ないものねだり
アメリカにいた頃は日本に行きたくてたまらなかった恋人は、日本に来た途端、アメリカに帰りたくてたまらないと言い出した。
浅草観光を終え、夕方と夜の間の空の下を2人で歩いている時、ボソッと「ああ、帰りたい!!」と呟いたのだ。
引っ越して1ヶ月も経っていないのに、である。
そんな彼に
「ないものねだりだなぁ。」
と笑った日を覚えている。
同じような現象が、最近私にも起こった。
雇われていたときは1人で働くことにあんなにも憧れていたのに、いざフリーランスになった途端、電車に乗って出勤することが恋しくてたまらないのだ。
人間関係の煩わしさに悩んでいたかと思えば、今度は1人の孤独さが悩みになっている。
ちなみに、アメリカに帰りたいと呟いた後、彼は続けてこう言った。
「でもアメリカに帰ったら、今度はまた日本が恋しくなるのだと思う。」
ああ。
私も孤独に耐えきれず、また電車に揺られて人と一緒に働く道を選択したならば、きっと似たようなことを呟くのだろう。
「やっぱり1人で働きたい」と。
✳︎
そういえば
今日の夜ご飯はハンバーガーだった。
アボカドバーガーを注文したのだけど
今1番欲しているものは
あの時選ばなかったベーコンチーズバーガーだ。
まったく、困ったものだ。
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今あるものよりも
今ないものが欲しい
手に入ったものよりも
手に入らなかったものが気になる
そんな瞬間がある。
そんなことを誰かに話すと、大抵分かる…!!!と同意してもらえるので、きっと人間は皆、ないものねだりな生き物なのだ。
このやらせない気持ちを抱いているのは私だけじゃないのだ。
そういう風にできているのだし、皆もそうだから、もう潔く『ないものねだりなワタシ』を受け入れてあげようと思う。
でも
ないものねだりをしたときには
『あるもの満足』もセットでしたいところだ。
ないものについて考えた後は
あるものについて考える。
ないものが魅力的に思えるときは
あるものの魅力を数える。
選ばなかったものが気になるときは
縁がなかったのだと割り切ってしまう。
私は今、あるもの満足の練習をしている。
✳︎
ちなみに、あれだけアメリカに帰りたいと嘆いていた恋人の生活は、最近とても充実している。
フルリモートの権利を勝ち取り、趣味に没頭し、時間があるときは新しい街を訪れ、週末に定期的に会う友達もできた。
不器用な彼は、あれから密かに頑張った。
そんな彼に
「もうアメリカが恋しくないの?」
と尋ねると
すぐに
「いや、とっても恋しい」
と答える。
日本に来てからの方がハンバーガーやポテトを食べたくなるそうだ。
ああ
やっぱりないものねだりは終わらない。
でも、楽しそうに鼻歌を歌う回数が増えた彼はきっと、ないものねだりな自分を受け入れて、あるもの満足も実践し始めたのだと思う。
私も負けてられない!
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