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【若手Drにインタビュー】救急専門医取得後に家庭医を志した理由とは

<プロフィール>
■氏名:片上 大輔
■役職:医療法人結新会(musubi Group)
    結新会ホームケア鈴木クリニック 医師
■経歴
平成27年 川崎医科大学医学部 卒業
平成27年 同仁会耳原総合病院
平成29年 神戸市立医療センター中央市民病院 救命救急センター
令和2年  淀川勤労者厚生協会西淀病院 大阪家庭医療・総合診療センター令和4年  結新会ホームケア鈴木クリニック
■資格:所属日本救急医学会認定救急専門医

‐まず初めに医師を目指されたきっかけはなんだったのでしょうか?

 高校生の時、「社会貢献ができる」かつ「長く現役が続けられる」のミックスで何か職業で仕事がないのかなと思っていて、最初に目に入ったのが自衛隊だったんです。なので高校卒業後は防衛大学に入学し、訓練や座学を受けていました。半年くらい経つと陸海空の職場見学があり、「自分たちが将来幹部になって何をするのか」などの話を聞いたり、駐屯地の見学をしました。見学していると、やっぱりデスクワークが多くてあまり現場っぽくないと感じました。キャリアのメインとしては官僚みたいになる感じだったので。前線でずっとやるのかなと思っていたら、そうでもない事が多く、自分が望んでいなくてもそうなってしまうと。前線で働き続けられる現場でと思い、しばらく検討したところ、長く現役として続けるのであれば、職業としては医者の方がいいのかなと感じて方向転換しました。

‐最初から家庭医療にご興味があったのですか?
 最初は全然知らなかったです。まったく知らない分野だったのですが、出身大学の先生が家庭医療を広めた人だったこともあって、大学5,6年生くらいの時に、その先生の特別講義があったのがきっかけでした。その時学んでいた医学の講座とは全然違う視点だったんです。それまではいわゆる臓器ごとに見ていくスペシャリストの授業が中心でした。家庭医療というのは、単に本人とその周囲の環境としての家族という捉え方をするだけでなく、心理的、社会的な部分や仕事や人との関係性、宗教背景、信条などの背景もひっくるめて見るといった分野です。例えば、「こんな風に怒って怒鳴っているような患者が来た時にはどう対応しますか?」というような授業がありました。その時に、医者として病気の性質や見つけ方、治療法を知っているだけでなく、周囲に気を配る姿勢って大事だな、そういうのを自分も身につけたいなっていうのが、家庭医療への最初の印象でした。

‐家庭医療に興味があった中で、救急を先に経験されていますが、救急を経験しておいた方が良いと思った点があったんですか?
 大学の5,6年生の終わりくらいから、将来的に家庭医を目指したいなと思っていました。ただ、初期研修2年を終える段階で、重症で死に直面する患者を助けれるかって自問自答した時に、絶対に無理だ、まだ自分の中で全然助けられないっていうのがありました。そこで、もっと実力をつけて、医者として目の前の人を助けられる力をつけたいと思い、家庭医療に進む前に救急に進みました。

‐実際に救急ではどういった事を経験されてきたのですか?
 救急外来と集中治療の両方の分野を経験しました。救急外来では、歩いて来られる方などの軽症な方や、救急車で搬送されてきた中等度から重症の方の対応をしていました。救急車の中でも、軽症~超重症の方まで、たくさんの対応と判断が要求される戦場みたいな状態でした。同時に救急車が3台入ってくることもあり、バイタルなど基礎情報を聞いて即座に優先順位をつけ、どこから対応するかを考えていました。同時に、歩いてこられる患者さんもいるため、研修医と協力して、彼らから得られる情報を基に検査などの指示をしながら、計10人位を同時に診るということをしていました。マルチタスクがかなり多いんですが、小さな情報を基に選択肢を分けて、その場にある資源を最大限に利用してながら指示をしてやっていくみたいな、取捨選択をたくさんしてきましたね。3年目の時にはある程度自分で出来るようになったなと感じられるようになりましたし、専門医を取得するための期間も経過したので、家庭医療に進んでいこうと思いました。

‐鈴木院長とはいつ出会ったんですか?

