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『それでも僕はここで生きる』

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連載小説です。ぜひお読みになってください。
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記事一覧

『それでも僕はここで生きる』最終話 #36.それでも僕はここで生きる

『それでも僕はここで生きる』最終話 #36.それでも僕はここで生きる

津波が引いた後、僕泣き続ける南をつれて松下が最初に船を止めて僕を下ろしてくれた、南の家がある集落の反対側のところに行った。
すると、そこには松下の船がまだあった。僕は松下の船に乗り込んだ。
南も一緒だ。松下は南を見て、とても驚いた顔をしていた。
「南!それにお前も、こんなところで何をしているんだ?」と松下。
リアクションが少しおかしい。
「お前、ずっと待っててくれたのか?」と僕。
「待ってた?そん

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『それでも僕はここで生きる』#35.救世主

『それでも僕はここで生きる』#35.救世主

#35 .救世主(メシア)

翌朝、僕は南の声で目が覚めた。とても素敵な朝だった。この生活が続けば良いのに、そう感じてしまった。この島に来て1日目で、すでにそう思ってしまうなど、かなり複雑な気分だった。ここに来てから、複雑な気分がどうも抜けない。
南は小さいながら、自分の家を持っており、そこで僕は二人でこの先数日間は過ごすことになる。この島の住人は基本自給自足で生活しており、恋愛や結婚も自由に行うこ

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『それでも僕はここで生きる』#34.邂逅

『それでも僕はここで生きる』#34.邂逅

#34 .邂逅

島に上陸した僕は島がどうなっているのかを確認することにした。島はかなり小さく、一周するのに三十分くらいしかかからなかった。だが、深部は木々に囲まれていて、そこを目指し、僕は歩みを進めた。
深い木々をかき分け、僕は開けた場所に出た。そこには人がおり、古風な集落が形成されていた。
ここに南がいるのか
僕はそのあたりにいた人に話を聞いてみることにした。
「すみません、ここに広瀬南さんはい

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『それでも僕はここで生きる』 #33 別離

『それでも僕はここで生きる』 #33 別離

33.別離

島に行く前に、松下にあった。松下とは、いつものバーに行って飲んだ。僕にとって最後の松下に会う機会かもしれない。松下には、南を探しに行くことを伝え、松下は僕の言い出したことに納得していた。少なくとも、変だと笑うことはなかった。
僕は松下に感謝し、一応場所と時間を教えておいた。
マスターにも事情を伝えた。マスターは僕が南を探そうと思うきっかけになってくれた人物だったし、僕に有益なアドバイ

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『それでも僕はここで生きる』 #32 忘島

『それでも僕はここで生きる』 #32 忘島

32.忘島

 キャンプの日から少し日が経ち、僕は再び小野と同じシフトに入った。小野と僕は相変わらず話さず、仕事は終わった。仕事終わりに、店の外で小野が話しかけてきた。
 「あれから何か進展はありました?」
 「いや、特にないです」と僕。
 「そうですか」と小野。
 「何かありました?」と僕は尋ねた。
 「いえ、何もありません。ただ気になったもので」と小野は答えた。
 そこで会話は終わった。
 家

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『それでも僕はここで生きる』 #31 悲哀

『それでも僕はここで生きる』 #31 悲哀

31.悲哀

煙草の煙がゆらゆらと漂い、次第に空と同化する。淡い色をした空には、様々な思いを抱えた人間の無数の視線が集まる。皆、知らず知らずのうちに、この忙しない世界で、癒しを求めているのだ。有史以前から変わらない、至極の癒しを。
僕もその癒しを求めて、煙草の煙を追う視線の先にある空を見つめた。
僕はその時、小野に誘われてキャンプをしていた。昼間から車を走らせ、キャンプ場に着くと僕らはテントを準備

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『それでも僕はここで生きる』 #30 勘案

『それでも僕はここで生きる』 #30 勘案

30.勘案

 その日、僕は療養所の近くの家に帰った。『広瀬南』の状態も気になったので、療養所に向かうことにした。
療養所に着き、『広瀬南』の部屋に入ると、そこに彼女の姿はなかった。
僕は慌てて職員に詳細を尋ねてみた。すると、職員は症状が悪化していたので病院に移ったと言った。
僕はその病院を聞き出し、急いでそこへ向かった。その病院は療養所から近かった。かなり田舎なのに、大きな病院だった。やはり、こ

