Femtech(Female × Technology)とFemcare(Feminine Care)について
全世界の半分の女性が対象となり、欧米を中心に急成長するFemtech(Female × Technology)とFemcare(Feminine Care)の市場の最近の流れについて、日本との温度差も含めて考えてみました。
女性のライフステージごとの様々な健康課題に対してのソリューションがあります。以前書いたFemtech(フェムテック)20選にもありますが、非常に多様です。
・月経周期管理
・妊活
・避妊
・ガンの早期発見
・育児に活かせるベイビーテック
・更年期障害ケア
など「リプロダクティブヘルス・ライツ」と関連して幅広く包括しています。
社会的な潮流と関連して盛り上がるFemtech
2025年には、5兆円規模に成長すると言われ、当事者である女性が活躍しやすい、シー・エコノミー(SHE-economy)=女性経済圏としての期待も高い市場です。
女性の健康課題に則したものが多いとはいえ、「Fem」がつくという点が、一般的なヘルステック市場とやや異なるところです。
2016年頃から起きた#Metooや、社会で女性の活躍を阻む「ガラスの天井」がシリコンバレーというイノベーションの地にもあることなど、声をあげる女性たちの連帯から発生したフェミニスト・アクティビズムも後押ししています。
これまで表立って語られなかった、生涯で平均で35~40年間は付き合うと言われる生理、妊活、更年期障害など、女性ならではの健康課題を解決する社会起業家たちが出てきました。
2016年に発生したフェミニズムムーブメントが、社会運動から経済活動につながった件は、こちらの記事に詳しく書かれています。
2019年秋には、Apple Watchにも月経周期管理機能が追加されることになりました。
急成長している反面、医学的にきちんと研究されていないものも出てきてるという指摘もあります。
しかし、Femtechによって、男性優位な医療の世界で遅れている、女性の健康課題研究に注目が向くことへの期待もされています。
医学的なエビデンスさえしっかり固めれば、女性の健康課題に寄与することができるものです。また、PMSなどメンタルに影響するものはプラセボでも悪いものではないという意見もあります。
Femtechは、D2Cサブスクリプションの洗練したパッケージデザインの生理用品や、月経カップ、ナプキン一体型のパンツなど、流通手段はテクノロジーは使っているものの、製品自体はテクノロジーを駆使していないものも同じ括りで語られてきました。
そこで、最近ではFemcare(Feminine Care)という使い分けも出てきたようです。
Femtech / Femcareは女性の市場という表現をしてしまいましたが、トランスジェンダーの「生理のある男性」も存在しています。彼らにも生理があることを話し合う土壌ができ、彼らも手に取りやすい多様性のあるデザインのものも増えています。
タブーをくつがえすリブランディングとしての、FemtechとFemcare
FemtechはFemale × TechnologyでFemtechという概念を作ったドイツ発の月経周期管理アプリのClueが先駆けです。
Femtech / Femcareの製品・サービスはタブーとして隠すことなく使えるような、洗練されたデザインのものが多数あります。
デバイスとアプリを連携させて、取得データで体調管理をするelvieは、FemtechのIoTとして有名です。elvieは骨盤底筋を鍛えるデバイスと搾乳デバイスのロンドンのブランドで、2019年4月に約45億円を調達しました。
女性向け在宅ホルモン検査Modern Fertilityは、自宅でできるホルモン検査キットが届いて、オンライン診察を受けることができます。これもテクノロジーならではのサービスです。
Femecareは入手手段はテクノロジーを使ったものが多いですが、製品・サービス自体はテクノロジーを用いず、生理用品の選択肢を増やしたり、PMSの憂鬱を助けるものがあります。まるでコスメのようなおしゃれなものから、シンプルなものなど、多様性のあるパッケージデザインがあります。
ナプキンの必要ない生理時に使えるパンツTHINXは、#MeTooムーブメントに先駆けて、2015年に「生理」という言葉を使った地下鉄広告を展開し、大きな話題となりました。
