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7.妊娠3ヶ月

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プロローグ
1.男の役目
2.ドキドキとそわそわ
3.初めての産婦人科
4.ママの成長記録
5.夫の役割
6.母子手帳

5月10日(9週1日)

幼稚園からの幼馴染が二児のパパになったことを聞いて連絡をした。心底おめでたいと思った。もちろん一人目が生まれた時も嬉しく思ったのだが、自分もパパへの道を歩み始めたことによって込み上げてくるものがある。

同じように戸惑ったこともあると思うし、その反面大きな喜びもあったことが身をもって実感できるようになったからだ。二児のパパとして尊敬するし、本当におめでたいと思った。

僕の妻は妊娠3ヶ月。安定期に入るまでは友人には言わない方がいいのかもしれないが、最近は言うようになった。その理由としては友人から遊びを誘われたとき断ることが多くなったからだ。妻の体調が悪い時に僕だけ遊びにいってきますと言うのはやはり心苦しかった。その他の理由としては早くみんなに報告したいという気持ちのあらわれだった。

幼馴染に僕のところも子を授かったというと、「まだまだ油断はできないけれどおめでとう」と言ってくれた。「まだまだ油断はできないけれど」というこの一言で身が引き締まった。先輩パパのこの助言によって少し不安になった。

妻のつわりは以前に比べてマシになっていた。一時期は白ご飯の匂いが無理だと言ってうどんやゼリーしか食べていなかったのが、現在は白ご飯を食べれるようになった。僕が食べる食事と同等のものを食べれるようになった。病院の先生も問題はないと言っていたから安心していたのだが、まだ安定期に入ったわけではない。油断をしないようにしなければいけない。


5月12日(9週3日)

妻は体調が落ち着くにつれて偏食もなくなってきた。好きなものをなんでも自由に食べられるのって幸せだとしみじみと言っていた。

1日に必ずおとずれる食事。その食事が制限されるということは多大なストレスであるということは容易に想像できる。日によって、たこの唐揚げが食べたくなったり、マクドナルドのポテトを主食としていた時期を過ぎて妻は僕と同じ食事を摂るようになった。

その日は久しぶりにラーメンを食べにいくことにした。妻と久しぶりの外食だ。ラーメンを食べて美味しい美味しい、と言っていた妻だがその夜ある事件が起きた。

就寝中に僕は目が覚めた。トイレに行こうと思い起き上がると部屋のドアが開け放している。僕は不思議に思ってトイレにいく時ドアを閉めようとしたら、それを妻が制した。気持ちが悪いから少し開けといてほしいとのこと。

昼に食べたラーメンのせいだろうか、僕は少し心配した。僕と同様にモノを食べれるようにはなったもののラーメンは少し重かったのかもしれない。僕は妻に大丈夫かと尋ねたが、気にしなくていいとのこと。結局そのまま寝ることにした。

朝、起きると妻はケロっとした様子をしていた。僕は昨日のことが気になって体調はどうか、と尋ねたら全然問題ないとのこと。そこで、昨日ドアを開け放してほしいと言っていた理由を聞いた。

すると妻は「部屋がにんにく臭くてその匂いが気になってドアを開けて換気していた」と言った。どうやら昨日僕が食べたラーメンのにんにくの匂いがキツかったらしい。妊婦だろうと妊婦じゃなかろうとにんにくの匂いは嫌われるものだ。妻の体調には問題ないということが分かって僕は安心した。



5月14日(9週5日)

妻が職場から帰ってきた。今月いっぱいで退職する妻は職場で知り合った方に、妊娠の報告をしたらしい。そしてその会話の流れで出生前診断を受けるかどうかと聞かれたらしい。

出生前診断(https://www.genetech.co.jp/column/391/)GeneTech株式会社


つまり、お腹の中にいる状態で赤ちゃんがなんらかの病気を持っているかどうかを調べる検査である。赤ちゃんの形態を調べる検査や染色体に関する検査があり、検査方法や検査時期は異なるとのこと。もちろん強制的な検査ではない。なので妻の知り合いの方はこの出生前診断をするかどうかを聞いてきたのだ。出生前診断という言葉を初めて聞いた妻はどうしよっかと僕に相談してきた。


これは僕が結婚する前から考えてきたことではあった。友人の中でも早くに結婚して子どもを授かったKくんが出生前診断をどうしようかと悩んでいた。
出生前診断を受けて異常が分かった場合、その9割の人は中絶をするらしい。Kくんとしては診断を受けて異常がわかるならその決断をするとのことだった。でもKくんの妻は出生前診断を受けたくないという意向があった。結局診断を受けずに出産した。産まれてきた男の子は健康にすくすくと育っている。

もし、障害を持って生まれてきたら、親である自分たちがいなくなった後の心配がある。待ち受ける苦労もある。親族が近くにいない状態で頼れる人もいない。Kくんの気持ちは大いに理解できる。

しかし、一方でKくんの奥さんの気持ちもわかる。
授かった命を自分の判断で決めることはできないし、何よりも自分の子どもが愛しい。命がある、それだけで尊いことだ。

地元の近所には障害を持ったAくんがいる。もし、僕が出生前診断を受けて中絶するという決断を下すのならば、Aくんを否定することになる。そしてAくんだけではなくAくんの家族も否定することになる。

Aくんは障害を持って生まれたが、それはAくんにとってもAくんの家族にとっても不幸なことではない。しかし頭では分かっているけれど、僕はそれを受け入れる覚悟がない。

その一方で、授かった命を受け入れ、人として正しい行動をとるべきなのだと思うのだが、これはきっと僕の意思じゃない。誰かに否定されるのが怖くて、倫理的に正しい道を選ぶべきだという監視の下の決断だ。

まだ検査ができる時期ではないし、検査結果が分かった訳ではない。妻との話はそこで終わった。しかしこれは考えるべき問題だと思っているし、正しい答えが見つからない問題だと思う。それでも向き合わなければならない問題でもある。ただ言えるのは、健康で無事に生まれきて命を全うしてほしいということだ。


次回は「マタニティブルーとパタニティブルー」

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