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大量のフレームワークという"手法"に溺れないためのワークショップの類型まとめ

私は仕事で、協創型ワークショップ(Co-Creation )の設計やファシリテーターをすることがあります。ワークショップは、不確実性の高い未来の価値を考えるときや、領域横断的に多様なメンバーと共に価値創造をすることができる「手段」です。

時代の空気として、世論に対し常にアンテナを張り、
・共感してもらい共犯(ファン)へ
・民意が可視化されるSNS時代の信用重視
・多様性が進む中での公平さ

が重視され、経済の在り方が変化している今、対話からイノベーションを起こそうとするワークショップは需要が増えています。

不確実性の高い時代に新たな価値を出す手法

現在、現場で行われるワークショップというものが、かなり多様になって来ています。数年先の未来もあれば、目の前の製品、サービス開発の場合もあれば、公共性のあるものまで様々です。

ただし、人を集めてアイデア出しさえすれば、新しい何かが生み出せるものではありません。
また、ワークショップについて特に大手企業の人から、

「以前、社内でビジネスコンテストでワークショップをしたけど、どの案も採用されなかったし、楽しかったけど時間の無駄だから、ワークショップは好きではない」
「ワークショップ自体が何をするものかわからないし、そんなことに時間を割く余裕はない」

という声を何度か聞いたことがあります。

目的に対して多様化する「手段」の使い方を間違えると、目的を遂行できず、上記の意見のような意識差も生まれてしまうので、それぞれの目的ごとの異なるワークショップのフレームワークを紹介します。

「手段」として正しい使い分けをすれば意味のあるものにできます。
視座、ポジションなどの違いによって異なるものを紹介します。

・ビジョンメイキング・チームビルディング・PR(パブリック・リレーションズ)、ブランディングのコミュニケーション設計・オープンイノベーションのためのアイディエーション・行政と行う公共サービス分野のサービスデザイン・課題の探索のデザインリサーチ・地域社会の課題解決・新規事業・新サービスのPoC(Proof of Concept)開発など。

経営戦略などのビジョンメイキング

直近の経営戦略上の課題の解決策の立案から、数年後の経営ビジョンの策定、トップダウンとボトムアップの両立など、様々な手法があります。

ヒエラルキー型の組織よりも、スタートアップのようなフラットなティール型組織は、各々が意思決定を行う自律型として、階層への忖度や本来の個の力を発揮できない組織と違って、各自が当事者意識を持ち、セルフマネジメントを行い純粋にビジョンに向けて行動を起こすと言われています。

問題解決型ではなく、内発的動機や、あたりまえを疑う「問いの設定」を行えることが重視されています(ただ、ビジョンを生む方法の正解が分かれば何処も苦労していません)

低成長時代の閉塞や、情報過多の複雑化に抗うポスト・トゥルースの時代であるため「脱・人間中心主義」や「スペキュラティブ・デザイン」「ブランドジャーナリズム」という言葉が最近聞かれます。
起こり得る未来や、起こってしまうかもしれない未来を描きだし、現状の停滞を打ち破るイノベーションに望みを持つ傾向があるようです。
「問いの設定」は未来の生活のストーリーを想像し、その在り方を創造することに向いています。
不確実性を受け入れた上で、未来に向けて前向きに「何をするべきか?」を指し示し、テクノロジーが加速する中で「何をするべきではないか?」という仮説を作ることができます。


コンサルティングの一環

コンサルティングには、コンサルティング自体が商品である会社と、自社製品販売のためのコンサルティングの2種ありますが、ワークショップを行うのは主に前者を指します。

第三者としての中立的な諌言として、良い外圧となる良さがあります。
ワークショップとしては、組織づくりのためのレゴシリアスプレイは、NASAのチームビルディングでも実践されています。チームビルディングの一環として行われるワークショップは、会議の場だと、ヒエラルキーへの忖度で議論が停滞してしまうことを避けられます。

座学では一方通行になりがちな組織づくりの研修をワークショップで行うことが増えています。


デザイン思考

デザインの視点のない、技術至上主義的な開発が世間で受け入れられずに空回り、優れた技術があってもユーザーの期待に応えることができない企業が多い日本で、危機意識を持って、デザイン思考が取り入れられています。

