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【取材記事】廃棄されるはずの「かりゆしウェア」をスーツにアップサイクル。沖縄の伝統が紡ぐ新たなファッションカルチャーと社会課題解決への糸口

沖縄で広く知られる「かりゆしウェア」をスーツに生まれ変わらせた「OKINAWA SUITS(オキナワ・スーツ)」。手がけるのは、ブランディング事業やホテル事業などを展開する株式会社Kenichiro Koyama creative produce office(以下、Kenichiro Koyama creative produce office )です。沖縄最北端に位置する国頭村で、築45年の廃業したホテルをおしゃれなユースホステル「ヤンバルホステル」として生まれ変わらせるなど、地域に根ざしたサステナブルな取り組みが注目を集めています。

今回はKenichiro Koyama creative produce officeでマネージャーをつとめる根間大輔さんに、「OKINAWA SUITS」誕生の経緯や取り組みに込めた想い、さらに今後の展望について伺いました。

お話を伺った方

株式会社Kenichiro Koyama Creative Produce Office マネージャー 根間大輔(ねま・だいすけ)様
沖縄県宮古島市。沖縄味の素株式会社→Kenichiro Koyama Creative Produce Office

■沖縄の一世帯に一着は眠っている「かりゆしウェア」。“捨てる”から“晴れ着”にシフトチェンジする新たな取り組みをスタート

「OKINAWA SUITS」を着用する代表・小山健一郎さん。企画からデザインまですべてのプロセスを手がける。

mySDG編集部:まずはOKINAWA SUITSが生まれた背景を教えてください。

根間さん:OKINAWA SUITSは、JT(日本たばこ産業株式会社)が展開する「Rethink PROJECT(リシンク・プロジェクト)」と協働で発足したプロジェクトです。Rethink PROJECTは、パートナーシップで地域社会の課題解決に取り組むことを目的とするもので、弊社が取り組む「衣類の大量廃棄問題」への活動に賛同していただき、お声がけいただいたことがOKINAWA SUITSプロジェクト発足のきっかけとなりました。

mySDG編集部:今回、廃棄されるはずのかりゆしウェアを使うという流れになったのは、どういった経緯があったのですか?

スーツの制作には上下20着ほどのかりゆしウェアを使用する

根間さん:かりゆしウェアは、沖縄の正装といっても過言でないほど、老若男女問わず夏の正装として当たり前に着られる衣類です。年間40万枚以上製造されていて、おそらく各家庭に一着は着られていないかりゆしウェアがあるはず……という仮定から始まりました。であれば、新しい布地を使わず、それこそ「捨てられる」というネガティブなワードから、スーツという「晴れ着」にシフトチェンジしようという考えのもと、OKINAWA SUITSが生まれました。

mySDG編集部:晴れ着という観点で言えば、今回ドレスとかではなく、スーツを選んだのはなぜでしょうか?

根間さん:元々かりゆしウェアは、ビジネスの場で着用するフォーマルな印象があります。元をたどると仕事着という面もあるので、そういった部分を切り取りながらスーツに仕立て直す方向で今回デザインしました。

mySDG編集部:かりゆしウェアはカジュアルな軽装というイメージがあったので、仕事着という印象はまったくありませんでした。沖縄では男女問わず日常的に着用されるものということも知らず、大変勉強になりました(笑)。

根間さん:かりゆしウェアは以前、「沖縄シャツ」と呼ばれ、「かりゆしウェア」に名称が統一されたのはここ20年ほどでしょうか。2000年の「九州・沖縄サミット」で各国の首脳が着用したことで、一気に広まったという背景があります。

mySDG編集部:ちなみにOKINAWA SUITSとは別ラインで女性も気軽に着られる衣類はありますか?

