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SNS Shocking#10「諸君、狂いたまえ」(ゲスト:luvis)

何事にもリファレンス過多な現代、人類は前例に縛られ過ぎている。私自身もそうだ。もちろん他人からの影響がゼロのアーティストは存在しえない。だが先人たちが礎を築けたのも自身が狂人であるだけでなく、当然ながらネット上のアーカイブを参照できなかったからだろう。

今や単なる過去の参照は「狂気」と相容れない。なぜなら膨大なデータを持つ生成AIが圧倒的に「正解」だし、圧倒的に「正気」だから。情報過多の令和にクレイジーでいることは困難を極める。リリースから25周年の椎名林檎「丸の内サディスティック」のデモ版「A New Way To Fly」は今日的に響くのだ。

記事&ポッドキャストによるハイブリッド・インタビュー『SNS Shocking』の記念すべき10人目のゲストとして登場するのは、3月に「SXSW 2024」に参加するため渡米予定のシンガーソングライター・luvis。

京都から上京して活動中の彼は、リファレンスを過去の音楽ではなく自らの体験に求めた。そして自らが追い求める概念「揺らぎ」や日本的なルーツについても言及。この狂った時代、狂えない人へのヒントとして本記事が役立てば幸いだ。新しい飛び方を探せ。

(写真:西村満、サムネイル:徳山史典、ジングル/BGM:sakairyo)


luvis(るーびす):
京都宇治出身のSSW/Track Maker/guitarist。
作詞・作曲・トラックメイキングを全て自身で行う。

先代から受け継がれてきた言葉になる前の原始的感情を今を生きる人々へ、さらにはその先の時代に生きる人へと繋いでいく。

ジャズ、ビートミュージック、オルタナティブロック、フォーク、自然が生み出したものから影響を受けた有機的なサウンドと独特な表情を持つ歌声が特徴。

X(Twitter):@luvismusica
Instagram:lu_vis__

天邪鬼な性格


――まずはluvisさんの音楽的なバックボーンについて聞かせてください。

luvis:親父がギター好きで、オジー・オズボーンなどのハードロックがよく流れてました。母は保育園の先生でアップライトピアノもあったり、音楽に近い環境だったと思います。いつ言語を習得したのかと同様、いつ音楽に目覚めたのかもわかりません。

弾き語りを始めたのは中学時代。粗品でもらったウクレレで、つじあやのさんをカバーしたりしてました。そして長渕剛「乾杯」を弾こうとして、やっと彼の楽器がアコースティックギターだと知ったんです。それからフォークが好きになり、色々な曲をカバーしましたね。作曲を始めたのは高校の時で、ソロでライブ活動も始めたんです。

――高校卒業後は?

luvis:京都工業繊維大学に進学しました。高校時代に京都シュタイナー教室というに通っていたんですよ。ここの数学と物理の先生が「俺は受験の先を教えてる」というクセ強めかつ、人を面白がらせる能力がすごくて。当時は音楽そっちのけで物理にのめり込みましたが、大学生活が想像と違うことに気付いたんです。それで1年遊んでしまいました。

それから弾き語りでレコーディングする機会があり、自分のリズム感のなさに気付いたんですよ。それをどうにかしたくて「リズム感 音楽」などで検索し、たどり着いたのがブラックミュージック。そこから大学に行かずにローンを組んでPCと機材を買ってトラックメイクし始めたんです。ちょうど地元の友達のなかでディアンジェロやロイ・ハーグローヴが熱くて、一緒に聴きながらグルーヴ談義をしてました。

――別のインタビューでは「チャーリー・パーカーが好き」という話もされていました。ビーバップもお好きですか?

luvis:そういったアーティストのルーツがジャズだったので、次は40年代~50年代のモダンジャズにハマったんです。もともとエラ・フィッツジェラルド「How High the Moon」のスキャットが好きで、そこからコード進行を引用した曲がチャーリー・パーカー「Ornithology」だと知りましたね。同じく彼の曲「Donna Lee」もいいなと。