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『それでも僕はここで生きる』 #29 激夢

『それでも僕はここで生きる』 #29 激夢

29.激夢

いそいそと過ぎ去る毎日に少し疲れた僕は久しぶりにマスターのバーに行った。
僕はカウンターに座っていつものように酒を飲んだ。その日はマスターがなかなか僕のところに顔を出さなかった。1時間ほど経過した時、マスターが僕のもとにやってきて、僕らは話し始めた。
「久しぶりだね、忙しかったの?」と、マスター。
「本格的に南を探し始めて、引っ越しをしたんです…」僕はこれまでの経緯を話した。
「なる

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『それでも僕はここで生きる』 #28 虚無

『それでも僕はここで生きる』 #28 虚無

28.虚無

その日は、地球が朝を告げる前に僕は目覚めた。まだ月はこの世界に残留していた。こんなに早く起きることはまずない。身支度をすませ終えた頃、太陽は僕より遅れて今日を始めた。朝がきた。今日もまた忙しない1日が始まるのだ。
そう考えると、僕は急に虚しい気持ちになった。
自分は何も成長していないのに、世界は進んでいく。時間は刻一刻と流れていく。葉の色は移り変わり、僕らも歳を重ねる。その早さがその

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『それでも僕はここで生きる』 #27 媒介

『それでも僕はここで生きる』 #27 媒介

27.媒介

睡眠を終えた僕と小野は、療養所の駐車場で再び会い、『広瀬南』に会いに行った。広瀬南に会う前に、僕は南について小野に話しておいた。
眠り続ける『広瀬南』を見た小野は何かを感じたような顔を一瞬見せた。
「どうかされましたか?」僕は尋ねた。
「はい、少し普段とは違う何かを強く感じたもので」と、小野は答えた。
「普段とは違う何か?それは、普段何かを探すときに感じるものよりも鮮明に感じたという

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『それでも僕はここで生きる』 #26 暴露

『それでも僕はここで生きる』 #26 暴露

26.暴露

川から帰り、コンビニのバイトの時間が近づいていたので、僕は準備をし、コンビニへ向かった。コンビニの深夜バイトでは、僕の他にいつも同じ人が入っている。その人は、男性で、かなり長い髪を後ろで縛っている。彼と僕は必要なとき以外は滅多に話すことはなく、彼について知っていることはそれくらいだ。
 その日、彼は僕より早く来ていた。僕は定時より少し早く出勤することを心がけているのだが、彼はそれより

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『それでも僕はここで生きる』 #25 畏敬

『それでも僕はここで生きる』 #25 畏敬

25.畏敬

 最近僕の前に出現した二人の女は、南の要素をもっている。これが偶然なわけがない。僕は、次のステップに進みたくなった。だが、何をしたら良いのかわからなかった。
 とりあえず僕は『広瀬南』のいる療養所に向かうことにした。
 療養所の『広瀬南』の部屋に来ることももう慣れてしまった。だが、そんなことを言っている場合ではない。彼女は手がかりを握っていて、僕は一刻も早く南を見つけ出したいのだ。い

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『それでも僕はここで生きる』 #24 交叉

『それでも僕はここで生きる』 #24 交叉

24.交叉

療養所近くに引っ越してきて、僕はまずコンビニでアルバイトを始めた。なかなか大変で、最初のうちは慣れなかったが、徐々に慣れてきた。
店には様々な客が来る。中にはかなり特徴的な客もいる。僕は深夜の仕事なので心なしか変わった人間が集まりやすいのかもしれない。
一ヶ月ほど経つと、客のパターンが少しずつわかってくる。毎日来る客の顔は覚えてしまう。深夜は人が来る数が昼間に比べると少なくなるからだ

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『それでも僕はここで生きる』 #22 始動, 23回想Ⅲ

『それでも僕はここで生きる』 #22 始動, 23回想Ⅲ

22.始動

まず僕は南を探すために、
祖父と『広瀬南』がいる療養所へ向かった。
 彼女のもとにたどり着いた時、彼女はまた寝ていた。起きている彼女と会話したかったので、僕は祖父のところへ行き、祖父の様子を確認しようとした。
 祖父はその時起きていて、看護士がそばで食事を与えているところだった。
 僕は看護士にお礼を言い、看護士と少し世間話をした。看護師が食事を与え終わり、祖父の部屋から去っていくと

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