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美しい女シリーズ:番外編 ー    「愛してっと」 七田談 女の友情


木曜の午後、唯一同性の親友から半年ぶりにlineが来た。

ー なえこーーー

ー あいよ。どした?

既読になってから 数分後…

ー 勇気ちょうだい

ん?勇気が必要なのか。そう思って返信した…

ー ゆみ、愛してっと。

すこし経って 携帯電話がチロリンと鳴った。最近変えた携帯ケースがフリップ型で マグネットの開け閉めが実はめんどくさいのだが、ゆみからのメールを読むためには 何でもしてしまう私。返信は一言…

ーさんきゅ。

鼻でふっと笑って また携帯のマグネットをカチッと閉じた。

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私は昔から少し変わった子であった。団体行動よりも自分の好きに自分一人で動いている方が気楽な子。一緒にいたいという子は拒まず 一緒にいたのだが、自分から誘って一緒にいる事は全くなかった。女子によくある”一緒にトイレに行こう!!”…別に自分がトイレに行きたいタイミグでもないのに 何故にわざわざ”トイレ”についていかねばならないんだと、片っ端から”断っていた。慕って来られるのは拒まないので 後輩の女の子たちからは好かれたのだが、トイレに誘う同性の同級生には目の敵にされることが多かった。帰国子女で 勉強が出来て 先生に好かれて…となると同性の先輩方にも評判は良くない。靴に画びょうが仕込まれていたが 平然を装い靴を履き 血まみれになって帰宅したこともある。(…まぁこの話は また別の機会にしたいと思う。)その点 男友達は気楽だった…素直に”お前すごいな”と笑って言ってくれる子が多い、トイレには誘われない、”じゃな”と下校後すぐに大好きな家へと返してもらえる…廊下でチャイムがなっても噂話をし続ける女子たちにはついていけない そんな奴であった。

そんな私に女親友が出来たのは 高校に入学した時だった。
いつから親友になったのか はっきりとした日はない。親友だよねと確かめ合ったことも一度もない。

初めて会ったのは推薦入試当日の日。駐車場に止めた車 隣の車から同じタイミングで降りてきた受験者が彼女だった。特に際立ったところもなく、どちらかというと野暮ったい。目も何となく眠そうな女の子。試験当日なのに 特に意欲満々なわけでもないし、不安そうにしているわけでもなかった。私の気にとまったわけではないのだが、その日の彼女は今でも鮮明に覚えている。
高校三年間…一度も同じクラスになったことはなかったが、ボランティアクラブで一緒になった。マイペースで どこか天然。いつも眠そうなのに 鋭いところをついてくるそのギャップに興味を持った。ぼそっと呟くことが 爆弾発言だったり、意欲みなぎる発言だったり…それでも淡々と眠そうな顔で言葉を放つ。変な所で変な笑い方をして爆笑するし、なんなんだこいつは!!と楽しくなった。

一緒にいても 案外お互い自分の好きなことを同じ空間でするだけだったり、無理して歩調を合わせなくとも 最終地点で合流できればすべてよし。なにより…トイレに一緒に行こう!がなかった。トイレに行きたければ勝手に席を立ってトイレへと向かう彼女は最高だった。一緒に学校の外でも時間を共にするようになり、決まってデートコースはこうだった…

①献血センターで輸血
②献血センターで無料のスナックを好きなだけ食べ
➂献血センターの真下の映画館で映画を見る
④近くのモスバーガー店でこんにゃくゼリーを飲む

七田の花の高校生活である。(笑)献血をした後に 血の気が引いた状態で映画館の長椅子に座るのはこの上ない解放感であった。それはちょっとハイになったような感覚と同じである様な お酒を飲んでほろ酔い気分の様な そんな感覚。若い女二人してはぁーーと心地よい溜息をつきながら 同じような気持ちで映画を見いる。話さなくとも同じように彼女も感じていることは 心のどこかで分かっていた…だからとても心地よかった。 

若かりし頃の私はプライドが高かった。その壁を眠そうな顔でぶち破ってきた 初めての女も 彼女だった。

”なえこはなんで強がってるの。ばかじゃん。”
”はぁ~バカって何よ!”
”だってばかじゃん。泣きたい時には 素直になきゃぁ~いいじゃん。なえこは ただのばかだね”

