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「音楽視点から見たD.LEAGUE 23-24」ROUND.3:地下で鳴る音を聴け

プロダンスリーグ『D.LEAGUE 23-24 ROUND.3』が11月24日に開催された。まだ3回目ではあるが、ショウケースとしても、音楽的にもクオリティの高い内容である。全6試合を音楽的な視点を交えてレポートしていこう。

世界でも類を見ない本リーグは2021年、コロナ禍の真っただ中で開幕した。2週間に1試合という過酷なスケジュールを戦い抜き、試行錯誤のなかで3シーズンを既に終了。特に昨シーズンは念願となるフルキャパシティの観客とともに開催され、レギュラーシーズンはCyberAgent Legit、CHAMPIONSHIPはKADOKAWA DREAMSが優勝を収めた。

レギュラーシーズンは開幕後、半年間・14ラウンドに及ぶ。参加するのは、昨季に引き続きavex ROYALBRATS、KADOKAWA DREAMS、KOSÉ 8ROCKS、CyberAgent Legit、SEGA SAMMY LUX、SEPTENI RAPTURES、FULLCAST RAISERZ、Benefit one MONOLIZ、Medical Concierge I'moon、dip BATTLES、LIFULL ALT-RHYTHM、Valuence INFINITIES、さらに新チームのDYM MESSENGERSを加えた計13団体。

ROUND.3のジャッジはSHINICHI、KETZ、WREIKO、KATSUYA、Ruuが務め、採点は「スキル」、「クリエイション」、「コレオグラフ」、「スタイル」、「完成度」という観点で行われる。

全ラウンドは以下のアーカイブにフル尺公開されているので、未見の方はぜひチェックしてほしい。



■第1試合
DYM MESSENGERS vs avex ROYALBRATS

青:DYM MESSENGERS
テーマ:FAT
楽曲:「Low end Raw」(prod:DYM MESSENGERS)

赤:avex ROYALBRATS
テーマ:「On the ICE」
楽曲:「ICEMEN(feat.
Fuma no KTR)」(prod:Marchin)

先行するDYMは得意とするグネグネとしたグルーヴのショウケース。使用楽曲もバウンス(音の跳ね幅)がトリッキーなビートミュージックだ。渋い。プロデューサーのクレジットはチーム名となっているがメンバーが作曲しているのだろうか。気になるところ。

対するavexは「ヒップホップ×氷上のスポーツ」ということでアイスホッケーをテーマにした作品となっていた。バトルMCとしても知られるFuma no KTRをフィーチャリングしているのも興味深い。個人的には会社の利を使ってXGを客演に迎えるというサプライズを期待している。

結果は2-4でDYM MESSENGERSの勝利(AUDIENCE:赤/SHINICHI:赤/KETZ:青/WREIKO:青/KATSUYA:青/Ruu:青)。

<勝者コメント>
Takuya「DYMの企業の方とか、初めて見る人も声をかけてくれて嬉しい。このメンバーで一緒に踊っているのはヤバくて、テーマとかじゃなくて、毎回ぶつけるだけ。褒められて伸びるタイプなので、たくさん褒めてください」


■第2試合
KOSÉ 8ROCKS vs CyberAgent Legit

青:SEGA SAMMY LUX
テーマ:「DESIRE」
楽曲:「XTC」
prod:Lucas Valentine

赤:CyberAgent Legit
テーマ:「SURFACE MEN」
楽曲:「SURFACE MEN」(prod:
宮田“レフティ”リョウ

2連敗中で苦境にあるSEGA SAMMY。ディレクター・CANDOOが控え、新メンバーのMAAAOとTASが初出場という布陣で勝負をかけた。使用楽曲はトラップなビートでダークな雰囲気を醸し出す。歪んだギターソロの導入からドロップに突入する時の音とダンスに息を飲んだ。

CyberAgentの音楽が宮田“レフティ”リョウのプロデュースだった時は要注意だ。彼のシンセの音色センスを用いた楽曲はキャッチーで、チームのハイスキルなダンスをさらに昇華させる。今回は特にコード進行が「丸サ進行」や「Just Two of Us 進行」などと呼ばれる<ⅣM7→Ⅲm7→Ⅵm7→Ⅰ7>系のドラマティックなものになった瞬間に全員がシンクロする瞬間が技あり。

