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Ⅰは何しにスタートアップへ?なぜか創業期に紛れ込み、5年過ごした40代ライターの話

M&Aクラウド(※)での経験を振り返るnoteを書くのはどう?」

私の退職決定後、そう勧めてくれたのはCEOの及川さん。元上長でもあり、私がフリーになることを最後は心から応援してくれた。

※M&Aクラウド:M&Aと資金調達関連のサービスを展開するITスタートアップ。コアサービスは、Web上でM&Aの買い手探し、売り手探しができるマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」。ミッションは「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」

「で、記事のラストは『お仕事募集』にしたらいいんじゃない?」という提案に、私は迷っていた。

私はもともと特にスタートアップに関心のあった人間ではない。
(さらに言うと、M&Aともテクノロジーとも縁が薄く、どちらもむしろ苦手分野だった)
ライターとして楽しく、比較的自由に働ける環境を求めて飛び込んだ先が、たまたまスタートアップだったのだ。

そんな私の振り返り……誰が読んでくれるだろう……。
正直、今も「?」のままだが、少し変わった経験をしてきたとは言えるかもしれない。

業界紙記者→社内報編集と紙媒体の世界で生きてきた私が40代にして突如、創業期のITスタートアップへ。
ほとんどが一回り以上若いメンバーたちと5年を過ごし、その間に会社は社員10人から100人に迫る規模へと拡大した。

ミスマッチ度満点の私が今、充実感を持って「M&Aクラウド時代」を終えられるのは、きっとさまざまな幸運が重なったおかげに違いない。それなら、そのラッキーな経験を書き残しておこう。

「創業期のスタートアップ×ライター」でできることとは――。

私がM&Aクラウドに紛れ込んだ理由

想定外だった40代での転職

私がM&Aクラウドに入社したのは2018年12月。
40代になって転職すること自体、その1年ほど前までは考えてもみなかった。

転職活動を始めたきっかけは、前職での人事異動。私自身はもちろん、周囲も驚く異動だった。

業務内容は、社内報制作から医療機器の取扱説明書(しかも英語版)制作へ。
勤務地は、東京から神奈川県K町へ。

私には長年続けてきた取材・執筆の仕事を中断するつもりもなければ、気に入っている都内の家から引っ越す気もなかった。

選択肢は転職しかない。密かに決意して、私は異動先への新幹線通勤を始めた。

転職先の希望は、

  1. 通いやすい勤務地

  2. これまでの経験を活かし、ビジネス系の取材・執筆ができること

  3. 自社媒体の仕事

3を含めたのは、前職の社内報制作ではクライアントの社内報をつくっていたから。せっかく転職するのなら、より自由度の高い環境を得たかった。

ナゾの会社の熱量に惹かれて

たまたまオファーを頂いたM&Aクラウドの仕事には、ほとんど奇跡的に3つの条件がすべてそろっていた。そして何より、熱量が高かった。

COO前川さんから頂いたエモいスカウトメッセージ。ここからすべてが始まりました

事業は立ち上がったばかりで、先行きの保障はない。でも一人暮らしの私にとって、そこは重要ではなかった。
(当時ワンルームマンションにあったオフィスを初訪問したときは、あまりの狭さに一瞬固まったけれど……)

唯一気にかかったのは、私がM&Aについてほぼ何も知らず、金融領域の素養もないこと。オファーへの返信にもまずその点を書いたが、先方は「入社後に勉強してくれれば」と受け入れてくれた。

私がM&Aの媒体のライターに? なれると思う?」と自分に突っ込みを入れつつ、結局「なんだか面白そうなナゾの会社」への好奇心が勝ったのだろう。ミスマッチにはいったん目をつぶり、私はスタートアップに飛び込んだ。

社員10人から100人へ。一人目ライターの役割はどう変わった?