 1番最初は研修医時代でした。初期研修の期間に地域研修というのがあり、鈴木院長の所属していた診療所で研修を受けたのが出会いです。1ヶ月くらいお世話になりました。また一緒に仕事とかできたらいいねと話していたので、本当に今一緒に仕事するとは思いもしませんでしたよね。

 ただ、その後は一旦救急に進んでいるので、そこから鈴木院長と会うこともなくなっていったのですが、改めて家庭医療をどこで学ぼうかとなった時に、大阪で専門医が集まっている、OCGFP(大阪家庭医療センター)というところを見つけました。それこそ鈴木院長がいるところでもあり、基幹病院にも元々縁もあるし、ここで挑戦しようと思い、家庭医療の道を本格的にスタートさせていきました。

‐どういった経緯で医療法人結新会に入社されましたか?
 家庭医療専門研修2年目の時に医療法人結新会の事を知りました。当初は鈴木院長の今後のキャリアについては全く知らなくて、鈴木院長が独立すると聞いた時は驚きました。結新会のことを知ったのはその時です。このまま同じところで勉強を続けるのか、鈴木院長のもとでもう少し勉強するのか、改めて考えた時に、鈴木院長のもとで勉強したいなということでご一緒させていただくことになりました。

‐環境が変わることによって、入社前に抱いていたイメージとギャップはありましたか?
 鈴木院長はあまり自分のカラーをつくらないという特徴があります。そこまで自分のカラーを主張しないというか、みんなで調和させていくというか、みんなでつくっていくことに自分も合わせるという印象を持っていました。鈴木院長のやり方をなんとなく私も知っていたので、特にギャップは感じませんでしたね。

‐片上先生がやりたかった業務内容には触れていますか?
 それは完全にマッチしています。将来自分で開業しようかという想いもあったので、それに向けての能力を養っていくため、在宅医療に特化して様々な病状、状況・環境下におかれた患者さんたちを診せていただいているので、経験が足りないとかはないですね。クリニック立ち上げから間もなく、システムやチーム作りがまだ進化途中なので、私にとってはすごくいい勉強になっています。それに、残業がほぼ無いのがいいところですね!あったとしても1日1時間くらいですし、他にはどんどん自分で立ち上げられる部活動制度があって、みんなと一緒に楽しめるというのはいいなと思っています。

‐訪問診療の利用者層や利用者様の症状などを教えていただけないでしょうか?

 8~9割は通院が困難な高齢者の方です。高齢者の方々の症状は、本当に何でもありますね。認知症で通院が出来ない、骨折後など筋力低下で通院ができない、癌で在宅療養を希望されているような方など、それぞれの理由で医療機関へアクセスができない方が多いですね。65歳以下は1割くらいで、アルコール依存で通院できない方や若年のガンの方や難病といった方たちです。

‐これまでのご経験等をふまえて、仕事をする中で大切にしていることはありますか?
 医学的な判断・思考を絶対に妥協しない、勉強し続けて追及し続けるということですかね。関わる患者さんがよりよい生活ができるようにするチームづくりも大切にしています。あとは、自分自身が幅広い人間になれるよう努力することなども。フラットなチームづくりを意識していても、私が指示を出したりリーダー的な立場が求められることが多いので、介護士や看護師、リハスタッフなどの他職種の視点をもつことによって、自分の視野を広く持てるようにという努力をしています。

‐褥瘡処置など色々あると思いますが、処置はどういった事をしていますか?
 デブリは積極的にするようにはしていますね。そのままおいておいても大丈夫なんだろうなというものも、無理をしない範囲でやります。やればもっと早く治るだろうみたいなことは、積極的に行っています。他には爪を削ったり、爪の矯正、超音波の検査とかですね。「腎機能が悪化しているな、ちょっとエコーで見てみよう」みたいな感じで、手軽にやっています。腹水穿刺や膝関節とかの穿刺の他、意外と耳を診たりすることもあります。誰でも出来ることなんですが、難聴の人の耳を診ると耳垢がたまっていたりして、それを取るとてきめんによくなることがありますね。その他、胃ろうの交換や膀胱留置カテーテルの管理などもしています。

‐看取りはどれくらいありますか?
 月に3~4回はあります。私だけではなく、鈴木院長や病院で看取りした方を合わせると月に7人くらいですかね。

‐訪問診療での看取りと病院での看取りとの違いはありますか?
 私の個人的な印象ですが、病院の場合はお亡くなりになる時は看取りという感覚はあまりないかもしれません。どちらかというと治療していく中で亡くなるという感覚ですね。訪問診療では、最期をみんなが「もうすぐ亡くなりそうだね」っていうのを覚悟しつつ、流れの中での看取りなので、いわゆる看取りっていう感じなんですね。病院は看取りというより、亡くなっていく最期を診るっていう感じです。お伝えしづらいですが、私の中ではニュアンスが違うんですよ。亡くなっていくまでの期間をどう一緒に過ごしていくかみたいな考え方かもしれないです。病院ではどうしても、まず家族に会う機会が少なく、直接説明できないことが多くなっていますよね。訪問診療だとご家族と直接や電話でお話ができて、変化していく部分も一緒に見ることができます。家族の不安や心の変化を追いかけていくことができるのは、病院で働いていた時の距離感とは大きく違う部分だと思います。

