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#8『恋と水素』ジム・シェパード

「恋」と「水素」は、たいてい結び付かない。
ヘンテコな組み合わせのタイトルって、シュルレアリスム的。
謎めいていて魅力的。

村上春樹編訳の『恋しくて』、一日一篇ペースで読み、noteにつらつらと所感などを書き綴ってきたけれど、とうとう8番目の作品に来た。


ジム・シェパードの『恋と水素』、なんと舞台は空の上!
しかも、今回はナチ党員である男性同士の恋愛となる。なんだかエキセントリックな予感。

今までとは少し趣向が違うのかなとも思ったけれど、読んでみると、恋する気持ちっていうのは、いつだって同じだなあと思う。
好きな人には自分の方を常に向いていて欲しいし、他に目が行くととても悲しくなるしイライラする。そんな心理状態の時はとても危険かも。

マッターホーンの焼き菓子をもらった

マイネルトとグニュッスが今回のカップル。
どちらも男性。飛行船で勤務している。
年下のグニュッスは恋人を一途に愛しているが、年上のマイネルトは他の女性に手を出したりもする。グニュッス的にはおもしろくない。
彼ら二人が愛しあうのは、人目を避けた空の上というスリル満点の場所。それでなくとも、同性愛は厳しい罰則がついているから人に見られたら最後、なおスリル増し。

マイネルトが、性行為の後のぼんやりとした物思いの中で、グニュッスに質問する場面がある。

これまでの人生でいちばんうっとりした瞬間をあげることができるかい

本文より

「うっとりした瞬間」、マイネルトは、ある時の夜間偵察だったと言う。もっとも恐ろしかったが、もっともわくわくした体験。
それを聞いたグニュッスは悲しくなる。なぜならば、彼の答えはこうだから。あるクリスマスの休暇にマイネルトと二人きりですごした一週間。もちろん言わなかったけれど。

恋人だとしても、愛しあえる仲だとしても、お互いの思いの天秤が釣り合わないと、どこかでストレスになってしまうんだね。
そういうのを超越してしまうと、それはもはや恋愛ではなくなっちゃいそう。熟年夫婦のように。それはそれでいいんだろうけど。「熟年」なら。
恋愛って面倒だけれど、繰り返ししちゃうもの。


ふと、私の人生の恋愛はもう終わったのかななんて思ったりする。ついこの間までしていた片思いで…。叶わぬ恋に妄想ばかりが広がってとても疲れた。
かといって、今後また恋する対象が出て来ると、何かと面倒なことになるから…。でもこれで終っちゃうのもなぁ…。なんて日々悶々としてる。

それにしても、私にとっての「人生でいちばんうっとりした瞬間」って何だろう?
パッと思いつかないんだけど…。貧しい人生…。
でも、きっと、美味しい食べ物を目の前にした瞬間な気がする。おいしそうな料理、鮮やかで綺麗に盛り付けられていて、それがたくさんあったらうっとりするなあ。
ロマンチックじゃないなあ…。花より団子なのかなあ…。

花より団子なので、焼き菓子を食べる


最後は、え、こんな大惨事に?? と発展してしまう。
なお、『恋と水素』は、実際に起きた「ヒンデンブルク号爆破事件」が背景にある。これだと、ナチ党員のゲイが恋の不注意で起こした大惨事、と見えてしまう。ちょっと厳しい。

恋によって漏れ出た水素か…。

あとがきには、ゲイカップルというのは「おそらくフィクションだろう」と書かれていた。おそらく。

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