“古株社員ライター”が生まれた理由

入社時の五反田オフィスは、ワンルームマンションの一室。2019年3月、オフィス移転前最後の1枚。左から3番目が私

私がM&Aクラウドに在籍した5年間で、「会社のどこが変わった?」とときどき聞かれる。
一言で答えるなら「何もかも」だ。

「M&Aクラウド」の掲載社数は入社当時の70社程度から約600社になり、新事業も3つ立ち上がった。
メンバー数は約10倍になり、オフィスは3回移転。
当初誰も知らなかった社名/サービス名を知る人も増え、昨年(2023年)には東洋経済の「すごいベンチャー100」にも選ばれた。

私の業務内容も変化した。

最後の所属は広報部だから、今いるほとんどのメンバーにとって、私は「オウンドメディアや寄稿の記事を書いていた人」だろう。

でも、私の入社当時はメインサービスの「M&Aクラウド」自体、まだローンチから7カ月。会社に広報部門があるはずもない。

当初の仕事は「M&Aクラウド」に掲載する募集記事(M&Aの買い手が発信する売り手募集記事。人材マッチングサイトでいう転職希望者向け記事)の取材・執筆。私は一人目の専業ライターだった。

私は社外の人からよく「ライターさんが正社員って珍しいですね」と言われてきた。私自身、転職活動中に「自社媒体の社員ライター」の求人はとても少ないと感じた覚えがある。

この点、M&Aクラウドには特殊な事情があった。
当時、M&Aのオンラインマッチングサービスは他にもあったが、買い手側が情報公開するスタイルは初(他サービスは、売り手側が社名等の詳細を伏せて情報公開するスタイル)。

私は全く知らなかったが、M&Aの仲介業者にとって、買い手のM&Aニーズは大事な企業秘密。それをWebで公開するなど、あり得ないことらしい。「M&Aクラウド」は、業界の常識をくつがえすサービスだった。

前例がなかったから、掲載に慎重になる買い手も多かったようだ。そこで「M&Aクラウド」への掲載を検討くださる先に「取材はうちの社員がします。お話がそのまま外に漏れる心配はありません」と伝えるために、「取材のできる社員ライター」がいる必要があったのだ。
(「M&Aクラウド」の認知度が上がった今では、このあたりの感覚もだいぶ変わったと思う)

そんなわけで、一人目ライターの私は、すべての記事制作とそれに伴う掲載企業とのやり取りを担うことになった。
実際には私の入社直前あたりから掲載契約がどんどん(ありがたいことに!)増え、一人で全記事を書いていたのではとても追いつかない。
一部、外注も活用した制作体制をつくることにも、入社後すぐに取り組み始めた。

インハウスのゴーストライター誕生

社員30人まで増えた八丁堀オフィス。ここでコロナ禍が始まり、取材激減・リモート取材への移行も経験。2020年12月、こちらも移転前最後の1枚

2020年から2021年にかけて社員ライターも増え、募集記事の制作体制は安定していった。

この時期、私は徐々に広報目的のライティングにシフト。
2021年10月、M&AクラウドがシリーズCの資金調達を行い、関連広報施策を集中的に打ったのを機に、広報専任ライターになる。

当時は社員40人程度。社員10人前後の時期にライターを採用したのも珍しいが、40人規模で“広報専任ライター”がいる会社もなかなかないと思う。

M&Aクラウドの場合、変わったことに、広報経験者が入社するより前に、広報専任ライター(つまり私)がいた。大きな理由は、M&Aクラウドが従来のイメージとは異なる、新しいM&Aの概念を打ち出そうとしていたことだ。

M&Aの概念――実は私自身が入社前、M&Aに抱いていたイメージは「なんとなく怖い」。2000年代にニュースをにぎわせたニッポン放送ライブドア事件やブルドックソース事件の印象も強く、私の脳内では「M&A=敵対的買収」に近かった。

M&Aクラウドが掲げる「UPDATE M&A」の内容は、もちろんこれとは大きく異なる。そもそも創業の背景には、共同代表の二人がそれぞれ最初の事業を売却した経験もあり、スタートアップを対象とするM&Aを得意分野としてきた。

「スタートアップにとっての成功とは、必ずしも株式上場だけではない。潤沢なリソースを持つ会社にM&Aしてもらい、グループ会社の立ち位置を活用して飛躍的成長を目指す道もある。起業家自身が次のチャレンジへと進むこともできる」

そんな考え方を広めていくことで、ハッピーな起業家、ハッピーな社員が増える。「M&Aクラウド」のユーザーも増える。特にCEOの及川さんにこの思いが強く、早くから情報発信を重視してきた。