デザイン思考でいう「デザイン」とは見た目を良くするだけのものではなく、広義の「設計」として、幅広く行うものです。
既存の課題を解決する方法(イシュー・ドリブン)としてデザイン思考の、人間中心設計(Human Centered Design)は、顧客がサービスを理解しやすく、ストレスなく使えるための王道です。
後述のサービスデザイン、デザインスプリント、インクルーシブデザインもこの考えが基礎となっています。

スタートアップ向けにデザイン思考の要素も取り入れて、たった5日間で新規事業のブートキャンプにしたのが「デザインスプリント」です。
Google Venturesで開発され、アイデア立案、プロトタイプ制作、ユーザーテスト、仮説検証を加速して行う手法です。
定期的に行われる合議制会議で何も進まないというとき、スタートアップ的な動きができる良い方法です。


システム思考

デザイン思考が、観察・発想・試作(プロトタイピング)の右脳的な方法とすれば、システム思考は論理的な左脳を使った全体俯瞰し計画性・確実な評価と検証を行うものです。
技術者でなくても、「システム」とは、複数の要素から成る要素間の相互作用を考えることはできるので、ハードウェア、ソフトウェア、サービス、組織について考えることが可能です。

冒頭に述べた、アイディエーション(チームでの協働ブレインストーミング)を行ったものの、アイデアを発散したままで実現に至らなかったものは、このシステム思考が欠けていた可能性もあります。
(もしくは、ワークショップの設計者の狙いがチームビルディングだったという可能性もあります)

右脳的なデザイン思考と組み合わせることで、イノベーティブなビジョンやアイデアにある「不確実さ」を実行まで落とし込む際に有効と言われています。
システム思考はインフォメーションアーキテクチャ(IA・情報設計)の考えで深く知ることができ、非技術者向けの本で学ぶこともできます。


サービスデザイン

協創のプロセスとして、サービスデザインはデザイン思考と関連しており、有形のものに適したのが、デザイン思考だとすれば、無形の公共サービスなどにデザイン思考と方法論を適応したものがサービスデザインと言えます。

街づくりや、公共機関の課題解決を行政だけの問題にせず、立場の違う市民とが、社会全体での意義や在り方を考えて、一緒に改善していく手法です。

1980年代にアメリカのシティバンクの副社長だったショスタックが、当時のアメリカの経済のサービス化が進む中で、経営管理としてのサービス設計の考えを打ち出し、そこから1990年代以降、ヨーロッパの教育機関で学問として進化していきました。

規模もロンドンオリンピック2012から、世界の空港、医療機関、メディアのコミュニケーション設計、金融システムまで幅広く応用されています。


デザインリサーチ

これは独立した学問の分野も入る複雑なものなので、経済活動で取り入れて実践することは限られています。
マーケティングリサーチのカウンターとして、デザイン思考などでデザインコンサルティングをしている会社が取り入れており、デザイン思考やその流派のワークショップを行う際、デザイナー、戦略・事業企画、リサーチャー、ブランディングを行う人は実践しています。

何かを生み出す前段階や検証として取り入れるのが合っています。

1. 統計学:データやデジタルツールを用いて工学的にリサーチを進めるラボ主導のデザインリサーチ
2. 社会科学:フィールドワークや文化人類学的な手法を応用するフィールド主導のデザインリサーチ
3. 人文科学:文化や美術の歴史について参照しつつ、デザインの発想に応用していく方向性
4. 美術:作品制作を主題とするアート主導のデザインリサーチ


インクルーシブデザイン

ダイバーシティ・インクルージョン」という言葉が最近聞かれるようになりましたが、ヨーロッパの国々では社会での不平等や不公正をなくすために、公共の政策としても取り入れられているものです。
差別や文化面でのソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)を解決するために博物館や美術館などで実践されています。

障がいのある人など、さまざまな問題がある人に対して、つながりを再構築し全ての人々を社会の構成員として包括する試みです。

具体的には、
(1)観察
(2)気づく
(3)練り上げる
(4)検証する
という工程があり、デザイン思考やその流派に似た考えですが、視点が包括的かどうかが重要になってきます。

インクルーシブデザインの視点で、ワークショップを行う際のゴールとしては、認知症の方が接客を行うレストラン「注文をまちがえるリストランテ」のような、活躍できる場作り、美術館の導線設計、障がいのある人にとって着心地の良いアパレル作りなど様々です。

