マガジンのカバー画像

ショートショートまとめ

36
書いたショートショートをまとめてます。 結構面白いです。
運営しているクリエイター

#書く習慣

【ショートショート】9月とは友達になれない

【ショートショート】9月とは友達になれない

書く習慣 お題「現実逃避」

必死に逃げても、立ち向かっても結果は同じ。
ヤツは当たり前のような顔をして、僕たちの首を刈る。
こうして僕が目の前の現実から逃げて、ロクに集中もできないゲームを続けている間にも、ヤツは刻一刻とその距離を詰める。

「9/1」

それが、僕が恐れる死神の名前だ。
部屋にかけたサッカー選手のカレンダーに視線を遣る。
メッシの左足がサッカーボールに光速を与える瞬間のアップ。

もっとみる
【ショートショート】再会に鼻歌を

【ショートショート】再会に鼻歌を

書く習慣 お題「君は今」

同窓会の欠席は1人だけだった。
それが河本陽菜乃だと知った時、落胆と安堵が両立していた。
河本陽菜乃は高校時代の元カノだ。
別々の大学で遠距離恋愛をしていたが、ちょうど1年くらい前、好きな人ができたとフラれてしまった。
僕自身、まだ諦めきれていないところがあったので、会う機会が喪失したことは残念に思う。
ただ、実際に会えたとしても何を話せばいいか分からなかっただろう。

もっとみる
【ショートショート】不幸体質の

【ショートショート】不幸体質の

書く習慣 お題「同情」

「何があったのか、聞いてもいい?」

幼なじみを見据えて、私は言う。

「何って言われても……見てのとおりただの怪我だよ。スピード出してる自転車にぶつかられた」

「なんでバッグないの?」

「ひったくり、バイク乗った人がバーって持ってった」

「なんで下だけジャージ?」

「これは近く通った車が水溜まり撥ねてって、それ被っちゃっただけ」

「柚希、2ヶ月に1回くらい。そ

もっとみる
【ショートショート】雨垂れ

【ショートショート】雨垂れ

ここにいる誰よりも強いこと。
それだけが僕の存在が許容されている理由だった。
持て余すほど広い立体の世界では、何もできない僕は
たった81マスの狭い平面の世界で、無敵になれる。

駒を盤の上に叩きつけ、立ち上がって去っていく相手を見送った。

「あーあ、あいつ。またやってるよ」

どこかで呟かれた声は、勝負を放り出して逃げた相手にかけられた言葉ではない。
圧倒的に優勢な状態でいながら、トドメを刺そ

もっとみる

【ショートショート】拝啓10年前の私へ

差し出された便箋には見覚えがあった。
この小さい水玉の柄は、自分が愛用しているものと同じものだ。

そして中に見えた癖のある文字にも心当たりがあるからだろう。
「これは10年後のあなたから」だなんて胡散臭い文句を添えて渡された手紙を疑う気がそれほど起こらないのは。

ただ、10年後の自分が、過去の自分に手紙を送れるとしたら、今、この瞬間がベストなんだろうなと推測はできた。
この手紙の如何によっては

もっとみる
【ショートショート】花束に替えて

【ショートショート】花束に替えて

捨てられていた花束を拾った。捨てられている割には綺麗な姿だった。ゴミ捨て場にポンと置かれていた。仮に花弁がバラバラに散ってでもいたなら、まだ救いようがあったように思えた。

加害すらも与えられずに捨てられた花束からは、徹底的な贈り主への無関心が窺えた。おそらく贈り主はまだ、花束が捨てられたことさえ知らないだろう。

そうしてこれまで通り、伝え続けるのだ。昨日は花束に代えたそれを、花束以外の何かに変

もっとみる
【ショートショート】人のものをとったら泥棒

【ショートショート】人のものをとったら泥棒

書く習慣 お題「どこにも書けないこと」

「白状」と題された日記のページを繰ると、次々に出てきた変哲もない日常。そこにはただの同級生だった頃の福田さんの心底が描かれていた。

2022年の1月から始まった日記は飛び飛びになっていながら、2022年の12月まで続いていた。最終日は12月24日。多分、福田さんが決心を固めた日だ。

12月に入ってからのページを除けば、内容は概ね和やかなものだと言ってい

もっとみる