見出し画像

ユーモアはいかが?

20代半ば、友人とパリへ旅行したときのことだ。現
地にも慣れた3日目くらいだったろうか。バーでお酒を飲み、
ご機嫌でホテルに戻って来ると、部屋のカードキーが全く反応しない。
深夜0時をまわっていたし、廊下で年頃の女の子がウロウロしているのも
物騒だ。私たちは急いでフロントへと向かった。
静まり返ったロビーは、人を不安な気持ちにさせる。
二人は速足でロビーを通り抜け、フロントに到着した。
薄暗いフロントに立っていたのは、白髪に白髭のダンディーな男性。
歳の頃は60歳前後だろうか。顔はヴィクトル・ユーゴーに似ている。


「This key ! Don't open!」
アホな英語で身振り手振り伝えると、
ヴィクトルは大きく驚いた後、頷いた。

良かった!伝わった!
早く新しいカードキーを、おくんなはれ!

するとヴィクトルは、新たなカードキーを渡すことなく、
私たちの後ろを指差した。振り返ると、そこには大きなソファーがあった。
「へ?」
再びヴィクトルを見ると、両手を合わせて『ねんね』のポーズをしている。
「部屋に入れないなら、ここで寝ろってか?」
得意げに頷くヴィクトル。

このまさかの対応に、私たちは大笑いをした。
「はぁい!じゃあソファーで寝まぁす。・・・って、なんでやーっ!」
ヴィクトルのユーモアのおかげで、
ちっぽけなアクシデントがたちまち楽しい思い出に変わった。


これが日本だったら、どうだろう?
マジメな日本人はきっと、
「ご不便ををおかけして、申し訳ありません!」
などと丁寧に謝罪をし、急いで新しいカードキーを出し、
部屋まで送ってくれるだろう。非常に丁寧で素晴らしい接客だ。
だが、おもしろいかと言えば、おもしろくはない。
カードキーが壊れたエピソードなど、全く記憶に残らないだろう。
私の個人的な好みで言えば、ワンクッション遊びがあってから、
その素晴らしい対応をして欲しいところだ。


とはいえ日本にも、ユーモアに溢れた人は沢山いる。
ある紳士と京都祇園のバーで飲んでいたときのことだ。
そろそろ店を出ようということになり、
男性はバーテンダーにチェックの合図をした。
金額を確認して、お金を支払う男性。
しばらくすると、バーテンダーが慌てて戻ってきた。
「お客様、申し訳ございません。こちらの金額になるのですが、、、。」
と、預かったお金と伝票を見せた。
代金は8000円ほどだったが、男性はうっかり5000円札を渡していたのだ。
こんな時、あなたならどうする?

多くの人は、「あ!すみません。」と言って、一万円札と交換するだろう。
しかし、この男性は違った。
自分のミスに気づくとニンマリ笑って、
「いやぁ、バレたかぁ。いつもならウマイこといくんやけどなぁ。」
と言った。そしてニコニコしながら一万円札を取り出し、
「おつりはチップ。」とバーテンダーに渡したのだ。


どうお?このセンス!
私はこういうユーモアのある人が大好きだ。
一緒に話をして楽しいし、トークの勉強にもなる。

ちなみにこの男性とは、故・武邦彦さんである。
武先生はあれほど偉大でありながら腰が低く、ユーモアに溢れた
優しい方だった。私は武先生が大好きだった。


ユーモアは、偉大だ。ユーモアは人の心を動かし、笑顔にする。
そしてユーモアは、ピンチのときほど必要なのだ。
私も武先生やヴィクトルのように、
常にユーモアを持った人間になりたいと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?