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ワイナリーでの酸化:化学酸化と防止法


前回は酸化、特に酵素酸化というものを見てきました。
前回の記事を読んでいないと少し理解しにくいかもしれません。


今回はその続きで化学的酸化についてみていきます。

化学酸化

こちらも酸化ではあるが、酸素だけで起こるというわけではない。
前回の話で酸素が不安定な活性酸素の状態で酸化を引き起こすということを述べた。

今回の化学酸化もそれと同様に、鉄イオン、銅イオン及びマグネシウムイオンの存在による酸素の還元が必要である。

この酸化も基本的な事項は変わらない。
カテコールなどのフェノール類が酸化されることでキノンとなり、それが凝集することで沈殿や縮合型タンニンの高分子化をもたらす。

ただ酵素が関与しない分、より溶解した鉄イオンや銅イオンが大きな役割を果たす。例えば以下のような図がある。

これは鉄イオンや銅イオンが触媒となってカテコールを酸化し、酸素を還元し過酸化水素にする反応である。

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そして上記の反応で生成される過酸化水素によってもちろ更なるフェノール類の酸化も引き起こされるし、この鉄イオン自身もフェントン反応というものも引き起こす。

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この反応では、鉄は実質的には触媒として機能し、酸素をより活性化させている(反応後の真ん中の化合物が活性酸素の1種)。

この反応産物の活性酸素群は酸化力が強く、ポリフェノールだけでなくエタノール(アルコール)をアセトアルデヒドにする反応なども引き起こす。

酵素酸化/化学酸化まとめ


こうして考えれば、基本的な部分は酵素酸化も化学的酸化もほとんど同じものであるということがわかる。

ただ中間で触媒の役割を果たすものが酵素か金属原子かという違いである。
もっと言えば酵素もその金属原子を持っているので、本質は変わらないかもしれない。

それを簡単にまとめると、

酵素酸化は
活性酸素または酸素が、酵素と反応することで、酵素が酸化される。
その酸化された酵素がフェノール類を酸化する。

一方で化学的酸化は
溶解した鉄や銅イオンによって活性酸素がつくられ、それが直接フェノール類と反応する。
そのときの副生成物の過酸化水素が更なる反応を促す。

一方で、これらの反応の大きな差は、酵素は不活性化することができるが、触媒として機能している金属原子は機能し続けるということだ。

つまり酵素は亜硫酸の添加で基本的には活性を失うので破砕時などの醸造の初期段階で大きな影響力を持つと考えられ、金属イオンはワインとして熟成する間もその働きを維持し続けるというところにあるように思う。


またいずれの酸化反応でも、酸化されるものはいずれもフェノール類であることには違いないのだが、カテコール、ヒドロキノン、およびトリフェノール類であることに留意したい。

つまりメタ位置にヒドロキシ基がついているジフェノールは酸化されにくいということである。これはつまりワインに主に含まれるアントシアニジンであるマルビジンは酸化されにくく、シアニジンやデルフィニジンは酸化されやすいということである。

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この情報が直接ワイン造りに活きるかはわからないが、品種によってこのアントシアニジンの割合が違うので、仮にマルビジンが多い品種であれば褐色化しにくいといえるのではないだろうか。


ここまで読んでかなりの疑問が浮かんでいる方もいるかもしれない。
自分自身も酵素酸化の時の酸素原子からは過酸化水素はできないのかといったことや、これらの反応の起こりやすさ、反応速度というのはどれぐらいなのかといったことを疑問として抱いたが、さすがにこれ以上は突っ込むとかなりの背景知識が必要となりそうなので今回は見逃してほしい(反応速度論という分野の学問があるそうだが、ワイン業界でそれに関する研究をしている人はほとんどいない)。


そのためここからは一番重要である、この酸化を抑えるための主な方法というのを見ていこうと思う。

酸化防止剤の作用機序

基本的には亜硫酸の添加が酸化を抑える重要な方法として挙げられる。

亜硫酸の詳しい話については次の稿を参照にしてほしいが、亜硫酸の抗酸化作用には3種類ある。

1つは過酸化水素の酸化を防ぐことだ。
過酸化水素はアルコールをアセトアルデヒドにしたり酒石酸をグリオキシル酸にしたりと、非選択性の酸化能を持っている。

そのため過酸化水素の酸化能を無効化することはアセトアルデヒドの量を増やさないことを意味する。

アセトアルデヒドが多いと、濃度によってリンゴのコンポートのような香りからシェリーのような香りを持つことになる。

少量なら香りに複雑さを与えるが、多い場合は他の香りをマスクするものとして欠陥になりかねない。


もうひとつはアセトアルデヒドやアントシアニンと結合することによる抗酸化作用だ。
アセトアルデヒドに結合すると、アセトアルデヒドは揮発性でなくなり、香りとして現れなくなる。



最後は、酸化によってできたキノンが縮合して褐色化する前に、キノンを還元してしまうことによって再びカテコールの状態に戻すことだ。
それらの反応系を表したのが下の図だ。EtOHはアルコール、MeCHOはアセトアルデヒドを示している。
MeCHOとH₂O₂がHSO₃⁻によって他の物質に変化しているのを示している。

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この話には続きがあり、このSO₂の消費量というのはカテコールの酸化された量に相関があり、ひいては銅や鉄などのイオン濃度にも関係するということが言われている。


次に出てくるのはアスコルビン酸だ。一般的にはビタミンCとして知られる化学物質である。
アスコルビン酸はブドウにも含まれているが、基本的には破砕後すぐに酸素やキノンと反応することで消費される。
この反応はプロトンを2つ放出する下のような図にまとめられている。

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一方で、これは添加物として主に白ワインに用いられる。添加は主にボトリング時に50-150mg/Lほどの範囲で行われ、そのアスコルビン酸は酸化防止剤としての役割を果たす。
しかしこの添加物は上記の反応過程で過酸化水素を発生させるのでSO2と共に使わなければいけないということにも留意しとかなければならない。

他にも酸化を防ぐ方法はあるが、それは低SO2ワインのトピックの方で扱いたいと思う。

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