――オルタナティブロックも好きなんですよね。

luvis:ジャズ熱が一度収まってから、ダイナソーJr.を聴いてロックにハマりましたね。ここ3年くらいの話です。スキルがすごいだけでは面白くないですし、天邪鬼なんですよ(笑)。

主体と客体の区別なき「揺らぎ」


――また前回のゲスト・annnkさんから「luvis君には『揺らぎ』の話を聞いてください」と言われているのですが……。

luvis:ブラックミュージックに憧れて音楽制作していたので、ずっと欧米志向でした。でも2年前に上京する決めてから思想面の探求を始めました。東京は情報が目まぐるしいスピードで入ってくるカオスなイメージだったんですよ。出身が京都ということもあり、日本人として音楽以外の思想的なルーツを持っておきたいなと。

最初に出会ったのは器などの民芸。それから仏教や禅の本を読んだり、実際にお寺に行ったり。そして2年間ほど掘った仏教文化と自分のやりたい音楽がリンクする部分があったんですね。それを簡潔に表現すると「揺らぎ」でした。

――仏教で一番影響を受けたのはどんな考え方なんでしょう?

luvis:「不二(ふに)」という概念があるんですよ。人は自分と他の人や物を違うものだと区別して考えますが、例えば僕と机の境界は恣意的に設定されているだけで、本来は区別がないという考え方。

ただ境界線を設定することによって合理的な思考もできる。その「分別」によって文明が発達しましたし、逆に「善と悪」のような対立を生む面もあります。そのネガティブな部分、頭で考えすぎて感性が鈍くなることを考えていました。

luvisが影響を受けたジャズルーツの音楽の一部。チャーリー・パーカー、ロイ・ハーグローヴ、ディアンジェロそれぞれサウンドは違うが新しい時代のブラックミュージックを提案したという点で一致している。三者三様だが、リズムや和声などにおいて彼らの音楽は地続きだ。

――「不二」は音楽にどう応用されますか。

luvis:ライブパフォーマンスする時ですかね。音楽には<発信する側/受け取る側>という分別がありますが、その区別がないと思うんですよ。もちろん自分が発するという行為をしなければ音は生じませんが、本当に音楽が発生しているポイントは僕とお客さんの間だという認識で。どちらかが欠けても音楽の通るゲートが閉じるんじゃないかなと。

ライブで自分と観客の結合が生まれた時、自我が解けるような感覚になるんですよ。そんな境界線のなくなる瞬間に「揺らぎ」を感じます。「音楽」という漠然とした存在に操られて、空間がうねっているような。それによって五感以外の部分で物事を捉えられると考えています。

――磁場のような何かでしょうか。私は「揺らぎ」と聞くとチューニングから外れた音やグリッドを意識しないリズムを連想します。ブルーノートや微分音、訛ったドランクビートのような。

luvis:それはオルタナのサウンドにも言えますよね。スキルフルではない歪んだギターの音に感じる何か。

――思想のルーツという話もありましたが、現代ジャズ奏者ではチーフ・アジュア(クリスチャン・スコット)やティグラン・ハマシアンなどがアイデンティティを掘り下げながら活動しています。彼らのような先祖回帰を日本人がするとしたら、確かに神仏や和なものになりますよね。

luvis:以前は音楽留学したいとも考えていたんです。でもコロナ禍で叶わず、その期間に内省して土着的な日本のルーツを掘り下げるようになりました。そこで先ほどの仏教や民俗学的な、自分がオルタナティブであると感じるカルチャーに出会ったんですよ。

自身のルーツを掘り下げる現代ジャズプレイヤーが増えている。チーフ・アジュアはマルディグラ・インディアンとしての、ティグラン・ハマシアンはアルメニア人としてのルーツと向き合った。同様に笙や篳篥、尺八に可能性を見出す邦人アーティストは必ず現れるだろう。だがオルタナティブな日本性をコンセプトにした存在としてのYMOも忘れてはいけない。

