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初めての記者発表会で泣いた話

フリーランスとして働き始めてすぐ、前職の上司で私より先に退職された方から「うちの会社で広報をできる人を探している」と連絡をいただいた。
その会社は2009年に「セカイカメラ」というアプリで一世を風靡した頓智ドットという会社で、当時ITスタートアップ系に関わっている人なら知らない人はいない会社だった。

セカイカメラはAR技術を使って「現実世界にタグをつける」というコンセプトのスマホアプリ。
アプリを起動してカメラをかざせば、そこにある店舗の情報や口コミなどが見えるという世界を目指していた。ガラケーではできなかった使い方だったので、日本で初めて発売されたiPhoneのキラーアプリとして話題になって、公開後4日間で10万ダウンロードされたらしい。もちろん私のiPhoneにも入っていた。

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世の中の認知度とは裏腹に、頓智ドットは会社としては苦戦していた。ARというそれまで見たことのない技術は面白かったけれど、皆それをどう使って良いのかわからなかったのだ。

セカイカメラを使ったゲームを作ったり、大手企業と提携してプロモーションしたりといったチャレンジもしてきたのだけれど、うまく利益が出せていなかった。そこでセカイカメラに変わる新たなプロダクトを作ろうと、社長も変わり全く新しいサービスを開発したのだった。

そのサービスは「ネット上にある興味関心を位置情報に紐づけて、永遠に終わらない雑誌のように読むことができる」というコンセプトのものだった。

5月から徐々に情報を出し始め、6月に正式にサービス開始、そのタイミングで記者発表会も行いたいのだが、広報をやれる人がいないので手伝ってくれ、というオファーだった。

この仕事は「ITスタートアップ」「雑誌」「広報」というキーワードが揃っている人じゃないとできない、だからあなたが適任だと思って、と言われた。私がこれまでやってきた、大好きなことの要素が掛け合わさった仕事が向こうからやってきた!と感じた。


頓智ドット創業者の井口さんは、PRが天才的に上手い人だった。
セカイカメラの発表のときも、アメリカのTechCrunch50というスタートアップ業界の世界的登竜門のイベントに登壇し、コンセプトムービーだけで話題をさらった。当時のIT系メディアの記者さんは、それまでまったく無名だった髪型が特徴的なおじさんがTechCrunch50に登場し、めちゃくちゃ面白そうなアプリを発表して驚いた、と話していた。

↑TechCrunch50のプレゼンテーションの様子。35秒くらいから始まります。

その後もロエベやゼンリンなどの国内外の有名企業と提携をしたり共同プロジェクトを行ったりと、スタートアップ企業としては最大級の話題を立て続けにいくつも作っていった。

井口さんはその博士っぽい容貌と、お話される内容のユニークさ、彼独特の最先端の感覚とトラディショナルな空気のバランスが絶妙で、とてもメディア受けする人だった。新しい話題がいつもあり、スマホが普及し始めるタイミングで皆その使い方を模索していて、そこにSFの世界でしか見たことがないサービスを提供する人が現れたのだから、世の中が放っておくわけがない。

最初はそんなふうにとても勢いのあるアプリだったが、発表から3年経ってもどう使うのが最適解なのか、だれも正解を見つけられていなかった。セカイカメラ最近聞かなくなったな、と人々が思うタイミングで、井口さんがまた新しいサービスを開始するということで、話題はそれなりに作れそうだった。


独立してすぐの2月から頓智ドットの仕事もすることになり、5月にはサービスの事前登録開始、6月に記者発表会と、2つの山を作ることが決まっていた。
これまで知り合いのPR会社さんの記者発表会のお手伝いをしたことしかなく、初めて自分が仕切る記者発表会となった。そして、忘れたくても忘れられないくらい大変なものになった

そもそも記者発表会は広報マンにとって、いつだって開催するにはかなりのパワーがかかる。
潤沢にコストを使えて時間もあるのならPR会社に丸投げもできるが、そんな会社は一握り。大抵の会社で大きな記者発表会前は、広報部門は殺気立っている。

ちなみに、ざっとやることを列挙すると

- 発表する内容の目的設計(営業やマーケなど、他部門と目的を合わせておく)
- 発表内容の精査
- 登壇資料・招致文書・プレスリリースなどの資料作成
- 機器などの備品準備
- 記者さんへのお声がけ
- 参加者管理
- スタッフ手配
- マニュアル作成
- 会場導線の確認
- 記者、社内、関係各社とのコミュニケーション


これらを全て、1人でやったのだった。

作業だけならそんなに時間はかからない。しかし本当に大事なのは、作業に入るまでの「発表内容の切り口をどうしよう」「プレゼンテーションでどの順番で何を言おう」「この記者さんに来てもらうにはどんな伝え方をしよう」「社内に協力を仰ぐにはどうしたらいいか」などの、考える部分だった。そして初めての体験で誰も教えてくれる人がいない環境だと、それには100倍くらい時間がかかった

記者発表会の直前1週間はほぼ毎日徹夜になり、やってもやってもタスクが生まれた。消化よりも発生のスピードが早くなった。
たまたま会社の場所が近かった他者の先輩広報さんが心配してくれて、たくさんアドバイスをくれた上に深夜の愚痴につきあってくれた。泣いた。

当日は30名以上の記者さんが来場してくれて、渋谷の小さなレンタル会議室はいっぱいになった。
井口さんもいつものように人を惹きつける話をして、社長はビジネス面の内容を話して、好意的な記事が多く出ることとなった。

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やることが多すぎて前日から何も食べていなかった私は、記者発表会が終わった午後3時頃、終わった安心感とともにとりあえず何か食べようと、会社に戻った。戻ると机の上に宅急便が届いてた。

親身になってアドバイスをしてくれて、愚痴まで聞いてくれたご近所の先輩広報さんから、新サービスのロゴがプリントされたチロルチョコが届いてた。
「記者発表会、お疲れ様ー!」のメモと共に。

泣いた。こんな気遣いができる人に私もなりたい、と思った。

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