従来はデザインやビジネスプロセスから排除されてきた人々を、上流から共にデザインすることが理想的です。


ソーシャルデザイン

社会課題を解決する点では、こちらも前述の「サービスデザイン 」、「インクルーシブデザイン」と近い価値観ですが、社会インフラの整備や、社会制度、エシカル消費など、地域に根ざした社会課題を民の立場でボトムアップで実行する事例が多くあります。

現場の声を傾聴し、課題を掘り下げて、育児、地域産業、高齢化問題、コミュニティ、格差、災害といった課題解決を行うものです。
ビジネス的な効果より社会貢献要素が強いと言えます。

地域の人々に寄り添うものもあれば、日本全体の人口減少をデザインの力で可視化したものもあります。


アート思考・芸術の創造プロセスを取り入れる

新たな価値創造と対話能力が重視される中で、MITでも創造性と即興性が重要とされる研究が行われています。

デザイン思考が、人間中心であることから、顧客やステークホルダーに目がいき、自分のビジョンではなく既存の課題解決型になりがちであることから、「問いの設定」は別の手法が良いのではとたまに勤めている会社内でも話題になります。
アート思考は芸術家が芸術を生みだす際の思考のプロセスが、不確実性の高い中で未知の価値の発見や新しい価値創造に有効とされ、ここ数年たまに聞くようになりました。

アート思考はフランスのビジネススクールESCP発で、私はまだ実践していませんが、以下のような流れがあるようです。

・貢献:やりたいことや原体験をチームで共有し合う・逸脱:自分のアイデアにチーム内のさまざまな要素を混ぜる・破壊:これまで考えたものを再設計・漂流:別のチームを組みアイデアを立て直す・対話:スケッチなど簡単な形で可視化しチーム内の声をきく・出展:プロトタイピングを発表し、チーム外の人たちの評価をもらう

ビジネスの世界の論理思考で凝りかたまった頭をほぐす、創造性を取り戻すため、身体性に特化した演劇ワークショップや、イタリアの「レッジョ・エミリア・アプローチ」としてアート教育を、大人むけにも取り入れる場合もあります。


ビジネスモデル関連のフレームワーク

フレームワークは空いている場所を埋めれば安心できる反面、フレームワーク自体が目的に対して適切かどうか見極める必要があります。

適切なものの場合は、アイディエーションの結果、面白いビジネスのアイデアが出ても、それが収益化できるか、優位性があるかなど、ビジネスモデルとして有効かどうかを判断する際に役に立ちます。

ちなみにマーケティング戦略というものは、「顧客が求めているものは何か? 」に対しての答え合わせを常に求められるためか、マーケティングのためのマーケティングかのように、フレームワークが膨大にあります。


プロトタイプ制作のハンズオン

新規事業・新サービスのPoC(Proof of Concept)として、要件定義を固める前に、手を動かしてものづくりをするものもあれば、アイデアの可視化としてスケッチを書くことや、エンジニアがMAKERとして手を動かしてデバイスを作ることまで幅広くあります。

プロトタイプ にもさまざまな粒度があります。

・スケッチ・ロールプレイ(寸劇を行う)・段ボールや紙で作るもの・原理試作・機能試作

プロトタイプは「Quick and Dirty(クイック&ダーティー)」という用語がある通り、失敗を許容して、費用を無駄にかけず、とにかくカタチにすることが重要なので、質にこだわり過ぎず「雑」であることをおそれる必要はありません。

素晴らしいアイデアでも話したままや、ポストイットに書いたままでは共通認識には物足りません。
まずアイデアを可視化として、試行錯誤する前提で手近にある材料で作ってしまうほうが、会議や机上の空論で議論を重ねるよりプロジェクトが前に進みます。

完成形の想像がつかない、新しい技術や空間を使ったものなどにも有効です。

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世界的デザインコンサルティング会社IDEOもアプリのプロトタイプは「寸劇」をしています。


まとめ

ビジネスの現場で、ワークショップは多様な手段が増え続けていますが、変化の激しい時代なので、常に自分が変わり続けられるように、特定のフレームワークに固執せず、目的に合わせて良いものを取り入れていくスタンスで在りたいと思っています。

ワークショップ関連は常に勉強しているので、情報交換出来る方、Twitterまでお願いしますー。


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Jun Nakama
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