真顔で言われても頭に来るのに、眠そうな野暮ったい奴に言われた時には 内臓が出てくるかと思うくらいだった。…が どこかでほっとして ばかと言ってもらえたことが嬉しかった。その日は初めて同性の前で泣いた。

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高校を卒業し お互い遠く離れた大学に入り 二人とも医学系の道に進んだ。メールよりも手紙のほうが ゆみとの連絡は取りやすかった。とはいえ実習や研究室でお互いに忙しく 手紙も半年に一度くれば良いほうだった。全学部を含めてもTopで入学した私は医学部にも誘われ 好きなものに手を出しまくっていた。 メジャー専攻のリハビリ科以外でも 医学部授業への参加、解剖学研究室と法医学研究室にも属し 下級生の解剖実習補助員に バレー部のマネージャーもやっていた。大学授業後は即研究室へ行き 部活は医学部のバレー部で先輩の研修が終わってからの練習になり 夜の8時から11時…そこから皆で夕飯を食べ、家に帰って夜中の2時からレポートを書く。睡眠時間1時間も取れずに明日になる…吐血の毎日を繰り返しても ゆみに連絡をすることはなかった。
病院実習のとある朝…私は家で倒れた。夕方まで気を失って、その日を境に 私の肩書は”大学中退”になった。

実家に帰ってきて 真っ暗闇の中 私は療養を続けていた。どん底にいるような気分だった。 とある日、ゆみが訪れた。第一声、彼女が放ったセリフは

”あっ、おおバカだ”

眠そうな目を大きく開いて ニカっと笑ってそう言った。

”ああそうよ、おおばかよ”

そう彼女に言われると 認めるしかない。

”まっ、有名作家は中退多いし ある意味中退って かっこいいんじゃない?”

少し考えた…まぁそれもありか とそう思えた。

”まっ、私は卒業するけどね。”

厭味ったらしく どん底の私にそう言った。私よりも勉強できなくて 不器用な彼女は 今は立派な産婦人科リーダーナースになっている。

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体調も回復し、仕事を始めた。大学に戻る気はサラサラなかった。両親もお前の好きなようにしなさいと、優しく笑って高額の授業料を棒に振ってくれた。両親が静かに、でも暖かく 強く深く私を”見守って”居てくれたことは 今の私の大きな糧となっている

ちょっと蒸し暑さが増す夏の夜…ゆみからの電話が鳴った。

”なえこ”

”ん?どした?”

いつもと変わらない淡々とした声で私の名を呼ぶ ゆみだったが

”声がききたいなと思ってさ”

その一言で 何故か行かねばという気になった。

”今から迎えに行くよ”

そう言ってすぐに電話を切って 車を出した。飛び出ていく間際に 両親にどこへ行くのかと聞かれた。その時に ゆみの声を思い出して ”たぶん ゆみと海”と答えた。それを聞いて母がなぜか私に父の野球帽を持たせてくれた。それを深くかぶると ”気を付けて行ってきなさいね” 母はそう言ってニコッと笑い、父は”帰りにぷっちんプリン買ってきてくれ” と…ちゃんと帰ってくるんだぞ。をちょっとひねって 私に言って 真夜中の外出娘を見送った。今考えると ものすごい偉大な両親に私は育てられたものだ。

ゆみの家の前に着くと ぼーっと暗闇にゆみが座っていた。”ほれ、のりな”と助手席の窓を下げて言った。
車に乗り込んだ後 ゆみは何も言わずに ただぼーーっと外を眺めていた。ゆみを知らない人にしたら、それが普通のゆみだった。けれど、私から見たら かなり凹んだゆみだった。何処へ行ってくれとか 何をしたいとも、 何とも言わずにただ助手席に座っていた ゆみがぽつりと聞いた。

”どこ向かってるの?”

”そりゃ 海っしょ!”

