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つぶやいたもの

 夏は嫌い

 ぽつり つぶやいた声は誰かに届いたであろうか。いや、それはないだろう。誰もいないのだから。

 それとも、どこかの、誰かに、届いてしまったであろうか。

 燦々たる日差しを浴びて、暗き影の中に入りて、生命を謳歌する声や姿を目にして、燃やし尽くした生の残骸が映りて、私はそのすべてから目を逸らしたくなる。

 なぜ、こんなにも、こんなにも、夏というものは、命を燃やすことを強要してくるのだろう。

 エネルギーに満ち満ちて、かえって死を思わせるこの空気も、それを煽るような太陽の輝きも、すべてが。

 この空気に負けてしまえば、あっという間に死に至る。そんな、季節。

 この空気が象徴するものはまさしく、命の取り合いであり、弱肉強食であり、命が命を喰らい高め合うその果てのないエネルギーである。

 私もいつか、この空気に殺されてしまうのではないか。

 そんなことを、考えてしまう。

 しかし、命が命を作り、育み、めぐりゆくものならば、これほど生命が躍動し、いきいきとした季節もないのであろう。

 すぅーっ と風が抜け、ほんの一瞬 気の抜けるような、涼を感じる。

 夏のこの瞬間は好き

 ぽつり つぶやいた言葉は、誰かに届いてしまうだろうか。

 わからない、わからない、けれど。

 どちらの言葉も、私には届いている……かも、しれない。

 それで、いいのかもしれない。
 それだけで、いいのかもしれない。

 この日差しの中に私はいる。
 この空気の中に私はいる。
 この命の中に私はいる。

 ぽつり

 つぶやいて、みる

 

 

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。