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成功することから逃げ出した話

前回の話の続きです。

アシスタントから営業になります、とお世話になった先輩方に報告をすると、皆とても喜んでくれた。今でも大好きなリクルートの良いところの一つだけれど、誰かが挑戦することに対して曇りなく応援するという姿勢を組織で持っていることは、とても強い部分だと思う。

アシスタントとしては超大手クライアントをメインに担当していたが、営業マンとしては規模的に小さめの会社さんを担当することになった。
最初はチームのマネジャーに同行してもらいながら、どうやって受注を決めてくるのかの流れを学んで行った。

大手クライアントの営アシをしていたおかげで、最近の物件情報や該当エリアの周辺環境、折込チラシに対して住宅情報はどのような役割でどんな貢献ができるのか、どんな営業マンがクライアントから求められているかなど、基礎的な部分の習得はあらかたできあがっていた。クライアントともすぐに対等にお話できるようになって、リクルートとは関係のないチラシポスティングなんかもお手伝いしたりして、信頼関係を築いて行った。

トップ営業マンの横で指示をこなしていたので、その人の思考を少しはコピーできていたのだろう。このくらいできて当然と言えば当然だった。
その結果、初めて任された月間目標の数字から年間目標に至るまで、全ての数字を達成してしまった。

営業マンになりたての頃はチームマネジャーも甘くしてくれて、少なめの数字を目標として設定してくれていたのだが、3ヶ月も経てばそんな温情はなくなる。小さいデベロッパーばかりだったので先が読みづらく、目標金額は少なめに見積もる傾向だったという背景はあったのだが、1年を通して全て達成してしまったくらいから、怖くなった。

なぜ売れるのか、自分でわかっていなかった。
このまま目標達成が続くわけはなく、いつかは外す時が来る。
そのことが恐怖だった。

こんなことなら、初月くらいは達成しなければ良かったとさえ思った。
達成しない月が早めにあったら、挽回の仕方や仕事がもっと伸びるきっかけにもなっただろうに、達成し続けてしまっていることで方向を見失った。

だからといってわざと外すなんて、それもできない。
チームマネジャーも先輩方も誰も私のことを叱ってくれない。
そして良い仕事ができているかというと、そうではなかった


当時の営業部のMVPは、数字を達成していることは大前提で、その上で「良い仕事」をしたかどうかで表彰されていた。
こんな提案をしてこんな誌面を作ってこんな効果があった、という話や、クライアントとがっつり組んでこんな仕掛けをしていった、という「質が高い仕事」を発表し、表彰するという性質のものだった。様々な創意工夫が織り込まれる話が多かったので、それを部内で共有することは意義深いものだった。

NVPはチームマネジャーが推薦して、部長以上で吟味して決めるプロセスだったと記憶しているのだけど、ある時マネジャーが私を推薦してくれた。
内容は、数年取引がなかった小さなデベロッパーとの取引をある方法で再開して◯千万の売上に結びついた、というものだった。

MVPに推薦していただいたのはとても嬉しかったが、私はもう限界だった。

推薦してくれた内容も私にとってはすべて偶然の産物に思えて、何か特別な努力をしたりひらめきがあったわけでもない。なぜこんなに上手く行っているのか、いつ失敗がやってくるのかわからず、混乱していた。ひたすら怖かった未来の失敗に怯えていた

MVPの推薦状を書いていただいた直後に、とうとう私は辞めることを当時の上司に伝えた。

今思い返してみると、単に自分が成功していることが信じられなかっただけだとわかる。
人は失敗することや惨めな気分になるのと同じくらい、成功することも怖がるものだ。ただ変化が怖いだけなのだけれど、当時それを知っていたら、ゆったり構えてクライアントの事業に貢献できることをもっと楽しめたのに、と思う。

25歳の小娘だった私に、そんな心の動きなんてわかるわけもない。
「達成し続けることが怖いんです」なんて相談をしても、何を言い出すんだと笑われると思っていたので、誰にも話せなかった。
独立に向けて準備を始めるなどといった適当な言い訳をつけて、辞めることになった。

そして私は、その期の年間MVPを受賞した。
その2週間後が、リクルートの最終出社の日になった。
マネジャーからは「MVPの発表があるまで、辞めることは公表するな」と言われた。

すべての数字の達成と年間準MVPという勲章はいただいたので
周りからは「絶頂の時に辞めるなんてかっこいい」などと言われながら、
私は成功することから逃げ出したのだった。

続き:

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