自分自身の才能を知る
デンマークでは、ヴィルヘルムハーツというハンドメイドの杖の職人の工房で半年間、丁稚奉公もした。日本でその杖を広める窓口をしているので、今でもその職人とのやり取りがある。
先日、「なぜか東京にいると、見えないプレッシャーに襲われて自分を見失いそうになることがある」という感覚を打ち明けた時。職人は真っ直ぐこちらを見て言った。
「人は自分の才能を活かして、誰かにとっての価値を作ることが大切なのだと思う。そしてその誰かがまた誰かの価値を生み出せるような…。価値とはお金ではなくて。何か他のもの。でもその価値を作り続ければ、お金は後からついてくるんだ」。
「そしてその価値を生み出すために一番大切なのは自分自身の才能を知ること。その才能というものはこれから学ぶことではなく、すでにお前の中にすべてある。自分を信じろ」と。
デンマークにいた時も、日本にいる今も、何度職人の言葉には心を動かされたことだろう。日々颯爽と駆け抜けていく時間の中で、職人とのコミュニケーションは毎回「今」に立ち止まらせてくれる。自分の今が見えるとなぜか自ずと次にやることが見えてくる。
人は誰でも自分らしさというのか、自然とできちゃうようなことはあると思うのだが、それを育てる心もとても大切。デンマークで共通の価値観として言われていると教えてもらった言葉を思い出した。「その能力があるのであれば、それをやらない選択肢はない」。自分にできることを精一杯やることが、自分というものを理解するために大切な姿勢なのかもしれない。職人から受け取った愛を、自分も誰かに繋いでいきたいと思う。
(尚工藝代表・宮田尚幸)
尚工藝 代表・宮田尚幸
シルバー新報 2021年(令和3年) 2月12日(金曜日)発刊号より
なにかのヒントになっていたら幸いです。