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棺の中のおばあさんと人形に怒られた話
怖さ:★★★
会社の同僚に聞いたお話です。
彼は以前、葬儀屋さんに就職し、それ以来、途中で数年のブランクはあったものの、20年近くお葬式に携わっていたそうです。そんな彼の、20代のころの体験談です。
当時、地方都市の葬儀屋さんにいた彼は、新入りの若い社員の教育係をしていました。
ある夜のことです。この日は、新入りの社員に当直の業務を教えていました。
当直というのは、葬儀会館に夜、泊まって勤務することです。
葬儀社はいつお葬式の依頼が入ってくるかわからないので、24時間体制で動いています。葬儀社の社員は順番に当直して、いつ連絡があっても病院に亡くなった方を迎えに行けるような体制をとっているそうです。
この日、やはり当直勤務をしていた先輩社員に、「見回りに行って、お預かりしているご遺体の様子をチェックしてくるように」と言われた彼は、新入り社員を連れて、その葬儀会館の上の階に安置している遺体を見に行きました。
故人は身寄りのないおばあさんで、葬儀の喪主はおばあさんの遠い親戚が務める予定でした。そのおばあさんはずっと独りで暮らしていたのですが、一体の大きな人形を大切にして、いつも話しかけていたそうで、棺の中には副葬品としてその人形も一緒に入っていました。
さて遺体の状態を確認しに来た彼は、新人と棺のふたを開けました。おばあさんの横に大きな人形が横たわっています。
ところが何を思ったのか、棺の中を覗き込んだ新人が突然「キモッ!」と噴き出して、笑い出しました。
すると突然、部屋の扉や壁がガタガタガタガタと激しく音を立てて揺れ始めました。
「おばあさんと人形が怒ってる!?」と、2人は慌ててエレベーターに飛び乗って、「閉」ボタンを連打。1階の事務室に駆け込むと、プラケースいっぱいに常備していた塩*を頭からバサーっと被るように浴びました。
その葬儀会館は大きな、しっかりした造りの建物で、目の前の道路を大きな車が走ると揺れるなどということはなく、もちろん1階の事務所は何事もありませんでした。
その後、おばあさんと人形を笑った新人に、霊障というか、特に悪いことは起こりませんでした。
でも、この話をしてくれた同僚は、その時以来「人は亡くなると遺体という物になるけど、やっぱり霊とか魂とかはあって。だから葬儀という仕事があるんだな」と思うようになったそうです。
*その葬儀社では火葬場から帰ってきた人の足元に「お帰りなさい」と塩を撒く習慣があって、塩はいつでも大量に常備していたそうです。
話し手:40代 男性
採取時期:2020年9月
採取場所:東京都内
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