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本との出会い、新しい世界

人生とは出会いの連続だ、という言葉をよく耳にします。打ち込める趣味、気の置けない友人、運命の人…人生の形が様々であれば、その出会いもまた色々な形をとって現れます。この記事ではそんな数々の出会いのうち私の出会い、1冊の本との出会いについて書いていこうと思います。

はじめに

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話は私の高校時代に遡ります。お恥ずかしいことに私は高校生になるまでまともに本を読んだことのない子供でした。小学校のカリキュラムに設けられていた10分間の読書時間は机に突っ伏して寝る時間となり、遊びといえば公園に集まっての鬼ごっこやドッジボール。そんな読書初心者の私の頭の中には文学史や世界文学なんて概念があるはずもなく、本は点の集まりとして認識されるにすぎません。

ぽつぽつと所謂「有名作家」の本を読んでいるうちに、作家の出身国や活躍した時代といった知識、そして作家ごとに与え合う影響などの有機的なつながりが少しずつ見えてくるようになりました。ロシア、フランス、ドイツ…名前を知っているのすぎない国々に、読書を通じて徐々に彩りが加えられていく。私がある一冊の本と出会ったのはそんな時でした。

出会い

出会いは全くの偶然でした。小説にも慣れ始め、新しいジャンルの文芸作品も読んでみようと思った私は、図書室で「詩歌、和歌」とラベルの貼られた本棚の前に立ち止まります。立ち並ぶ本を左上から流し目で見ていくと、あるシリーズ本に目が止まりました。タイトルを眺めると「世界名詩集大成」とあります。

小説のことは少しわかってきたけれど、詩になると全くわからない。世界中の名詩が集められているなんて、ちょうどいい本があるじゃないか!そう思った私は早速受付で第1巻を借りることにしました。

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家に帰って本を開くと度肝を抜かれることばかりです。知らない詩人の名前が次々に出てくるばかりか、彼らの出身国さえわからない。それもそのはず、借りてきた第1巻は古代・中世篇で、当時はまだ世界史の授業も始まっていなかったのですからわかるはずもありません。とまあ情けない出会いではありますが、これが私と「古代ギリシア」との初めての出会いでした。

とりあえず本文の詩を読み進めていくと、これが面白くて仕方がない。アルキロコスのあけすけな心情の表明に始まり、セモニデスの今ではフェミニストから集中砲火を受けそうな女性風刺、ミムネルモスの極端なまでの厭世観など、打ち続く個性の爆発に目の眩むような思いをしました。

自分の知らなかった国(正確にはポリスですが)にこんなにも偉大な文化があったんだと思い知らされる、目の前に今まで知らずにいた雄大な景色が開ける…大袈裟な言葉を使えば、それは一冊の本に止まらない新たな世界との出会いでした。

終わりに

それから数年が経った今でも古代ギリシアへの憧れは続いており、文学にとどまらず古代ギリシア哲学を勉強したり、大学で古典語の授業をとったりしています。間違いなくあの時のギリシア詩との出会いが新たな世界への扉を開き、私の人生を変えたのです。

知識も読書量も昔に比べて増えた今では、こうした大きな出会いは減りつつあります。しかし、図書館の本棚やインターネットの記事、古本屋で見かけた古ぼけた本などを通じて、時折新たな世界が顔を覗かせるのです。私はこのようなワクワクするような未知との出会いがこれからも多く訪れることを願っています。

随分と長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださり有難うございました。余談ですが大学生になってから世界名詩集大成を大人買いして、今でもたまに読み返しています。

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