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短歌連作八首:くろつるばみ

朝の影絵として並ぶほぼ墓石と同型のビル群
「今週のアナタのラッキーアイテム」を持ってアイツの葬式に出る
産廃の回収業車のフロントに逆さに映る女らの顔
ハッピーな日もある虹は伸びていくうっすらとした桃色に春
午後三時空にたなびく白煙の出処を知るサイレンを聞く
パンプスを脱ぎ捨て隠す座席下踏みつけているエナメルは赤
もう君はどこにもいない結晶のように並んで白い骨壷
役に立つファーから覗く足首に小さなハローキティのタトゥー

初出:「かばん」2021.4月号


くろつるばみは葬送の色だ。
葬儀と、当時住んでいた繁華街の朝、或いは夜の光景を詠んだ連作八首。バラバラに投稿しようとして、なんとなくこれはバラバラにできないなと思ってやめた。
人は誰でも死に向かっていて生きていて、死ぬことは常に隣にあるなと思うと繁華街も全部喪の色に染まり、それは一周ぐるりと回って、今度は急に死が命の色を帯びる。
これは意図したものではないのだが、八首のうち、はっきりと色が明記されているのは「白」と「赤」で、最終首のハローキティも白と赤(あるいは輪郭としての黒)が象徴的なカラーだと思う。日本で紅白はもちろん祝い事の色だ。
死ぬことは祝祭のようでもあるなと思う。

ところで、ハローキティのタトゥーは本当に、夜の繁華街の路地裏で客引きをしている、フェイクファーに包まれた薄いドレスの女の子の足首にあったのだ。その人の顔は忘れたのにキティちゃんのタトゥーだけ妙に覚えている。

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