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8.マタニティブルーとパタニティブルー

前回までの記事はこちら
プロローグ
1.男の役目
2.ドキドキとそわそわ
3.初めての産婦人科
4.ママの成長記録
5.夫の役割
6.母子手帳
7.妊娠3ヶ月

5月23日(10週7日)

今日は検診の日だった。前回、前々回は僕も同行したのだが、この日は妻が一人で検診に行っていた。

昼になり妻から連絡が来た。「赤ちゃん元気に動いてたよー!可愛かった」という内容とともにエコー写真が送られてきた。前回までは白黒のエコー写真だったのだが、今回からは4Dエコーももらえることになった。

4Dエコーはカラー写真であり、動画ももらえた。肝心の赤ちゃんの様子はといえば、この数週間でだいぶ人間らしくなってきた。ドクドクドクと早い心拍が聞こえて必死に生命を燃やしていた。手足をバタバタしているのが見てとれて、たった5センチほどの赤ちゃんが妻のお腹の中で動いているのが不思議でなんだか変な感覚になった。

家に帰ると妻はとても嬉しそうに病院での様子を伝えてきた。手足をバタバタしていたこと、先生も順調だと言ってくれていること、血液検査をはじめ多くの検査をしたこと、妻は安心というよりも喜びに満ち溢れていた。



5月24日(11週1日)

マタニティに対する言葉でパタニティという言葉があることを知った。その名の通り、マタニティが母性を示すものに対して、パタニティは父性を表す。
マタニティブルーという言葉があるようにパタニティブルーという言葉があるそうだ。妻は妊娠が発覚するまでは不安そうな顔を時折していたが最近は日に日に母らしくなってきた。

それに比べて僕はどうだろうか。子どもを望んでいたし、妻が妊娠したことはとても嬉しい。しかし、何か言いようのない焦りというものがあることも確かだ。この焦りというのは自分が父親らしくなれるのかどうかというところだ。僕が見てきた父親や、テレビ等から得た情報、また友人の父親としての姿、それらと同じような父親に僕もなれるだろうかといった不安だ。

子どものことを考えるということは、自分のキャパシティの中に余裕がなければならない。時間的にも精神的にも余裕がなければ子どもに限らず自分以外の対象に手を差し伸べることができない。果たして今の自分にそれだけの器量があるのだろうかということを考えている。そのようなことを考えた時、たどり着くのは仕事のことだった。

仕事が毎日嫌で嫌で仕方がない。そのような姿を子どもに見せたくないと思っている。これは何年も前から思っていることだった。自分には特筆すべき才能がない。もしいつか子どもができた時、何も教えられることがないと思っていた。そんな焦りから僕はカメラを手にして、画像を触ることができるようになって、エッセイを書くようになった。これからの時代、親が子に教えられることは限られてくると感じていた。

僕が子どもの時は、親や兄貴からの情報が全てだった。野球をするにも何をするにも自分より長く生きてきた人の情報が正しかったし、それ以外に情報を得る手段がなかった。しかし、今はネットがあるし親に聞かなくても情報が手に入る。それに加えて、僕らが子どもの頃になかったプラグラミングの授業があったりと教えられることが少しづつ減っている。

となると、親が子に教えられることは情報ではなく、今まで生きてきた姿勢や、今まで何をしてきたかということであると思う。
つまり、背中で教えるというやつだ。そこまで思考がたどり着いたのだが、では果たして自分は背中で教えられる人間かという問いにぶち当たった。やりたくない仕事をしてゾンビのように徘徊している姿は子には見せれない。

自分が成長しないと子に教えることもできなければ叱ることもできない。そんな焦りが最近は常につきまとっている。でもこれらの考えは結局のところ、「そういう自分が嫌だ」というだけで子どもを想っているのとは少し違うかもしれない。結局のところ、僕は自分のことで精一杯なだけで自分本位の考え方なのかもしれない。そして多分これがパタニティブルーというやつなのだろう。


5月31日(12週1日)

この日をもって妻が仕事を辞めた。毎日一時間以上かけて職場まで通って、職場でも立ち仕事を務めていた妻を僕は尊敬している。つわりで体調が悪かった時期もその生活をしていたのだから本当にすごい。8年間務めた仕事、お疲れ様でした。



6月10日(13週4日)

この日は検診の日だった。僕は仕事が休みだったので一緒に行くことにした。今回の経過が順調であれば次回から1ヶ月おきの検診でいいとのこと。

産婦人科はこの日も女性の方や、赤ちゃんがいっぱいだった。隣に座っていた子どもがお母さんとジャンケンをして喜んでいるのになんだかほっこりした。大人がジャンケンをする時はその勝敗によってメリットデメリットが生じて一喜一憂するのだが、子どもはジャンケンそのものが勝ったことに喜んで、負けたことに悔しがっている。その光景は純真無垢でとても綺麗だった。

検診の番が回ってきた。妻と一緒に診察室に入る。4Dエコーで赤ちゃんを見る。大きさは7センチ。前回より2センチほど大きくなっている。出血もなく、赤ちゃんの心拍も元気な音が確認できた。しかし、赤ちゃんはあいにくスヤスヤと眠っていた。先生は「せっかくやし起きてるとこ見たいよなぁ」と言って、妻のお腹をグリグリして赤ちゃんを起こしにかかった。何度かグリグリすると赤ちゃんは動いたのだが、顔を反対側にして余計に見れなくなった。「まだ、眠たいよぉ」という声が聞こえてきそうな仕草だった。男の子だろうか、女の子だろうか、性別がわかるのはまだ少し先だがとても楽しみだ。


次回は「安定期」

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