結果は生活におけるオンとオフをファンキーに表現したLegitが1-5で勝利。(AUDIENCE:青/SHINICHI:赤/KETZ:赤/WREIKO:赤/KATSUYA:赤/Ruu:赤)

<勝者コメント>
地獄「昨シーズンはLUXに負けて悔しい想いをしたのでリベンジという気持ちでした。辛いことがあっても、こうしてよい結果を残せているのは嬉しい。目標のチャンピオンシップ優勝を叶えるために1戦1戦を大事に頑張っていきます」


■第3試合
KADOKAWA DREAMS vs Benefit one MONOLIZ

青:KADOKAWA DREAMS
テーマ:「静と動」
楽曲:「Rose From Concrete(Feat. 
Ashley)」(prod:弐tR

赤:Benefit one MONOLIZ
テーマ:「BLACK SHADOW -忍び-」
楽曲:「BLACK SHADOW」(prod:
age
SPダンサー:HAL/Icon Javier the Dragon Ninja

ROUND.3の音楽は、まだ名を知られていない若手やアンダーグラウンドなアーティストが多数起用されていたのが印象的だった。KADOKAWAが起用したシンガー・Ashleyもそのひとり。呟くように歌うヴァースからメリスマティック(長く音を伸ばす表現)なメロディに終始するフック、途中に出てくる3拍子を<2拍3連+1拍>に割るリズミックなキメもよかった。

Ashleyは昨シーズンも「The Woman」で歌っていたし、KADOKAWAはaimiやPUSHIMらも起用してきた。「D.LEAGUE」は魅力的なシンガーやアーティストがさらっと出てくるところも見逃せない。それをくみ取っていくのが本企画の目的でもある。

対するBenefit oneも大門弥生を客演に招くなど、フィーチャリングのセンスは鋭い。しかし今回は何といってもディレクター・HALの師匠であるIcon Javier the Dragon NinjaのSP参加である。しなやかな本場のヴォーグに音と衣装、ライティングの妙が溶け込んだ世界観が圧倒的だった。それにパッションも加わったら強くない訳がない。

結果は0-6でBenefit one MONOLIZがSWEEP勝利。(AUDIENCE:青/SHINICHI:赤/KETZ:赤/WREIKO:赤/KATSUYA:赤/Ruu:赤)

<勝者コメント>
Nonoka Sudo「今回は期間も短いなかでディレクターのHALさんとJavierさんが力を貸してくださって、前回王者のKADOKAWAさんと戦うということで気合の入った作品でした。本場のJavierさんが一緒に踊ってくれたことを嬉しく思っています」


■第4試合
Valuence INFINITIES vs dip BATTLES

青:Valuence INFINITIES
テーマ:「DANCE」
楽曲:「Pulse Resonance」(prod:Valuence INFINITIES)

赤:dip BATTLES
テーマ:「SOULの解放」
楽曲:「No, Soul? Yes, Soul!!!」
(prod & singer:
Hana Ardie/compose:鈴木真明地

Valuenceは低音ブラスが効いたビートミュージック。ところどころ頭の音を抜いて、そこにダンスを合わせストリートな魅力を表現していく。ダンスの構成力と音が絡み合い相乗効果を感じた。

対するdipが使用したのはHana Ardie(竹内ハナ)が歌うモードジャズ/スピリチュアルジャズな楽曲。これには驚く。この種類の音楽が鳴ったのは恐らく「D.LEAGUE」で初だ。タップやビバップなどのソロダンスなどでは使われているのを見たことがあるが、このようなショウケースで合わせるのが新鮮。

現役音大生のサキソフォン奏者・鈴木真明地の参加から考えるに、同年代のミュージシャンによる演奏だと思われる。この素晴らしいリズム隊は一体誰なのだろう。映像では音の良さが半減しているので、ぜひ音源で聴いてほしい。

勝敗は6-0でValuenceのSWEEP勝利。ただdipが若いアーティストをフックアップしたことを称えたい。(AUDIENCE:青/SHINICHI:青/KETZ:青/WREIKO:青/KATSUYA:青/Ruu:青)

