暗殺される。
夏目漱石・・・1905年に『吾輩は猫である』で鮮烈なレビューを果たし、人気作を生み出し続けながらも、1916年に『明暗』で絶筆。
嵐(ジャニーズ)・・・結成は2001年だが、グループが時めき始めたのは、2009年頃のことと思う。ベストアルバム『All the BEST! 1999-2009』が初のミリオンセラー達成。オリコン年間ランキングでは、2部門で1位を獲得。『NHK紅白歌合戦』に初出場。そして、2018年となっては、追随を許さない圧倒的な国民的アイドルとなっている。

さて、この「創造的な人生・10年」への問いに対する、二郎の答えはこうだった。

カプローニ「君の10年はどうだったかね?力を尽くしたかね?」
二郎「はい。終わりはズタズタでしたが」

いつか来る「”自分なりの”10年後」に、果たして私は何と答えるだろうか。

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img:Photo by Pepe Reyes on Unsplashhttp://christophe.arribat.pagesperso-orange.fr/stofzeke5.jpg、映画『風立ちぬ』からのスクリーンショット

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