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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  5話「凪の日に想う」(4)


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5話 「凪の日に想う」(4)



 翌朝にはもう、いつも通りの様子に戻ったリカルド。少しゼイゼイ息が出ていたゴナンも、薬を飲んで一晩寝たらすっかり治まった。やはりマリアーナ処方の薬が合う様子だ。

「ねえ、ディル。俺、もう元気だから、剣の稽古をつけて欲しい」

朝食後、ゴナンはキラキラした目でディルムッドにお願いしてきた。ゴナンが何かを積極的にしたがる様子が嬉しく、リカルドもニコニコ顔で見守る。

「ああ。私は構わないが、体は本当に大丈夫なのか?」

「うん、元気。昨日、遊んだときにさ、体力がすごく落ちちゃってるのに気付いたから、体力も早くつけたい」

そう言ってゴナンは、「あ、あのねっ」と駆け出して書斎へと行き、そして1冊の本を持って来る。少し古びた、絵物語の本だ。

「これは…」

「…これ、俺がちっさい頃、1冊だけ読んだことがある絵物語。村にこれしかなくて。騎士が活躍する話だった。同じの、ここで見つけて…。これ、ショーン騎士の話だったって…」

そう言って、キラキラした目でディルムッドを見上げるゴナン。

「…それは、私の先祖や先代までの方々の活躍だ。同じショーンの血筋でも、私はそこに載る人には及ばない人物だよ」

「そんなこと、ない…」

無表情ながらも真っすぐなゴナンの目線に、ディルムッドは少しこそばゆいような複雑な笑みを浮かべる。

「…まあ、分かった。では、今日から始めようか」

快諾するディルムッドに、ゴナンは瞳を輝かせる。頼られるディルムッドも嬉しそうだ。その脇で、ミリアはまたそそくさと部屋へ戻る。

「…影武者の普通のミリアさんは、すっかり本の虫になっているなあ」

微笑みながらエレーネに話しかけるリカルド。エレーネも肩をすくめて笑う。

「ええ、すごい集中力よ。とても感心するわ。読んでいるのが恋愛小説だとしてもね」

「君も一緒に読んでいるの?」

「私は…、少し読ませてもらったけど、あまり興味が持てなくて、目が滑ってしまったわ」

「ふふっ…。君は、もっと現実主義のような感じがするもんね」

らしい気がする。リカルドは笑うと、エレーネに依頼をした。

「巨大鳥がこの付近に来る日に備えて、あらかじめ地図で水場の位置なんかを確認しておこうと思うんだ。あとで書斎で、一緒にいいかな?」

「ええ、もちろんよ」

と、玄関の方に誰かが訪問してきた声が聞こえた。間もなく、対応したマリアーナがエレーネを呼ぶ。

「たぶん、薬が届いたんだわ。ちょっと行ってくるわね。また後で、書斎で」

「…あ、ああ…」

玄関へと急ぐエレーネの後ろ姿を目で追うリカルド。どのように薬を手配して誰がどう届けているのかがちょっと謎だ。そっと玄関の方に歩みをすすめ、影から様子を窺ってみる。しかし、エレーネに薬を手渡している人物は、全身をマントに包みフードを目深に被っていて、どのような人物なのかはまったく分からなかった。背中の荷物の上には、いつもやり取りをしている伝書鳩だろうか? 鳩がちょこんと乗っている。

(服もマントもフードも真っ黒ずくめで、手袋まで黒い…。怪しいといえば、怪しいが…)

とそこまで考えたところで、「…と、僕がこれを言うのはおかしいか」と、自らの普段の装いを振り返り気付くリカルド。




(…まあ、いいか。ずっと必要な薬のようだから、何か特別な入手ルートがあるんだろう)

そもそも、自分だってエレーネに明かしていないことがある。一緒に旅をしているからといって、相手の全てを知っている必要はないのだ。それが互いの不信につながることはない。

 部屋に戻ると、ゴナンがいそいそと鍛錬の身支度をしていた。

「あ、もう行くの?」

「うん。すぐ教えてくれるって。早くリカルドにもらった剣を、振れるようになりたいから」

「ふふっ。でも、病み上がりなんだから、無理しないでね」

「大丈夫」

そう言って目を輝かせ、剣を大事そうに持って部屋を飛び出していったゴナン。明日はまた、天気が良ければ青空教室が開催される。それもゴナンはとても楽しみにしているようだ。

「……」

少し複雑な表情を浮かべつつ、リカルドは1人、書斎へと向かった。

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「遅くなってごめんなさい」

 少し時間が経った後、エレーネが書斎へとやって来た。すでにリカルドがナイフと共に、ウキ近辺の地図を開いている。

「大丈夫だよ。どうせ、半月後までのんびりしているんだからね」

「ちょっとミリアにお茶をれてあげていたの」

「エレーネ、あなた、ミリアの召使いさんみたいなことまでしなくてもよいのではない?」

ナイフが心配そうにエレーネに尋ねる。ディルムッドと違って、エレーネは決してミリアに従属しているわけではないからだ。しかし、エレーネはクスッと笑った。

「ええ。ミリアにも同じことを言われたわ。それで自分のお茶は自分で淹れるというから、淹れ方を教えたのだけど、どういうわけかミリアが淹れると、何度やっても泥のようなお茶ばかりが仕上がるのよ」

「……」

思わず顔を見合わせるリカルドとナイフ。

「それで、その泥のようなお茶を意地でも飲もうとするの。流石に体に悪そうだから、お茶だけは淹れてあげているのよ。心配しないで」

「そういうことなら、よいのだけど」

ふふっと笑う3人。エレーネも椅子に座り、卓上の地図へと目を向ける。

「この地域は水場が多そうだから、探索が広域になってちょっと大変そうね」

「それもあるし、もう一つ、実はちょっと違う難しさもあるんだよね…」

「?」

リカルドは、地図の脇に置いてある書物を開いた。




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