根間さん:ワンピースがあります。

柔らかな色味と美しいフォルムが際立つワンピース。ざっくり着るだけでも華やか印象に

mySDG編集部:ワンピースだと、より柄の美しさが引き立ちますね。個人的にぜひ着てみたいです! ちなみにOKINAWA SUITSのニューコレクションとして「OKINAWA SUITS TUXEDO(オキナワスーツ タキシード)」もリリースされていますが、OKINAWA SUITSとはどういった違いがあるのでしょうか?

OKINAWA SUITS TUXEDOは、3種類のオーダー方法(イージー・パターン・フル)のほか、レンタルにも対応可

根間さん: タキシードなので、やはり高級感のあるデザインにこだわり、生地は県内の生地屋で使われていない新品の生地を使用しています。

mySDG編集部:使われていない新品の生地はどのように入手されているんですか?

根間さん:かりゆしウェアの工場で反物から買うのですが、型落ちした柄の素材がメートル単位で工場に残っているんです。在庫として残った生地をリサイクルして、マスクやコースターを作られる方もいらっしゃるですが、使う面積がすごく少ないので、なかなか使い切れないというのがあるらしくて……。タキシードのように生地を多く使うデザインは先方からもすごく喜ばれますね。

mySDG編集部:今回のプロジェクトは、地域で売れずに残ってしまった素材をうまく活用していくという点でも、地域活性化につながるものがありますね。

根間さん:そうですね。かりゆしウェアは沖縄の人にとってすごく身近なものである一方、県外の方にとっては、「かりゆしウェアって何?」ということが非常に多いんです。かりゆしウェアをOKINAWA SUITSとして生まれ変わらせて、沖縄県外もしくは日本国外に出すことで、かりゆしウェアないし、かりゆしウェアの業界の人たち——事業者や縫製を担当している人などの認知を間接的に広げられたらという思いもあります。

■回収イベントに集まった600名を超える人の数。結婚式のタキシードに、会社着に、亡き人の形見に生まれ変わらせたいと寄せられた多くの声

浦添PARCO CITY実施した回収イベントでは、626枚のかりゆしウェアが集まった

mySDG編集部:OKINAWA SUITSのプロジェクト発案から市場に出るまでは、どういったプロセスで進行されたのでしょうか? クラウドファンディングも立ち上げていらっしゃいましたよね?

根間さん:クラウドファンディングの立ち上げは、リリースからから結構(時間が)経ってからなんです。まず5月30日の「ゴミゼロの日」にリリースしようと決めたのが4月後半なので、1ヶ月ぐらいでリリースしました。

mySDG編集部:それはかなりの急ピッチでしたね。

根間さん:そうなんです。プロジェクトの進行を時系列でたどると、まずはリリース後に浦添パルコシティさんでかりゆりウェアの回収イベントを開催したんです。かりゆりウェアを持ってきて下さった方には商品券を渡しますという企画だったんですけど、600名から700名ぐらいのお客さんと、さらに予想を超える626枚のかりゆしウェアが集まりました。人の数を見ても、需要があることを実感しました。さらにありがたいことに、回収イベントでも受注が入ったんです。そこからどんどんオーダー受注を取りながら販売しつつ、さらにイベントの反響が良かったということで、浦添パルコシティさんで3ヶ月間、ポップアップを開催しました。その中でクラウドファンディングが始まったという流れです。

mySDG編集部:かなり順調な滑り出しだったんですね。デザインもエッジが効いていて、すごくかっこいいです!

生地の組み合わせによって個性が光るものから落ち着いた色使いのものまで幅広いスタイルが楽しめる

根間さん:柄がすごく良いので、縦ラインにすることでスタイリッシュさを出しています。柄の幅も大体6センチから6.5センチぐらいの幅で調整しました。それ以上の幅になると、柄が強いので、目がチカチカしてしまうんです。なので、柄の細かい部分のデザインにもかなりこだわりました。

mySDG編集部:実際に沖縄の方からの反応はいかがでしたか?

