見出し画像

『それでも僕はここで生きる』 #33 別離

33.別離

島に行く前に、松下にあった。松下とは、いつものバーに行って飲んだ。僕にとって最後の松下に会う機会かもしれない。松下には、南を探しに行くことを伝え、松下は僕の言い出したことに納得していた。少なくとも、変だと笑うことはなかった。
僕は松下に感謝し、一応場所と時間を教えておいた。
マスターにも事情を伝えた。マスターは僕が南を探そうと思うきっかけになってくれた人物だったし、僕に有益なアドバイスを与えてくれた。
彼は僕に向かって「必ず成功するさ」と言い、微笑んだ。僕はその言葉でホッとした。
夜も更け、僕らは店を後にした。松下と僕は駅で最後かもしれない別れをした。
なんとしても松下にもう一度南の姿を見せたいと思った。
僕は深夜の駅で、溢れ出る恐怖を煙草の煙とともに消し去った。
これでよかったんだ。僕は思った。悔いはなかった。
終わりそうもないくらいの空の暗さも、気づけば次第に薄くなっていき、淡い色の空に変わっていた。僕が捨てた煙草の吸殻は地面ですっかり灰になっていた。
朝が来て、僕は目覚めた。南を探しに島に行く予定日だ。空は清々しいほど晴れていて、空気は住んでいた。僕は冷水で顔洗い、気を引き締めた。
僕は朝の人のいなさそうな時間を見計らい、海へ向かった。
海に着くと、そこは若い頃、僕に与えた力強い印象を再度与えてきた。僕に向かって僕が逃げ出したくなるような、そんな力を全力でぶつけてくる。この時の僕はもう逃げなかった。逃げるわけにはいかなかった。
最後に決心を固め、僕は海に飛び込んだ。僕は無我夢中で泳いだ。かなり遠い、海にひっそりと浮かぶ謎の島を目指して僕はひたすらに泳ぎ続けた。
半分くらい来たところだった。僕はかなり疲労を感じ、一休みしようとあたりの岩につかまった。そこで、僕はあまりの疲労感から眠ってしまったのだ。

目が覚めると、僕は船の上にいた。目の前には松下がいた。僕は状況がうまくつかめなかった。松下に慌てて尋ねると、松下はこういった。
「心配だったから船でお前の言っていた方向に行ってみたんだ、そうしたら、お前が岩で寝ていたってわけだ。かなり冷たくなっていて、危なかったんだぞ」
僕は礼を言った。松下は僕に島まで連れて行ってくれると提案した。僕はお願いすることにし、松下には見えない島の方向に船を出発させた。
島の付近に到着すると、僕は松下にこの辺で下ろすように言った。松下は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに了承し、僕のことを島の止まれそうな場所まで運んでおろした。
僕は彼に礼を言い、島に降り立った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?