<勝者コメント>
KEIN「ヒップホップとブレイキンのチームにハウスダンサーが入って何ができるかな、と思いましたが結果を残せてひと安心です。ここからまた進化していくので見ていてください」


■第5試合
Medical Concierge I'moon vs SEPTENI RAPTURES

青:Medical Concierge I'moon
テーマ:「歴史を感じる新しい一体感」
楽曲:「OLD to the new New to the old」
(prod:SAAGMUSIC/compose:
Ai Yamamoto

赤:SEPTENI RAPTURES
テーマ:「ストイックな訓練」
楽曲:「不動心」(prod:
WRACK/songwrite:Monsieur Jovoni

Medical Conciergeは今シーズンより、専門のアーティスト・クリエイティブ「SAAGMUSIC」が音楽を担当している。過去のKポップ調や可愛らしいスタイルではなく英語詞のカッコいい路線でいくのだろうか。今回のショウケースは赤い衣装にキャップのどこかレトロを感じさせる装いによる、高いシンクロ率のダンスが圧巻だった。

チーム初となる男性のみの編成で挑んだSEPTENI。テーマの通り、ダークな曲調のなかでトレーニングを思わせる内容だ。相手チームに合わせてきたのかシンクロを見せどころとする場面も多かった気がする。

結果はドロー(AUDIENCE:赤/SHINICHI:青/KETZ:青/WREIKO:赤/KATSUYA:青/Ruu:赤)。

※コメントなし


■第6試合
FULLCAST RAISERZ vs LIFULL ALT-RHYTHM

青:FULLCAST RAISERZ
テーマ:「Insane」
楽曲:「insane」(prod:
Hiroshi izumi

赤:LIFULL ALT-RHYTHM
テーマ:「HUMANITY -人間性-」
楽曲:「evolution」(prod:
Natiho Toyota

最後の試合は音楽的に「ディストーション」の解釈の違いが激突していたようにも思えた。FULLCASTは「狂う」や「頭がおかしい」という意味のテーマをHR/HMなサウンドに求めていた、もしくは音楽からテーマを導き出したのだろう。これはロックやパンク的な想像力である。

一方のLIFULLの楽曲は豊田奈千甫による空間を活かした音像を、だんだんと歪んだ電子音やフィードバックノイズなどのディストーション音が塗りつぶしていくような構造。こちらは進化の果てに待っているカオスを暗示していると思われるが、恐らく現代アート的な発想だろう。

よって音楽的には「歪んだ音」という手法を両者とも用いながら、方向性の違う作品をアウトプットしたという点で興味深い一戦だった。

結果は3-3のドロー(AUDIENCE:青/SHINICHI:青/KETZ:赤/WREIKO:赤/KATSUYA:青/Ruu:赤)。

※コメントなし

(※.KOSÉ 8ROCKSは今回ノーマッチ)


■総合ランキング

1位.CyberAgent Legit(9)
2位.Benefit one MONOLIZ(8)
3位.SEPTENI RAPTURES(7)
4位.KADOKAWA DREAMS(7)
5位.Valuence INFINITIES(7)
6位.FULLCAST RAISERZ(4)
7位.avex ROYALBRATS(3)
8位.KOSÉ 8ROCKS(3)
9位.DYM MESSENGERS(3)
10位.LIFULL ALT-RHYTHM(2)
11位.Medical Concierge I'moon(1)
12位.SEGA SAMMY LUX(0)
13位.dip BATTLES(0)
(カッコ内はCSP=チャンピオンシップポイント)

MVD(Most Valuable Dancer):颯希(KADOKAWA DREAMS)
私的楽曲賞:dip BATTLES「No, Soul? Yes, Soul!!!」


とにかく「D.LEAGUE」で鳴っている音はチャートとは全く異質である。必ずしも日本の音楽業界的な考え方とは別のベクトルで動いているので、次代のアーティストやアンダーグラウンドな才能がフックアップされやすい土壌なのだ。

ここからダンサーではなく新たなポップスターが生まれる可能性もあるだろう。「日本のネクスト音楽見本市」としてリーグを楽しむこともできるな、と感じたROUND.3だった。

次回は12月15日。さらに進化したパフォーマンスに期待したい。

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