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オミクロン大爆発中のシドニー雑感−−住宅価格高騰や大量退職にみる「安らぎの希求」

デルタ感染の拡大した昨年2021年、オーストラリアでは住宅の販売価格が急騰し、今年も緩やかながら上昇傾向にあるらしい。不動産市場は大賑わいだ。

日本では、首都圏のマンション価格がバブル期を超える高値を付けている。中古住宅市場も、コロナ禍でも概ね堅調といえるようだ。

価格高騰の背景には新型コロナの影響による人手不足・資材不足などの影響もある。低金利や優遇税率といった政策は住宅購入意欲に火をつけ、高値であってもコロナ禍であっても多くの人が新居を求めている。報道を見る限り米国も同様らしい。

シドニーでは現在、日に3万人前後が新規感染し、医療現場は長きにわたって悲鳴を上げ続けている。昨年の長いロックダウンよろしく多くのオフィスワーカーは再びフルリモート勤務に戻ったものの、感染者や濃厚接触者のあまりの多さに人手不足でスーパーマーケットが品薄になる事態だ。スタッフが足りずに店を開けられない飲食店や小売店もある。そんな中、感染を避けながらでは新居を探すにしても見学や引越しなどの行動が取りにくい気がする。

それでも人々が家を求めるのはむしろ、コロナ禍だから、なのかもしれない。「価格が高くても今、安定した住まいが欲しい」という行動の背景には、不安定で不確かな時代だからこそ安住の地とそれを得ることによる安らぎを必要とする人々の心理があるのでは、と不意に思った。しかしそこには、住宅ローン返済のための労働というヘビーなおまけが付いているのだが、安定・安心と引き換えになら安いものなのだろう。

新型コロナウイルスの蔓延は、人々の価値観に明らかな影響を及ぼしている。

ある人は家族と過ごす時間の大切さに気づき、ある人は仕事だけの人生より価値ある生き方を見つけ、ある人は自由に自然と触れ合うことの偉大さを知った。ある人は高級レストランに通うより自宅のキッチンで料理をすることの真意に目覚め、ある人は海外旅行より隣人との挨拶や語らいに心癒され、ある人は自分の住む町の動植物の豊かさを初めて「発見」した。

その証拠に、と言っていいかわからないが、オーストラリア第1の都市シドニーではオミクロン株の登場前から「大量退職」が問題化している。あまりの仕事量の多さに辟易した教師、医療者、法律家などがドッと辞職したことで、現場は人手が足りず大混乱となっているのだ。元より労働時間が長く働く人の負担が大きいことで知られる職種に、この手の大量退職が多い気がする。

ある知人は、職場の人手不足を補うために従来より毎日4時間長く働くようになり、起きてから寝るまでずっと仕事。給与やボーナスは増えたものの使う時間もなくストレス三昧の日々を送っている。しかもリモートワークで自宅にいるしかなく、時には週末にも業務が降ってくるという。

辞めた人たちに関する記事は枚挙にいとまがない。コロナ禍に伴う多忙さからパンデミック燃え尽き症候群になった人、命を脅かすウイルスの蔓延で人生の尊さを思い出した人、人手不足で売り手市場である現状を好感している人など、直接的な退職理由はさまざまのようだ。戦々恐々の雇用者側は、ここへ来てついに「大切に扱わなければ労働者が逃げてしまう」という事実を無視するわけにはいかなくなっている。

「Work hard, party hard」(しっかり働き、しっかり遊ぶ)が従来オーストラリアの一般的な仕事観といわれていたが、その時代はそろそろ終わりが近づいているかもしれない(もちろん価値観の変わらない人も多いが)。

リモートワークになったことを好機として地方への移住も少しずつ、だが明らかに増加している。あくせく働いたお金を毎回ホリデーでパーっと使う、好景気で給料は自然と上がっていくものだから貯金なんて気にしない、というオージーライフのスタンダードが「少し働き、のんびり暮らす」にいずれシフトしていくのかもしれないと予感させるには十分な兆候だ。


■行動が「半径5キロ」に制限されたロックダウンの話はこちら:


■ロックダウン中にどんなことをしたか?の話はこちら:

 

■長かったロックダウンが昨年10月に終わった話はこちら:

 

参考記事:


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