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水を得た金の魚な彼女

CIBIメルボルン店には、接客の天才がいる。

水を得た魚という表現があるが、彼女は美しくて大きなガレージ空間をスイスイと泳ぎ回る金の魚のようだ。輝き方がすごい。



週末のCIBIは絶えず賑わっており、ウェイティングリストには人がズラリ、お会計の列にも人がズラリ、テーブルにも人がズラリである。

それを踊るようにトーンタンタンタン♪とこなしていくのである。まるでキングダムの羌瘣である。

天才だなと思う理由はたくさんあるが、絶え間なく訪れる一人一人のお客さんを大切な家族が来たかのように迎えるのだ。

彼女がビックスマイルで駆け寄ってきたとき、みんな思わず釣られて笑顔になってしまう。人は鏡というのは本当らしい。

短時間でのスモールトークでハートを鷲掴みにするという特殊能力もある。

私のスマホケースにあるイラストを見て

可愛いイラスト!自分で描いたの?私も絵を描くのが好きなんだ〜。音楽を聴きながら絵を描くのは最高の時間よね!

なんて気さくに話しかけてくれて、たった3分のトークで私は彼女を友達のように感じてしまった。

赤ちゃんがお皿を落としたらすかさず

いいのよ!新しいの持ってくるわ♡まあ可愛い子。名前はなんていうの?

と駆け寄り、赤ちゃんもお母さん達もハッピー。たった3分でもはやファミリーの一員状態。

CIBIはテーブルの数がかなり多く、常に忙しい。
それなのにお客さんが「すみません」と言う前に「これが必要なのよね!分かったわ♡」と言える彼女の観察力には毎度衝撃を受ける。

ラーメン屋でお水のおかわりがほしいな…と思った直後に冷えたお水をサッと出してくる店員さんがいるが、それを広範囲でやってのけている感じ。

だからCIBIには家族連れから老夫婦まで様々なお客さんがやってくるのだと思う。彼女のいる空間は温かくて、安心感のドームに包まれている。

お会計時には彼女とハグをして帰る客さえいる。

来てくれてありがとう〜〜〜また来てね!!と固いハグを交わし、アイラブユーと言うおばあちゃんにすかさずアイラブユートゥ!!と返す。


私は一度お会計の時に「あれれ、安いな」と思ったことがあった。

コーヒーがカウントされていなかったのだ。

彼女はイタズラな笑顔を浮かべて

素敵なお客さんにはコーヒーをご馳走するのがこのカフェの伝統なのよ♡

と耳打ちした。

この日がいい日になったのは言うまでもない。


他のスタッフが上がるとき、出口の前でハグをしているのを見た。お客さんだけでなく、同僚にも愛されているのが伝わった。

人を愛する天才であり、人に愛される天才。

CIBIのカフェスペースはもはや彼女の舞台であり、スポットライトが常に当たっている。

コーヒーを飲みたいというもあるが、私はこの舞台で彼女の働きっぷりに魅了されたいがために何度もここを訪れているのだと思う。

あと、彼女はものすごくおしゃれだ。

白いシャツにジーンズのエプロンという制約がある中で、存分におしゃれを楽しんでいる。

ピアス、スニーカー、メガネ、そんな自由にやれる部分で抜群のセンスをさりげなく披露する。創意工夫のプロであることも伺える。

最近サロモンの黒いスニーカーが欲しくなったのも、ゴールドのヘアピンが欲しくなったのも彼女の影響だ。いつしか彼女は私のインスピレーションの源である。


正直、私は彼女の名前も知らない。

でも、ひとつだけ確かなことは、この仕事が彼女にとって天職であるということだ。

人は天職に就いたとき、大きな光を放つ。

目がキラキラと潤っているのも特徴だ。

働いているというよりかは楽しく遊んでいる感じで、次々に訪れる人を幸せにしてしまう。

それが天職というものなのだと思う。

動くパワースポット


彼女を何かに例えるとそんな感じだろうか。


私はきっと、彼女に会うためにこのカフェを訪れ続けるのだろう。



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