根間さん:両極端に分かれましたね。それこそ「(デザインが)派手すぎて、いつ着るの?」と、着用のイメージが持てないという意見もいただきました。しかし一方で、結婚式で着たいだとか、出張に出かける際、沖縄をアピールするために会社の制服として着たいという要望のほか、単純にデザインがかっこいいからジャケットをはおって会社に行きたいというポジティブな意見もありました。本当に両極端ではあるのですが、私たちが想定していなかったさまざまな声をたくさんいただいています。

中には、おじいちゃんが亡くなられて、使っていないかりゆしウェアの処分を検討されていたご家庭から、「1着作ってください」と依頼をいただいたこともありました。こういう貢献の仕方もできるんだと思い、すごく印象に残っています。

■沖縄から全国へ…そして世界を狙う。古き良きものをクリエイティブな感性と技術であらたなファッションカルチャーとして受け継ぐ

mySDG編集部:ちなみに沖縄県外からの問い合わせもきているのですか?

根間さん:はい、きてますね。

mySDG編集部:どういったきっかけで、OKINAWA SUITSの存在を認知されたのでしょうか?

根間さん:人物を使ったプロモーションという点では、沖縄県出身のバンド・かりゆし58の前川真吾さんがOKINAWASUITSを着て全国ツアーを回ってくれています。あとはOKINAWA SUITSから派生して、京都や岡山、東京、愛知といった土地でも展開を構想しています。先日京都で開催した展示会で沖縄スーツの存在を知っていただき、問い合わせをいただいたケースもあります。

mySDG編集部:都道府県それぞれのご当地素材を使って……となると、岡山県ならデニムですか?

根間さん:そうですね。愛知県だとウールですね。

mySDG編集部:沖縄以外の土地でプロジェクトを構想したのは、OKINAWA SUITSの反響を見てからですか?

根間さん:もともと感覚的なアイデアとしてありました。やはり世界から日本を見たとき、各地域で特色のある衣類の素材があるのは、日本だけなんです。そういった意味でも、可能性はあるなと思いながらも、まずはOKINAWA SUITSを完成させるというところから進めていました。

mySDG編集部:ちなみに御社はビジュアルデザインや企業のブランディングなどを手がかるデザイン事務所である一方、今回のOKINAWA SUITSや廃業したホテルの再興など、非常にサステナブルな活動をされていらっしゃいます。サステナブルな観点でのビジネス展開というのは、もともと考えられていたのでしょうか?

根間さん:前提にあるのは、「プロセスをすごく大事にしたい」というところです。歴史をくみ取りながらも、クリエイティブな感性と技術でより新しいものにしていきたい——そういった中で、廃業となったホテルを再生させる取り組みは、SDGsとは関係ないところで始まったものでした。

mySDG編集部:古き良きものを次世代に受け継いでいくには、より目を引く新しいものにアップデートすることが必要なのかもしれません。では最後に、今後の展望をお聞かせください。

根間さん:会社としては、ホステル事業とブランディング事業、ファッション事業の3つに大きく分かれていますが、どれらもSDGsの観点が入っています。ただ、一般消費者に向けて、ダイレクトに伝わるのはファッションですし、私たちの世界観を表現できるのもやはりファッションです。そのため、今後はファッション事業により力を入れていこうというのが会社の方針としてあります。

その中でOKINAWA SUITSを一つのケーススタディとして、全国の捨てられるはずの衣類と、なくなりそうな技術——縫製技術や染めの技術をミックスさせながら、各地域で一つブランドを作り、これらをひとまとめにして世界で勝負したいと考えています。いわゆる“ジャパン・スーツ”として『THE FASHION』いうヘッドブランドの中にOKINAWA SUITSなどを携えてパリコレに持っていきたい、というのが私たちの最終目標でもあります。

mySDG編集部:世界的に見ても、日本の縫製技術は高いですし、染めの技術なども日本独自のユニークなものがたくさんありますよね。メイドインジャパンの魅力を取り戻すためにも、御社の今後の活動には注目しています! 根間さん、本日はありがとうございました。


【OKINAWA SUITS公式ライン】
https://lin.ee/we7ZU1P


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