D2Cサブスクリプションというビジネスモデルであったことから、Femtechで括られていますが、製品自体がデジタルを使ったものではないのでFemecareの領域に入るのではと思います。
大麻由来CBD成分が入ったタンポンのDayeは約6億円を調達。
CBDオイルを使ったものはOHNEや、セクシャルウェルネスブランドUnboundにもあります。
日本ではTHCが入っていないものなら個人輸入しても良いそうですが、うっかりTHCが入った違法のものを買ってしまうのがこわいので、私は手を出していません。
ミレニアル世代の女性向けの欧米のメディアRefinery29などでは、CBDオイルがPMSや生理の痛みを和らげるのに有効ではと取り上げています。
生理に対してオープンに会話をすると言われている台湾発のブランドDAYLILY(デイリリー)は、東洋医学の漢方でアプローチしており、PMS・生理期間を楽しく過ごすためのグッズが入ったサブスクリプションサービスもあります。
PMS期に食べると症状が緩和されるというおやつのサブスクリプションMoon Cycle Bakeryは、ホルモンバランスを意識した素材のオリジナルレシピを選んで、アプリから購入できます。
あまり言及されて来なかった「更年期障害」のソリューションが増えるのか?
生理についてのソリューションがかなり増えた欧米では、「今まで語られなかった更年期障害について話す時がきた」という情報が増えてきている傾向があるようです。ホルモンの変化により起こる症状を「ヒステリー」などとタブー視していたものが変わってきているようです。
また、forbesではFemtechの次のトレンドは、更年期障害ケアになるのではないかと伝えています。これから更年期を迎える世代は、デジタルを使いこなして健康管理をしているため、Femtechと親和性が高いかもしれません。
すでに更年期障害のオンライン診察サービスで処方するRoryや、体調管理ができるLisa Healthなど、いくつか登場しています。
日本で人口ボリュームの大きい団塊ジュニアの女性たちが、更年期障害に向き合う時期であり、2020年に日本女性の半分は50歳以上になると言われています。更年期障害をケアするFemtech / Femcare は日本でも需要があるかもしれません。
日本でFemtech / Femcareブームは起きるのか?
最近では国内でも、数は少ないもののFemtechスタートアップが出てきています。
また、日本で生理用品を買うと、紙袋やパッケージが透けない暗い色のビニール袋に包まれますが、そんな生理用品について選択肢を増やしたり、紙袋で隠さなくて良いような洗練したデザインを作るプロジェクトが出てきています。
タブーをくつがえすという女性たちの連帯が、日本にも適応されるかどうかは文化的な違いがあるかもしれません。
さらに事業を起こす際、日本ではまだ開拓段階のため、様々な困難はあるようです。
・女性ならではの健康課題のため、VCのジェンダーギャップで事業内容の有用性が理解されにくい
・薬事、薬機法に対してのパブリックアフェアーズ(公共戦略コミュニケーション)が必要
・医療、健康の領域でエビデンスをどう獲得していくか
・日本独自の文化的な側面で受け入れられるか未知数
欧米の女性たちを突き動かした「フェミニズム 」という言葉は、日本ではあまりポジティブなものとは捉えられていないことと、月経を穢れとする文化は語源にも遡ります。
文化的な面で話題にしにくい生理や、人に相談しにくい妊活、情報がなく不安になる更年期障害などを、前向きに経済価値に転換する Femtech / Femcare市場は、女性のライフスタイルを豊かに変えるものとして、日本でも盛り上がるよう応援していきたいと思ってます。
TwitterでたまにFemtech / Femcareのことつぶやきますー。
https://twitter.com/nakama_desu
2020年2月時点のFemtech事情はこちら
Femtechの詳細はこちら。
これまでのFemtechやジェンダー関連について書いたnoteはこちら。
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ランドリーボックスでのフェムテックの連載「フェムテックジャーナル」
執筆した記事。
フェミニンケアとフェムテックの記事。
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