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春のモーニング


今朝のモーニングは
頭痛が痛くて
情動が動いたので
重言を重ねようと
尽力を尽くしていたら
馬から落馬した
そんな気分だ
 
 「ご機嫌いかが?」
 
君は微笑みながら
僕の前に座っている
 
カフェの窓から
空を見上げると
豆腐を潰して
塗り付けたような
曇り空を横切って
巨大なムカデが
へばり付いている
 
目を瞑って
ゲンショー学的な
エポケーを施したら
ムカデとは
僕の頭痛だった
 
 「今日はちょっとムカデが、
  いや、頭痛がしてて」
 「え? ムカ‥‥?
  あなた何言ってるの?」
 
ムカデがぶるぶる
身震いすると
百本の足から
東西南北へ
青い放電が走る
やっぱり痛いな
頭を振ると
空から豆腐がボタボタと
地上に落下する
 
 「けどモーニングセット遅いなあ」
 「忘れられてるんじゃない?
  言ってやらないとだめよ」
 「詰まってるんだよ」
 「何が?」
 「豆腐が」
 「え?」
 「街で作動するすべての機械の、
  穴という穴に、隙間という隙間に、
  豆腐が詰まっている。
  だからトーストも焼けない」
 「あなた何言ってるの?」
 
あのね 今朝 夢を見たんだよ 夢の中できみは 薄っぺらい 虹色の シールみたいな 魚になって 空気中を ひらひら 漂っていた ぼくは 薄いシールのきみを ハサミで切り抜いて 指でつまんで しげしげと眺めた後 浜辺へ行って 海に放したんだよ するときみは 厚みのある 本当の魚になって ぼくの前で 嬉しそうに泳ぎ回ると 身を翻して 大海原へ出て行った だけどそれは 遥かな沖合に ムカデがドーンと 横たわっている 豆腐の大海原だったんだよ
 
僕の頭の中の
夢の内容を知る由もなく
 
 「ふうん、あなたがそんなに、
  豆腐が好きとは知らなかったわ」
 
君はそう言って
窓の外の満開の桜を見ていた

 「今度あなたに、
  豆腐ハンバーグを作ってあげる」
 
やっとモーニングセットが来た
頭痛は少し楽になった

まあ、そんな
春の朝だった
 



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