 訪問診療の方が、感情的な部分を扱うことが多いように感じますね。自宅だからなのか、みなさんの感情が出てきやすいというか。それを受け止めるのは大変ですが、より人として付き合えているなと実感できる部分でもあります。やっぱり目の前で患者様が変化していく瞬間をご家族が見ているので。病院だとその瞬間をご家族は見れないので、出来事を電話で聞くだけだと、なんとなく「そんなことがあったんだ」で終わるんですが、目の前で転んだり、容体の変化があるというのは、ご家族にとってものすごくショッキングなことなんです。「こんなん大丈夫なんですか?そのままにしていいんですか?」という、出来事に対する理解できない部分や不安みたいな感情がより強く出てくるんですよ。「これが、起こることなんだよ。こういうことが普通に起こってくるんですよ」という事を一緒に理解してもらい、乗り越えられるよう支える。その時間の流れと家族の力の成長を感じられる時はすごく嬉しいですね。

‐そういったご家族との関わりの中で、大切にしていることはありますか?

 納得するまで話をします。納得しない限り、不安で怖いと思うんです。そうなると、次の日を越すのがしんどくなる。だから、そういうことが起きたら、今後の事もその時の事もちゃんと説明をして、分からなければ繰り返し説明をします。話しても分かりにくい方に対しては伝え方を変えて、その方に合わせて分かるまで話します。

 その出来事がどうして起こったのか、その先どうなりそうなのかなど、理解しづらい方はある程度いらっしゃいます。どれだけ説明しても論理的な言葉としてではなく、感情で話してしまうので、その感情をちゃんと受け止めるようにしています。受け止めて、出尽くすまで話していただいて、ご家族が言い尽くしたらやっとこっちが少し話をする。それをご家族が納得いくまで続ける。すごく時間はかかるんですけど、妥協はしない方がいいと考えています。時間がかかったとしても、ご家族がそれだけ私たちと共有したという事実が思い出のように残るんですよ。在宅療養の患者さんは、慢性外来患者さんと比較して短時間の関わりになりやすいですが、その中でも濃密に過ごす時間をつくることによって、体感として長く関わるということを大切にしていますね。

‐在宅医療ならではのアプローチやご家族との関わりの他にもやりがいはありますか?

 救急をしてきて、その前だと病院の入院や外来診療をして、基本的には点の関わりになっていると感じることが多かったんですよね。人生の長い長い日々の中の日~週~月単位。訪問診療も点なのかもしれないですが、やっぱり家で診るというのは、精神面、言葉、行動、その周りのものを合わせると、その人の歴史がみえてくるんですよね。どのような過ごし方をしてきて、何が好きで、何を大切にしているかが見えるようになってきて、少しずつ点だけではなく線や面となるんですよ。そういった見え方ができるのが面白いところだと思っています。あとはご家族がいることによって、ご本人とまた別のキャラクターが存在していて、最終的にドラマみたいになっていくんですよ。どの家にも、それぞれドラマがあります。普通の日々がドラマチックで、それが面白いですね。家に入って関わるというのが、私にとっては性に合っていて、すごく面白いです。

‐日常がドラマということですが、往診以外の時間帯など見えない生活の部分で変化があった時は、どのように連携をとりながらやっていますか?
 
ツールでいえば、MCS(訪問看護師やケアマネージャー、薬剤師などと、相互連携をとれる掲示板のようなもの)や、社内のSNSのチャットで情報を共有しています。アナログですが、ヘルパーさんとかとは自宅の共有ノートに書いたり、電話で伝えることもあります。医療法人結新会独自のものとしては、地域連携の一環として毎回の診療ごとに診療レポートを発信しています。特にお薬の変更を書いているので、訪問看護師、ケアマネの方々には重宝されているように感じています。

‐結新会ホームケア鈴木クリニックのチーム内での連携はどうですか?
 
鈴木院長との共有は頻繁に行うようにしています。クリニックでの席も隣なので。看護師とは移動中の車の中で話し合うことが多いです。訪問前の移動の社内で、「ご家族にこんなこと伝えようと思っています」など事前に話して、訪問後は振り返りや情報共有をしています。大きな変化があった方や看取りが近い方がいる時は、より深く医師同士での共有をしています。

‐現在の課題やそれに対するアプローチとしてどんな事をしていますか?
 
