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【映画感想文】サッカー漫画に見せかけたカイジこと『ブルーロック』はラカンの精神分析みたい? 見ているこっちまで「新しい自分」に出会えそうで超々楽しかった! - 『劇場版ブルーロック EPISODE 凪』監督: 石川俊介

 普段、在宅の仕事をしながらラジオ代わりにアマプラでアニメを適当に流している。自分の好きなタイプじゃないけれど、話題になっている作品はそうやって、一応、どんな内容なのかチェックしている。

 ただ、最近、『ブルーロック』を見始めてみたら、あまりに面白いさに仕事が進まなくなってしまった。「史上最もイカれたサッカー漫画」というキャッチコピーを聞いて、正直、大袈裟だなぁと思っていたけど、マジで史上最もイカれたサッカー漫画だった。

 というか、サッカー漫画に見せかけたカイジだった!

 ワールドカップで日本代表の優勝を本気で目指すという設定はまだいい。そのために全国の高校生選手から有力なフォワードだけを300人集め、「青い監獄」と呼ばれる閉鎖空間に収容し、サッカーを軸としたゲームで競い合わせる。

 勝ち残れば日本代表入り。負ければ、一生、日本代表に選ばれることはなくなる。そんなサッカー人生をかけた殺し合いによって、各選手のエゴが爆発。世界最強のストライカーが生まれるまでの物語。

 当然、デスゲームなので、騙し合いもあるし、裏切りもあるし、あえて敵と手を結んだり、心理的な駆け引きもバンバン行われる。圧倒的に強い相手を前にして、こんなところで死にたくないと言う執念によって、みんな、どんどん成長していく。

 その上、登場人物が多いにもかかわらず、描き分けがめちゃくちゃ巧みで、かつ、公式カップリングと思しき組み合わせが多数存在し、試合以外のシーンも見逃せない。

 とにかく隙のない面白さで、仕事中だったわたしの指はすっかり止まり、テレビ画面を食い入るように眺めていた。で、全24話を1日で見終わってしまった。あっという間に朝がきていた。

 2期はいつやるんだろう? 続きが気になり過ぎて、調べてみたら、なんと現在、劇場版が公開中とわかった。しかも、うちから一番近い新宿のTOHOシネマズは翌日で終了予定とか。

 運命だと思った。鑑賞しない選択肢はないとわたしのエゴが言っていた。すぐに出かける準備を済ませ、電車の中でチケット購入。ほぼ徹夜状態だけど、果敢に映画館へ向かった。

 で、『劇場版ブルーロック EPISODE 凪』を見てきた。

 ほぼアニメ24話分の内容と同じなのに、語られる視点を変えることで、こんな風にも楽しめるのかと興奮も興奮だった。

 一応、本編のスピンオフという立ち位置で、ポスターの真ん中にいる凪誠士郎くんが主人公。右にいる紫色の髪をした御影玲王くんは相棒で、二人の関係性がブルーロック内で移り変わっていく様子が克明に描かれる。

 凪くんは極度の面倒くさがり。サッカーのやる気も全然ないけど、玲王くんに世話してもらう形でブルーロックに嫌々参加。でも、熾烈な死闘を繰り広げるうちに、自分でも知らなかったエゴが目覚めてしまって、積極的にサッカーを頑張り始める。

 この凪くんの変化は希望であるが、同時に、玲王くんとの従来の関係が終わることも意味していて、なかなかにグッとくる。本編のアニメでも、それは大きな見せ場であり、なかなかに尊かった。

 そして、今回は凪くんの主観ですべてが語られているので、なるほど、そういう風に心が動いていたわけかと腑に落ちて、とてもよかった。というのも、それはジャック・ラカンの精神分析で新しい自分を発見するプロセスみたいで、故に、説得力が満ちていた。なんなら、あまりの臨場感に見ているこちらまで多分に啓発された。

 どういうことか?

 ぶっちゃけ、わたしはラカンに詳しいわけではなくて、片岡一竹さんの『ゼロから始めるジャック・ラカン ――疾風怒濤精神分析入門』を読んだニワカもニワカ。用語の使い方も正しくはないかもしれない。

 でも、そこには『ブルーロック』に通じる記述がたくさんあって、映画を見ながら、そのことをたびたび思い出していた。

 わたしの理解では、一般的なカウンセリングと精神分析は全然違う。前者が患者の社会復帰を目標としているのに対し、後者は新しい自分の発見がゴールなんだとか。

 結果、患者にアプローチする方法も異なっている。カウンセリングでは患者の話に耳を傾け、共感を示すことが大事と言われている。一方、精神分析では共感をしてはいけない。

 患者が話す言葉は話したい内容。従って、それは無意識レベルかもしれないが、本人が聞き手にこう思ってもらいたいという要素が含まれている。もし、その内容を理解してしまうと患者の自意識は固定化され、新しい自分に出会うことが難しくなってしまう。だから、あえて患者の話の腰を折ることで、想定外の語りをさせるというのだ。

 もちろん、これは患者にとってストレスだ。途中で話を止められ、関係ない質問をされ、特に相槌も打ってくれない。腹も立ってしまうかも。ただ、それでも語り続けることでしか、人間は知らなかった自分と出会うことはできないらしい。

究極的に言えば、その人が、それまでの人生では考えられなかったような、新しい<生き方>を見つけ出すということです。それは人生の大部分を構成する<同じようなこと>の反復の中では見えない、まったく新しい人生の道です。

片岡一竹『ゼロから始めるジャック・ラカン ――疾風怒濤精神分析入門』64頁

 わたしはブルーロックって、まさにそういう場所じゃん! と感動してしまった。

 これまで、サッカーはチーム競技と教えられ、One for all, All for oneの精神でエゴを殺してきたストライカーたち。そんな彼らが一堂に集められ、まわりを気にせず、自分のゴールだけを追求しろと言われる。結果、全員がエゴを剥き出しにし、互いに衝突。みんな、自分のしたいサッカーができずイライラしている。

 ただ、そんな地獄のような状況でも、「俺がゴールを決めてやる!」と突き抜けたエゴを発揮する者がいる。それを見て、悔しいと感じ、エゴを目覚めさせる者もいる。

 凪くんは特にそういうキャラクターで、ブルーロック以前と以後で、サッカーとの向き合い方が根本から変わってしまった。そして、そのことに幸せを感じているから、めちゃ推せる。

 なんてことを偉そうに語りつつ、あくまで素人の直感なので、もし『ブルーロック』好きなラカニアンがいらっしゃったら、その辺、本格的に分析してもらいたい。作者がどこまで意識しているのかはわからないけど、結果的に両者がつながっているのであれば、こんなにも面白い理由として納得がいくから。

 そういうことってけっこうある。優れたエンタメ作品は意図せずとも哲学や思想を体現してしまう。クリエイティブって、きっと、そういうことなのだろう。作者は自力でそういう難解な理論を組み立てることができるからこそ、クリエイター(創造者)であり、その世界の神になるのだ。

 少なくとも、『ブルーロック』が神作品なのは確実なので、機会があるなら、未視聴な方はぜひぜひアニメを見てみてください。わたしは原作を読もうと思います!

 いや、それより先に仕事だね……。

 はぁ……。眠い……笑




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