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シドニーの「106日間のロックダウン」が終わった日に思うこと

シドニーを有するオーストラリアのNSW州で、6月下旬に始まり、3カ月以上続いたロックダウン(都市封鎖)が昨日(10月10日)で事実上終わりとなった。

今日10月11日(月曜)から、新型コロナウイルスのワクチンを2回接種済みの人は、行動の制限がほとんどなくなり、町には以前のように人が溢れたようだ。しかし、解禁を素直に喜んでばかりいて良いのか、疑問も大いにある。

1日の新規感染者はまだ数百人

ロックダウン中、最大で1日2000人近い感染者数を記録したNSW州だが、最近は400人前後まで下がる傾向にある。

州政府の方針で、「州内のワクチン接種率が対象者の70%に達する頃にロックダウン解除」という計画の通りに、ロックダウンは昨日で終わった。現在、NSW州では、1回目まで接種を終えた人は約90%にのぼるというから、ワクチン接種に出遅れたオーストラリアとしては、短期間でかなり追い上げたことになる。

州政府の方針は、ワクチン普及と経済の再開がセットで、これがワクチン接種をかなり後押ししたのは確実のようだ。それで、ロックダウンは解除された。

まだ1日に数百人が新規感染しているのに、だ。

ワクチンを打てない人もいる

ワクチンは確かに、感染率も重症化率も、死亡率も大きく下げる効果があることがわかっている。しかし、接種者でもコロナでICUに入った人や、亡くなった人もいて、予防としてもちろん完璧ではない。

それでも、接種した人は抗体ができて、未接種者と比べてリスクはかなり低くなる。問題は、疾患や障害などを持っているために、ワクチンが打てない人たちだ。そして、免疫機能不全などにより、ワクチンを接種してもなおハイリスクを抱える人もいる。

ロックダウンの解除により、彼らは何の装備もなく危険な社会に放り出されるようなもので、誰もその命を保証してはくれない。

また、オーストラリアでは現在、12歳以上がワクチン接種の対象だが、それ以外の年齢の子供は接種できない。小さな子供も、コロナ感染のリスクがあり、デルタ株などでは若年者の感染者が多いにもかかわらず、だ。彼らもまた、ロックダウン解除で危険に晒される可能性が高いことになる。

歓喜にあふれる街、感染再拡大の予想

ただ、大半の人はロックダウンの解除に歓喜の声を上げているようだ。

数日前から、ニュース番組の一部は「ロックダウンの終わりまであと◯日」とカウントダウンを始め、旅行サイトは次のホリデーの行き先候補を早々に挙げ出した。

今日、カフェやパブ(バー)には行列ができ、しばらく閉店していた日用品店には開店時刻から人が殺到したと報道された。もちろん全ての店舗への入店には、ワクチン接種2回が完了済みの証明書を提示する必要がある。

美容院は2カ月先まで予約でいっぱい、という店もあるようだ。

あるテレビ番組では、高齢者の介護施設の前で抱き合う人たちを取り上げていた。感染リスクの高い高齢者施設の訪問はロックダウン中には禁じられており、移動距離の制限もあったので、数カ月にわたり家族でも会えなかった人たちがいたのだ。感動の再会は喜ばしい一方で、まだ保たなくてはいけないはずのソーシャルディスタンスもない様子で、もしその再会が原因で高齢者が亡くなりでもしたら…と考えずにはいられない。

要するに、僕はこの状況でのロックダウンの解除に諸手を挙げて賛成できずにいる。シンガポールなどワクチン接種率の高い国で、行動の規制を解除した途端に感染者数が激増したのも記憶に新しく、医療の専門家たちも警告している通り、オーストラリアもきっとそうなるのは目に見えている。それなのに、なぜ今、という気持ちだ。

僕個人は、しばらくはロックダウン中と同じような生活を続け、社会の様子を見たいと思っている。防疫政策より経済を優先することで救われる人がいる一方で、経済のための防疫政策の緩和で命を落とす人もいるであろうことを、忘れずに考え続けたい。


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