個人的な課題として、人間力というか、医学とそれ以外の分野の総合力がある程度ないと、在宅における診療クオリティを高く保つというのは難しいのかなと思っています。それは意識の問題がかなり大きいのですが。自分はここまでだって限界を決めてしまうと、クオリティの上げ幅というのはそこで終わってしまいます。在宅の分野は、どんどん広げていくという意識がないとクオリティって上がっていかないんですね。それは、純粋に医学だけをやっていっても、在宅では大学教育で学んだような検査治療などできる範囲がかなり限られるからなんですよ。自分の中の医学の概念の範囲を自分なりに拡張していく作業が大事だと感じています。純粋な医学だけの能力が高いからといって、在宅ってできるというわけじゃないんです。当然その能力の研鑽もしますが、それ以外にもどんどん目を向ける姿勢が大事なんだろうなと思います。

‐総合力という部分でサポート体制や教育体制はどうなっていますか?
 
これはひとりでは伸ばしにくい部分かと思っています。総合力を身につけようというマインドがあったとしても、方向性が多すぎてどれから手をつけたらいいのかも分からないし、優先順位がつけにくいと思います。だから、自分にまずどれが足りなくて、どれが最適なのかを話し合える人がいるのが望ましいと思います。その人がどれくらいできるのかっていうのは話さないと分からないので、相談し合えるようなサポート体制が必要だと思いますね。何かの資格をとる場合であれば目標が明確なんですが、資格を必要としないことの方が多いので、面談などを通して「今これくらいできるようになっただろうな」といったことが分かるように、仕組みづくりをしていこうと思っています。

‐鈴木院長とのやりとりで、具体的にどんなことが勉強になっていますか?

 家庭医としてのスキルやレベルはやっぱり圧倒的に鈴木院長が高いので、学ぶことしかないです。例えば一緒に直接私の診療を診てもらって、フィードバックをもらう。効率は悪いかもしれないんですけど、めちゃくちゃ勉強になります。医学的な側面に関しては時に教わり、一緒にやっていることも多いです。新しい事をアップデートしたり、情報の共有や交換は頻繫にやっています。
 日々のやり取りであれば、症例に対してのアセスメントを鈴木院長にぶつけて、自分はどう思っているというのを伝えたうえでフィードバックをもらっています。録音データからのフィードバックや訪問同行とはまた違い、日常会話の中で患者様のアセスメントのやり取りを積み重ねていけるので、隣の席に鈴木院長がいるというのはありがたいですね。

‐片上先生のキャリアの目標はありますか?
 
資格面では、在宅医療専門医と緩和ケアの認定医、この2つはちゃんと勉強したいので、取得したいと思っています。資格以外だと、先の話の目標にはなりますが、ひとつは開業ですね。医者としての目標は、社会貢献を続けたい、現役をずっと続けたいということなので、長く続けられる自分の形をつくるのが、私の中でのミッションですね。途中で辞めてしまわないということを心に置いています。あまり負担をかけすぎず、でもちゃんと自分の能力を引き出して、積み重ねてアウトプットする。結新会ホームケア鈴木クリニックでは、日々学んで実践してということができていますし、毎日楽しいです。ずっとこの作業を繰り返していくというのを、これからも続けたいと思います。かなり愚直なやり方ですが(笑)

‐これから家庭医療を目指そうと思っている方にメッセージをお願い致します。

 専門医じゃないのに言うのは恐縮なんですが(笑)家庭医療というのは、大昔からあったんですよ。でも各分野や科に特化しはじめたところで、ずっとあった大切なものが一度薄れてしまったんです。その中で消えていったものを改めて根拠をもって、家庭医的なマインドをもって接すると、患者中心の医療や家族志向のアプローチをすることによって患者さんが良くなったというのが、再認識されています。
 家族志向のケアや患者様中心というのはすごく文系っぽくて、今までやってた理系っぽさがなくなって、抽象的でとっつきにくい部分があるんですよ。感情面にそったりとか、数値では表せないものだったり。

 例えば臓器別の専門医とかであれば何年も勉強が必要ですが、家庭医だと数か月~1年で考えの基礎だけでも持つことができるようになります。その後は自分でちょっとずつ広げていくことができる。ある意味、1人でも研鑽しやすい分野なんですよね。そのマインドさえ持ってしまえば「学んだことが使えるやん!」ということが結構しやすくて、最初のとっつきにくさがある反面、やったことがすぐに結果に出せる分野の側面もあります。家庭医療の方法論を使うことによって、元の自分では解決するのが難しかったことでも、方向性を導いてくれるのが家庭医療だったりするんですよ。単純に病気として診ているだけだと解決できなかった問題を、解決できるようにしてくれるのが家庭医療の良いところで、医学という一方向だけでなく、多面的に患者様を捉えられるようになると思います。難しい感じているモヤモヤを言語化して、解決するような手法がもらえるというのも家庭医療の良いところだと最近改めて感じているので、是非多くの人に身につけてほしいと思います。


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