そう言ったら ゆみの目が潤んでいた。

20分ほど車を走らせると東海岸の砂浜だった。海の駐車場には何十台の車が何故かぐるぐるとゆっくり円を描きながら走っていた。
車を止める…駐車場に二人乗りのスポーツカー 夜の海でも案外目立つ。すると一台の車が横にピッタリ止まった。ふとその車を見ると 男性が何人か乗っていて こちらを凝視している。これには ゆみもビクついたらしい…目を真ん丸にして運転席の私に振り向いた…私を見たと同時に、安心したように 目がまた寝むた目に戻っていった。ん?なんなんだ??バックミラーを覗いてみると、野球帽を深々と被った ショートヘアな自分が映った…この時だ、母のすごさを知ったのは

隣の車に乗った男性たちは 私を見るなり チッと舌を打ち 車を後退させ またぐるぐると回る車の列に戻っていった。男だと思ったらしい…車から降りたら こんなチビな男がいるわけないだろうというくらいの背丈なのだが、野球帽に救われた。

車を降りて砂浜を二人で歩き始めると、ゆみがぽつりと言った。

”私 すっごい失恋しちゃったかも”

何も言わずに そのままずっと海辺まで二人で歩いた。夏のじめじめした風が 海の水を含んで一層 べたっと生ぬるく感じていた。

岩場に腰を下ろし じっと波打ち際を眺めていた。別に何か言わなければとか 言わなくてはという気持ちはなかった。が、突如ゆみが言った。

”ねーこういう時って なんか言ってくれるんじゃないの?!”

”えー…何か言うものなの?”

いや なんか言ってくれるかなって…”

そんなことは一度もゆみから言われたことがなかったが…じゃあ…

”失恋で凹んでるだなんて 正直かっこわるーー!!”

大笑いながら そう言った。いや笑う気は無かったのだが、正直な気持ちと 正直な笑いが出てきてしまった。少しムッとしながら

”なんで、ウケてるのよ!!なえこは もう!!”

そういって ゆみも笑った。

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何時間もそこに座り続けてじっと海を見ていたら 海が明るくなってきた。朝日が昇る。あーーー、朝帰りだ…。そう思っていたら、ゆみが

 ”うわー朝帰りで 不良娘だ” と そう言った。

二人で朝日が海から登るのをみて ちょっと腫れた眠そうな目が笑って かえるか…と私に言った。岩に張り付いたかの様な重い腰を上げ 駐車場に向かって歩く途中 不意に口から溢れてしまった。

”ゆみは 「見る目がない男」をすきになったんだな。。。”

気づいてしまったそれが ぽつりと口から溢れた直後に ゆみが ポカンとブサイクな顔になった。それを見て

”まっ、次は 「見る目がある男」に恋するんだな!!”

そうしたらゆみは 下を向きながら ”ありがと”と言ってくれた。


ゆみを家まで送って またねと言って車をUターン。
玄関の階段を上がっていく ゆみの背中をみて 車を止めてウィンドウを下ろした。

”ゆみーーー”

私の呼び止めで くるっと振り返った ゆみ

”愛してっと!!!”

早朝にもかかわらず、大声でそう叫んだ。すると ゆみが思い切り笑って

”わたしも!! 愛してっと!!”


それ以来、私たちの何事も解決してしまう合言葉は 

”あいしてっと” になったのだった。


女の友情も悪くない。20年以上たった今でも、連絡は年に数回あるかないかだ。それでも、遠くにいても どこにいても ゆみが私の為にいつもそこに居てくれると そう信じられるし、ゆみの為にここにいたいと そう思う。同性の親友なんて絶対できないと思っていた自分だったが、”ゆみ”の存在がある今 昔の自分に鼻先で笑ってしまう。

またゆみから連絡が来るのはいつなのか…そう思ったら ついつい今日メールを打ってしまった。

ー それで 勇気は実ったの?

ー ばっちり 実りましたよ!

七田の女の友情は 今日も強く繋がっている。

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写真はわたしとゆみです。。。流石にゆみにぼかしは入れたのですが…怒られます絶対に…(笑)。

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あとがき:

…朝帰りをして帰宅した私だったが…ドアを開けたら 父がパジャマ姿で立っていた。早起きしない父が目をこすりながら発した言葉は…

”ぷっちんプリン買ってきたか?”

私は後ろに隠し持っていたビニール袋を笑顔で父に差し出した。


今回バナーに使わせていただいたのはノートで出会った素敵なアーティスト“白黒ええよんさん”の作品です:)

実はみんなのフォトギャラリーにどうやってもたどり着けなくて 使い方を学ぶのに数日以上...実は今日だけで3時間かかってやっと見つけられました:) 気づいたら明け方の4時です(苦笑)。と言うことで 皆様も白黒ええよんさんのアートチェックしてみてくださいね:) それでは おやすみなさい!!


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