たまたま創業期からいて、会社やサービスの成り立ちと経緯を中から見てきた私は、広報コンテンツの作成要員にちょうどよい存在だった。
もともとM&Aにも金融にも疎かったからこそ、噛み砕いた文章表現ができた面もあるかもしれない。社歴が長いだけに、及川さんの早口ではしょりがちな話し方に慣れてもいた。

いつの間にか、私の業務の中で「CEOのゴーストライター」の比重が大きくなっていた。2021年1月に立ち上げたオウンドメディア「UPDATE M&Aクラウド」を中心にしつつ、ビジネスメディアへの寄稿にも挑戦。
ダイヤモンドシグナル」(現ダイヤモンド・オンライン)を皮切りに、「マネー現代」「ITmediaビジネスオンライン」「Biz/Zine」「東洋経済ONLINE」にも、スタートアップM&Aの解説記事やM&A経験豊富な方々などとの対談記事を掲載いただいた。

「スタートアップM&A」をテーマに書く人は国内にまだ少なく、下記の「ダイヤモンドシグナル」の記事などは「スタートアップM&A」で検索すると上位に表示されてくる。

最近はこれでスタートアップM&Aについて学んだという方もちらほらいて、実際に書いた私としては、聞くたびにビビってしまう。
寄稿記事の執筆はヘビーだったが、入社時には想像できなかった貴重な経験になった。

“採用広報”へのチャレンジ

ビジネス界全体に向けた「新しいM&A」の発信と並んで、M&Aクラウド時代の終盤、私のミッションとして浮上したのが「採用広報」だ。

M&Aクラウドでは、マッチングプラットフォームの運営だけでなく、M&Aの成約まで売り手や買い手に伴走するアドバイザリーサービスも提供している。
これを担うM&Aアドバイザーの採用強化が目下、会社の重要課題。私も採用候補者向けの記事作成に注力した。

記事の主な掲載場所は、note上で運営しているオウンドメディア。
人事担当者が配信するスカウトメールに記事URLを貼り、スカウトの承諾率を高めることを狙った。

M&Aクラウドのアドバイザリー部門には、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まっている。採用広報記事を集中的につくり始めた時期、採りたい人材像自体が状況に応じて変わり続けていた。
そこで毎月、関係者とミーティングを行い、「今回のターゲットは現職〇〇で年齢はXX~XX歳。現職に対する課題感は〇〇。M&Aクラウドに対する印象は〇〇。したがって、記事での訴求ポイントは〇〇」といったアウトラインを設定した。

ラッキーだったのは、ちょうど同じ時期に、経済メディア「NewsPicks」で実施されていたトライアル事業に参加できたこと。note用につくった記事を、NewsPicks内に設けられたオウンドメディアでも展開できた。

このNewsPicks記事下の応募ボタンから数件の応募があり、うち1名が実際に入社してくれるというビックリにつながった。現職別の課題認識にフォーカスした記事が、まさに狙った層に届いたのだ。

M&Aアドバイザーに続き、他の職種を対象とした記事作成にも取り組んだ。私は主に社内関係者と社外ライターさんの間に立ち、アウトラインの設定と共有記事原稿のクオリティコントロールなどを担った。

M&Aクラウドの職種はどれも、まず業務内容自体が複雑で、ライター視点ではヘビーな案件。
インタビューを受ける側にとっても、社外の人に分かりやすく説明するのは難しく、仕事の魅力を客観的にとらえるのもハードルが高い。

この両者をつなぐのは、難易度が高い反面、やりがいのある仕事だった。
“古株社員ライター”だからこそ、動きやすかった部分もあると思う。
とはいえ、今はまだ採用広報の奥深さを垣間見たくらいの段階であり、今後、もっと突き詰めてみたい領域だ。

自分を見つめ直すときを迎えて

2023年12月、私の最終出社日(新宿御苑オフィス)。M&Aクラウドの皆さん、本当に本当にありがとうございました! 私史上、最高に濃密な5年間でした

私がM&Aクラウドからの卒業を決めたのには、何かのきっかけがあったわけではない。一番の理由は、入社の時点から抱えていた、M&Aというテーマそのものと自分の志向性とのミスマッチを無視できなくなってきたことだ。

