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「現代思想の始まりにいる男」カントの『判断力批判』を読む。【PhilosophiArt】

こんにちは。成瀬 凌圓です。
今日から、18世紀の哲学者、イマヌエル・カントが書いた『判断力批判』を読みながら、哲学とアートのつながりを探していきます。
この本を深く理解するために、全12回に分けて読んでいきます。
1冊を12本の記事に分けて読むため、読み終わるまでが長いですが、みなさんと学びを共有できればいいなと思います。

今回は、『判断力批判』を選んだ理由や、著者のカントについて書いていきます。


『論考』の次は、『判断力批判』

今回、『判断力批判』を選んだ経緯は「PhilosophiArt」を始める前までさかのぼります。

哲学とアートのつながりを考える記事「PhilosophiArt」を始めようと決めた時、僕はウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』(以下、『論考』)を読むことにしました。選んだ理由は、自分がアートのことを意識しながら読んでみたいから。ただそれだけでした。
(『論理哲学論考』を読んだ記事は下のマガジンからお読みください)

しかし、『論考』そのものが芸術やアートを取り上げた内容ではなかったため、アートについて考えを深められなかったという気持ちがあります。
次に読む本は、芸術・アートを対象にした哲学書にしようと決めました。

哲学の中でアートを対象にした分野に、「美学」があります。美学についての著作を探していく中で、今回から読んでいく、カントの『判断力批判』を見つけました。
美学研究者の小田部胤久氏(東京大学 教授)は、『判断力批判』の解説として書いた『美学』の中でこのように言っています。

美学にとってカント(1724-1804年)の『判断力批判』(1790年)(とりわけその第一部「美的判断力批判」)こそ古典の名に値する書物であると私は考える。おそらく多くの美学研究者もこのことに同意するであろう。

小田部胤久『美学』(東京大学出版会、2020年) 序文より

どんな学問でも、古くから読み続けられている本には、ワケがあります。
なぜ『判断力批判』が古典の名に値するのか。読みながら、アート・芸術との関わりを考えていきたいと思います。

カントとは、そして『判断力批判』とは

イマヌエル・カントは18世紀に活躍したヨーロッパの哲学者です。
代表的な著作として、『純粋理性批判』『実践理性批判』、そして今回読んでいく『判断力批判』の3冊があります。この3つは書名の最後が『〜批判』で終わっていることから、まとめて「三批判書」と呼ばれることがあります。

この三批判書だけでなく、現代で扱われている思想(哲学、倫理学、心理学など)のほとんどにはカントが関係していると言われています。
例として、国際連盟(国際連合(国連)の前身となる組織)が挙げられます。
国際連盟が設立される背景には、カントが1795年に出版した『永遠平和のために』の思想が大きく影響しています。
国際法、国際平和論を学ぶ上で、国連の存在は避けて通れないと思います。国連の成り立ちを遡ると、カントが出てくるのです。

現代思想をたどれば、必ずカントがいる。
…恐るべき学者です。

現代の美術批評、美学も、たどれば、、、

そう、カントがいます。笑

それなら、カントを読まずに哲学(美学)は語れないなぁ…と思い、難解な『判断力批判』に向き合うことを決めました。

刊行されてから200年以上経っても、現代思想の基盤となっている三批判書には、どのようなことが書かれているか、簡単にまとめました。(参考:『新しく学ぶ西洋哲学史』)

  • 『純粋理性批判』(第一批判) (1781年):これまでの学問原理を批判し、新たな原理を学問の規準(カノン)として提示した
    (思想の基盤にカントがいるのはこの本の影響が大きい?)

  • 『実践理性批判』(第二批判) (1788年):人間の本能や欲望に従わない自由「実践理性」について書かれている
    ここから倫理学や道徳哲学の主要な立場が生まれた

  • 『判断力批判』(第三批判) (1790年):人間があってほしいと思う世界を考えた時の判断「趣味判断」について書かれている

このうちの『判断力批判』の前半部分(「美的判断力批判」)では、18世紀に盛んに議論されていた「美」と「崇高」について語られています。
次回の「PhilosophiArt」からその部分を読んで、哲学とアートのつながりを考えていこうと思います。

なぜ『判断力批判』は書かれたのか

今回は『判断力批判』の序文から、この本が書かれた前提をまとめます。
『判断力批判』は、第一批判の『純粋理性批判』の反省から作られた本であるとカントは言っています。

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