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『言葉』だけから『美意識』を知ることの難しさ

民芸運動のリーダーであった柳宗悦氏。

彼は
飾るための美術品ではなく、
自然で、健康的で、作為がない実用品であること
を重んじていました。


彼の美意識について、少しだけ文章を引用して紹介します。

当時の工芸界は華美な装飾を施した観賞用の作品が主流でした。そんな中、柳たちは、名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具を「民藝(民衆的工芸)」と名付け、美術品に負けない美しさがあると唱え、美は生活の中にあると語りました。そして、各地の風土から生まれ、生活に根ざした民藝には、用に則した「健全な美」が宿っていると、新しい「美の見方」や「美の価値観」を提示したのです。

日本民藝協会ホームページ




とある「毒舌な偉人」が残した言葉


美意識に関するちょっと毒舌な
10の名言をご紹介します。


ひとつひとつの言葉を
ゆっくり・じっくりと味わっていただけますと幸いです。

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食器そのものを愛し、取り扱うことが楽しみであり、
その食器をいたわりいたわり扱うところに、料理との不二の契りが結ばれるのです。」





信楽水指について

「人間が野心を持たないで、無心で物を作るとき、その作品は嫌みが無い。
これと反対に、つまらない人間に限って、
あさはかな了見で計画的に造る作品は、ピントがはずれているのみならず、卑しく嫌味で見られない。
本物の良さは、天真に近い。




瀬戸唐津茶碗について

「殊にカイラギの美、釉のちぢれ、焼き損じなどを認めることなどは、
ツルツルした無傷ばかりが物の良さとばかり心得ている肉眼の人たち、
即ち今の多くの作家たちには解しがたい
ものだ。」





世間体を気にする 今の作家について

「いかに一休が戒めても、キリストが人生を説いても、
「緋の衣」を着ることばかり一生懸命ではないか。





「生けられた花の器が花との調和を欠く時、せっかくの花が死んでしまう。
だから花を生けるには、花器を選ぶことは花を選ぶ以上に大切なことになってくる。」





「私の人生は生来美が好きだ。
人の作った美術も尊重するが、絶対愛重するものは自然である。





「真に美なるものは、かならず新しい要素を多分に有するのである。
真の美なるものは、いつまでも新しいのである。





無理をせぬことが芸術の要領であり、
健康のための本旨
でもあるとするなら、守らねばならぬ。」





現代作家について

「人間が出来ていないから肚というものがない。肚が無いから腹芸が出来るはずがないとなる。
腹芸が出来ないために、猪口才で行こうとする。手先で器用な細工をしようとする。
かくて浅薄な作品ばかりが、後から後へと柄を変えて生まれる。」






この世の中を少しずつでも美しくして行きたい。
私の仕事は、そのささやかな表われである。」





種明かし




上記のいくつかの名言

実は柳宗悦氏のものではありません。


柳宗悦氏の説明の後に書きましたので、誤解されていた方も多いんじゃないでしょうか?

見出しには「毒舌な偉人」と書いていますが、
誰の名言かは書いていません。


最初から誰の言葉なのか気付いていたあなた、流石です。

つまらないことをして、すみませんでした!
お詫び申し上げます。





北大路魯山人氏



さっきの名言、
実は柳宗悦氏と美意識をめぐってバチバチに対立していた
北大路魯山人氏の言葉なんです。

ちなみにお2人が特別に仲が悪いというより、
お2人とも大変な毒舌家でしたので、それぞれあっちこっちで喧嘩しています。




北大路魯山人氏の美意識柳宗悦氏の美意識は、
お2人が大喧嘩するほど違うのですが、

「何に美しさを感じているか」を「言葉」だけで表現すると、

お2人とも同じようなことを言っているんです




北大路魯山人氏は自身を大芸術家であると自負していますので、
上記の名言の後に「個人作家として如何に美しい物をつくるか?」と続きます。

その部分の違いは、柳宗悦氏と大きいですけど。


言葉のみから美意識を遡ることの難しさは
過去の記事
にも書いています。



見てみなきゃ分からない


実物を見ずに、文章や理論だけから遡ると
その文章や理論が伝えようとしている美意識が見えなくなる場合もあるよ
というお話でした。


具体的に言いますと、
「気になる美術・工芸があれば、文章はもちろん大事だけど
出来るだけ美術館で本物見る方が大事ですよね!」
ってことです。

私は本も大好きですので、本がダメだと言っているわけではありません。

ただし、
本の中で悪く書かれていた作品が、自分にとっても悪い作品とは限らないんです



私自身、本の中で憧れていた実物を見て
「あれ?本で読んだ時は感動してたのに、あんまりピンとこないなぁ…」
となったり、

逆に
「本で見るとパッとしなかったけど、メチャクチャいい茶碗じゃん!!!」
となったりした経験があります。





実物を自分の目で見るまでは、
本当に自分が感動するかどうかなんて分かりません。



さいごに








やきもののことを知りたい。
どんな本を読んだらいいかと尋ねる人がいる。

美人を見たいが、どういう本を読んだらわかるかね?

仙厓和尚が生きていたら反問しよう。


ー 北大路魯山人









私達は只 率直に見たのである。

見て驚きを感じたのである。

事の起こりはそこから発した。

ー柳宗悦








2023年7月6日(木) 西川智成

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