途中から広報専任ライターになったことで、得られたものはとても大きい。でも、それはミスマッチに真正面から向き合い続けることでもあった。

「ライターとして、いつか自分なりのテーマを見つけたい。私の場合、それはM&Aではないんだけど……」

初期から一緒にいるメンバーには、たびたびこんな話をしてきた。ただ、広報専任ライターの私しか知らないメンバーが大半になってくると、それも口には出せなくなり、個人の自分と社員としての自分が乖離しかけていた。

外注ライターさんの活用を拡大していた中で、自分が編集者向きではないこともネックになった。「誰かM&Aとスタートアップ振興に関心のある人にバトンタッチできたら……」。

2023年春、私の勝手なイメージにぴったりな人との出会いがあった。
同じ広報部メンバーの知人だった彼女が新たなキャリアを模索していた時期と、M&Aクラウドがオウンドメディア編集者を募集していた時期がたまたま一致。入社以降、いろいろな幸運に恵まれてきた中でも、これが最大だったかもしれない。
7月には彼女をM&Aクラウドに迎え、滑り出しの半年間を共にすることができた。

今、私が描く“卒業後”の道のり

M&Aクラウドの期の変わり目に合わせて勤務を終え、2024年2月からの独立を決めた。将来フリーランスになるイメージは昔からぼんやり持っていたものの、決断にはやはり怖さがあった。

今回、一歩を踏み出せたのは、もしかしたらスタートアップで5年間過ごしたから、かもしれない。

私は昔からロマンティストではなく、将来に大きな夢を描くタイプでもなかった。でも、M&Aクラウドには実際に壮大なビジョン(「時代が求める課題を解決し、時価総額10兆円企業へ」)を掲げ、“気合い”全開で走っている人たちがいる。振り返れば驚くような変化を生み出してもいる。その過程を直に見てきたことで、私の心のどこかが揺り動かされたようだ。

「自分なりのテーマ」はまだ見つかったわけではない。
現時点で関心を持っているのは、ざっくりくくると「人材活用」。
特に人事については、前職での異動時から、否応なしに考えさせられてきたトピックだ。

私の異動が決まった経緯は今も分からない。推測するに、人事担当者はかなりのプレッシャーにさらされていたのだろう。

医療機器の場合、取扱説明書はなければ販売ができないので、言わば商品の一部。親会社の商品に付属する取扱説明書の制作を請け負っている会社としては、その部門が慢性的に人手不足で、外から募集してもうまくいかないとなれば、「手っ取り早く社内から人を…」という発想になったのかもしれない。
(私が異動前につくっていた社内報も親会社のものだったが、こちらは当然グループの売上には直結しない)

とはいえ、取扱説明書制作の部門は結局1年間私を教育した後に、振り出しに戻ったわけだ。私には誰も言わないでくれたが、徒労感がなかったはずはない。

特に専門職の場合、本人の意向を全く聞かない異動で成功する方がレアケースに思えるが、どうなのだろう。
さまざまな現場で人手不足がますます進む中、現場部門、人事部門、異動対象者それぞれの視点の話を聞き、考えてみたい気持ちがある。

もう一つ、興味を持っているのは、「ニューロダイバーシティ」。発達障害(神経発達症)の人を労働現場に受け入れる発想を指す言葉らしい。

最近、発達障害の傾向のある子どもを早期に療育に結びつける体制が整ってきているようだが、それ以前の年代の人、もしくは診断に至らない程度の特性を持つ人は、社会に出てから課題にぶつかり、本人も周囲も大きな負担を抱えることがあるようだ。

実はこれも私自身が数年前、コミュニケーションに不思議な違和感を覚える人と出会い、さまざまな本を読みあさる中で行き当たったテーマ。
「理解しましょう」「コミュニケーションを工夫しましょう」といった教科書的な対応では到底収まりきらない側面があると感じており、やはり課題を抱える職場の現場視点で取材してみたい。

もちろん、長く手掛けてきた企業広報の仕事も続けていきたい。
M&Aクラウドがまさにそうであるように、会社のビジョンやサービス自体、詳しい説明がないと伝わりづらい案件ほど、ライターとしてのやりがいも大きいと感じている。
先に触れた採用広報案件も考えるべき要素が多く、魅力的な仕事だ。
ブランディング、サービス広報、採用広報のいずれの案件でも、発信者と対象読者を上手につなぐ仕事ができるよう、スキルアップしていきたい。

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