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【料理エッセイ】そろそろ最強に美味しいレバーパテを決めようじゃないか

 市販のレバーパテはまずい! そう叫ぶのは少し大袈裟過ぎるかもしれないけれど、実際問題、その当たり外れの激しさはひどいものがある。

 もちろん、味覚に個人差がある以上、わたしのまずいは誰かの美味しいかもしれないし、その商品に関わる人がたくさんいることを考えれば名指しで批判はできない。でも、たまに買って失敗するたび、悲しい気分でディナータイムが台無しになる愚痴ぐらい、ささやかに吐かせて頂きたい。

 特に、そういう夜は白ワインやら生ハムやらチーズやら派手に買い込み、主食はバゲットと決めているものだから、レバーパテが戦力にならないと判明したときのダメージは相当。食卓から色が消えてなくなるようだ。

 じゃあ、レバーパテなんて買わなきゃいいのに。そんな声が聞こえる気がする。

 なるほど、なるほど。その通りだろう。どうせダメだとわかっているなら、最初から期待しないに越したことはない。

 でも、これだけは言わせてほしい。わたしはレバーパテが好き好き大好き! 戸川純並みのアンチニヒリズムを発症。そう易々と無視ができないから苦しいのである。

 ちなみにそんなわけなので、何度も自分でレバーパテを作ってもいる。近所のオオゼキで鳥レバーが安くなっていると大量に買い漁り、一日かけて調理するのだ。

 と言っても、作り方は簡単。レバーをしばらく水に浸けて臭みを取り、筋やら血管やらを包丁で丁寧にこそぎ落としていく。その後は塩コショウをまぶし、オリーブオイルとローリエでじっくりと焼き、そこに飴色玉ねぎと生クリーム、バター、隠し味のブランデーを加え、弱火でコトコト煮込むだけ。とろりとしたらお皿に出して、粗熱を取り、あとはローリエを取り出してフードプロセッサーでペースト状にすれば完成。結局、時間がかかるのは玉ねぎを飴色にするまで頑張らなきゃいけないからなのだ。

 ちなみにこのレシピはわたしのオリジナルではない。『100万回生きたねこ』の作者としてお馴染みの佐野洋子さんがエッセイで紹介していたものである。

 なんでも、佐野洋子さんも自分で考えたものではなく、男友だちの恋人の得意料理だったらしい。その二人が別れると聞いたとき、もう二度と会うことはないだろう彼女に慌てて電話をかけ、

「あの、レバーパスタの作り方教えて教えて」

 と、お願いし、絶句されてしまったんだとか。激怒されつつも伝授してもらった方法が巡り巡って、いま、我が家の食卓を彩っているのだから、人生はなんとも不思議である。

 そんなわけで、正直、うちのレバーペーストが最強と胸を張りたいところなのだが、先述の通り、なにせ面倒くさいのが玉に瑕。市販品で楽に済ませたいのがリアルな心情で、結果、バカみたいに痛い目を見続けている。

 大袈裟でなく、これまで三十種類以上のレバーペーストを試してきた。デパ地下だったり、イタリア料理店のテイクアウトだったり、ヨーロッパの言語であることしかわからない説明書きのついた輸入品だったり、ラインナップは多岐に渡っている。その経験に基づいて、缶詰にハズレが多く、個人店の消費期限が短いものはおおむねハイクオリティという法則は導き出せた。

 さて、そんな自称レバーペースト研究家のわたしが2023年9月末時点で最強と信じて疑わない一品を見つけるに至ったので、ぜひとも皆さんに報告したい。その名も東京・東久留米に店を構えるシャルキュトゥリーモエの『マダム・クレアのパテ』である。

 クリームシチューを作っているクレアおばさんと同一人物なのではと疑いたくなるほど、マダム・クレアの腕は素晴らしい。ジンを入っているらしく、さわやかな香りが濃厚な味わいにマッチして、口に入れた瞬間、華やかなハーモニーが響き渡る。

レバーパテ on 木曽路の皿

 黒い粒々は香辛料で、噛んだときストレートに刺激が伝わってくる。また、ちょっと固めな質感なので、諸々、好みが分かれる要素はあるものの、なにせ、価格が500円。このコスパゆえに最強の座は揺るぎないと個人的に確信している。

 しかし、かつて草薙素子が「ネットは広大だわ……」と独り言ちたワクワクよろしく、レバーパテもまた広大だ。してみれば、わたしはその奥深い海をこれからも彷徨い続けたい。きっと、より最強のレバーパテに出会えるはずだから。

 なので、もし、美味しいレバーパテをご存知な方がいたら教えてください!

(要するにこれが言いたかった)

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