狂わなければ過去に追いつけない


――思想的な探求を経て、昨年リリースされたのがEP『from pier』です。髙橋直希(ドラムス)、梅井美咲(ピアノ)、冨樫マコト(ベース)という若手ジャズ奏者各氏とのコラボレーションによって生み出された作品ですが、特にジャズ的という方向性ではありませんでした。

luvis:テーマは自分が安心して暮らせる「心のふるさと」。今までは音楽的に明確なリファレンスがあったんですよ。でも上京して初めて故郷・京都を別の場所から見るという経験をしたので、その体験を参照して作りました。

だから「こういうサウンドにしたい」というよりも「故郷と向き合ったら、こういう音になりました」という感じ。正解がないので、とにかく時間をかけましたね。デジタルなものをシャットアウトしたり、多摩川で1日中ギターを弾いてアイデアを考えたり。

――なぜジャズミュージシャンを起用されたのでしょう?

luvis:『from pier』はビートというよりも歌そのものが主軸ですから、それを包んで支えてくれるような編曲にしたかったんです。そして演奏してもらったジャズミュージシャンたちのソロイストの支え方が、僕が理想とするアレンジの世界観とマッチしたんですね。本当にしなやか。

それぞれのライブを実際に観た時も全部泣きましたよ(笑)。もともとは同郷のトラックメイカー・Kani Ningenのアルバム『yolkwhite』に関わっていたメンバーで知りました。特に(髙橋)直希とは仲が良くて、音楽で大事にしている「愛」について深く共有できていますね。そして何より彼らを好きな理由はパンク精神を持っているからです。

(上)EP『from pier』のメンバーで臨んだ「蜃気楼」ライブ映像。
(下)最新シングルである「all my luv」。

――ご自身はいわゆるZ世代ですが、ジェネレーションについて考えることは?

luvis:あまり意識していません。より柔軟でいたいですね。当時者以外の方が「Z世代を〇〇だ」というトピックに興味ある気がします。少なくとも僕はあまり関心がありません。電話に出るのは苦手ですが(笑)。

僕は効率的なことを求めるが故に、拾えなくなるものも多いと考えているんですよ。ポリシーは「遠回りしてなんぼ」なので。インターネットやYouTube、SNSが発達して表層を掴みやすい時代ですが、昔のように血が出るまで弾きまくる狂ったギタリストなどは出にくい時代かもしれません。

――吉田松陰の「諸君、狂いたまえ」という言葉を思い出しました。

luvis:ギターの師匠が竹内アンナさんと同じ中村大輔さんなのですが、彼にも言われていました。クレイジーな人たちが作ってきた文化ですから、未来にクリエイトしていくなら自分たちも狂わないと。そうしないと過去に追いつけない状況になってしまうと感じます。

――そしてテキサス州オースティンの「SXSW 2024」に出演されるそうですが、意気込みを教えてください。

luvis:思想的なルーツは日本に持ちつつも、1人の音楽キッズとしてアメリカに対する強烈な憧れは今もなお持っています。だから本場で自分の表現ができる機会が嬉しいです。

ただ欧米の真似事はしたくないんですよ。だから「自分の表現とは何なのか?」という内省期間にもなるんじゃないかなと。無駄なプライドを捨て、がめつく次の海外進出の機会に繋げていきたいですね。

――luvisさんの目指す理想のアーティスト像を最後に教えてください。

luvis:器です。「音楽」というバカでかくて過去から今まで受け継がてきたもののゲートになれれば。僕はそれが未来永劫に続くための単なる1ピースなので、次代にバトンを届けて死にたい。

次回のゲストは・・・


リファレンスについてや「Be Crazy」など、今日的なテーマが飛び交った回となりました。「SXSW」は過酷だと聞いておりますが、luvisさんにとってステップアップの機会となることを祈っております。

彼が次回ゲストとして紹介してくれたのは、様々な現場で活躍するジャズドラマー・髙橋直希さん。10回を経てジャズドラマーに回帰。アーティストの人脈を巡っていくのは本当に面白いですね。次回も楽しみです。(小池)

<写真>
西村満
HP:http://mitsurunishimura.com
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<サムネイル>
徳山史典
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<ラジオジングル・BGM「D.N.D」>
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