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『それでも僕はここで生きる』 #27 媒介

27.媒介

睡眠を終えた僕と小野は、療養所の駐車場で再び会い、『広瀬南』に会いに行った。広瀬南に会う前に、僕は南について小野に話しておいた。
眠り続ける『広瀬南』を見た小野は何かを感じたような顔を一瞬見せた。
「どうかされましたか?」僕は尋ねた。
「はい、少し普段とは違う何かを強く感じたもので」と、小野は答えた。
「普段とは違う何か?それは、普段何かを探すときに感じるものよりも鮮明に感じたということですか?」僕は必死だった。
「鮮明にというか、それよりは強くぼんやりとしたものを感じたと言った方が良いかもしれません。いつもよりはぼんやりとしているのですが、その何かが僕に与える印象はとても強い」小野は不思議なことを言った。
「そうですか、やはり、知らない人を探すということで、いつもとは条件の違いがありますからね」と僕は言った。
「そうだと思います」と、小野。
一通りの会話が終わると、僕は急にいつもの暗闇に引き込まれた。その暗闇には小野もいた。僕と小野の目の前にはいつものように裸の『広瀬南』が現れた。小野は何かを言おうとして、やめた。最後まで見届けようと思ったのだろう。
「僕は南を探しているんです」僕は言った。
「わかっています。しかし、私にはどうすることもできないのです。ここはメタファーの世界です」『広瀬南』は言った。
僕は理解に努めた。しかし、やはり不可能だった。南を見つけることは、ここにくるだけでは不可能だ。それに、手がかりすら見つからない。
暗闇はここで終わった。前回来たときは暗闇が現れなかった。暗闇が現れる条件すら掴めていないのが現状だ。
「小野さんも見えたのですか?」僕はおそるおそる尋ねてみた。
「はい。はっきりとこの目で」と、小野。
「何か手がかりは掴めましたか?」僕はさらに尋ねる。
「少しですが」小野は言った。
「本当ですか!」僕は思わず少し声を大きくしてしまった。
「はい、今僕らがいた暗闇は、『広瀬南』さんが見せている暗闇ではないということです。あなたが彼女の近くに来たときに暗闇が現れているのではなく、暗闇が常にあるのです。そこにあなたが迷い込む。ですが、すべての人に開かれているわけではありません。私は、南さんを探すものにしか開かれない空間なのだと解釈しました。これはあくまで憶測ですが」
「なるほど」僕は少し事態が前進したのを感じた。
「つまり、南さんがどこかで私たちに向かってこれを見せている。この『広瀬南』さんを媒介して彼女は私たちに語りかけているということだと思います」
「だんだんわかってきました」僕は言った。
「さらに、先ほど暗闇に誘われなかった時があったとおっしゃいましたが、おそらく、南さんは非常に脆弱であり、あなたに常にメッセージを送れる状態ではないのだと思います」と、小野。
「すごいです、小野さん」僕は感じたままに感想を述べた。
「毎回、長さに違いがあるのもそういった理由からでしょう」小野は続けた。
「では、今日はここまでということですね」と、僕。
「そうだと思います。しかし、どこに行ったら何が起こるというわけではなさそうで、根気が要りますね。ここまでくるまでに何年もかかったとおっしゃっていましたので、今は、状況がかなり進んでいるのだと感じます。良くも悪くも」と、小野。
「そうですか、今日は一旦帰りますか」
僕は小野に再度感謝を述べ、小野を帰した。
小野と別れてから、僕も家に帰った。普段見ていた景色が少し明るく見えた。そよ風が揺らす木々の葉も、僕を歓迎してくれているように感じた。世界は見方が変われば何もかも違って見えるのだと感じた。

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