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思い込みで自分をコントロールする

 思い込みの力は凄まじい。地道な努力や綿密な計画性は、その大切さがよく説かれるけれど、自分自身の潜在意識をコントロールすることで得られるメリットが、軽視されているように思う。学校教育では特に、努力ばかりに重点が置かれる。積み重ねた努力を最大限発揮するには、自信を持って自分自身をコントロールするという、もうひとつの能力が不可欠なのに、そちらは無視されたままだ。

 おそらく、これが最も取り入れられているのが、スポーツのコーチング分野ではないかと思う。一度のチャンスで最大限の力を出し切るためには、自分自身をどうコントロールするかという点にかかっている。その辺りを個々人に合わせて、自然な形で習得させてしまうというのが、上手いコーチがやっていることではないかと思う。自分で自分をコントロールする訳だから、人から押し付けられて出来るようなものでもない。努力一辺倒の教え方より何倍も難しいし、教える側も、それ相応の勉強が必要であると思う。

 楽器演奏の場合、思い込みがどう左右するかというと、上達速度や人前で演奏するときのパフォーマンスの出来だ。

 まず、教わる側の意識以前の問題として、教える側がこの生徒は伸びる、と思い込んでいると本当に上達する。これは有名な教育実験が行われている。成績とは関係なく無作為に選んだ生徒たちを教師に示し、彼らは今後成績が向上する子どもたちのリストだと説明する。すると、期待された生徒たちは、本当に成績が向上した。期待し、期待されることが、成果につながったのだ。これはピグマリオン効果と呼ばれる。他者からの期待が成果に反映されるのだ。教育でも、家族の中でも、さらにはペットとの関わりにおいてさえ左右する影響力だ。

 何かを教わる際、または独学でも、その習得過程を肯定的に見ることは大切だ。まだ出来ない、また間違えた、何で覚えられないんだ、といった否定的な見方が習慣化すると、実際習得が遅くなるものだ。一定の時間を割いている以上、何も進歩していないということはあり得ない。ただし、進歩がないように見える時期というのは存在する。

 成長曲線はステップ状であるとよく言われる。これは何かを習得しようとするとき、日々均一に能力が向上していくというより、停滞期と急激に伸びる時期を繰り返しながら、向上していくということだ。これを知っているだけで、停滞期も悲観せずモチベーションを保てるし、また親や教師が、より長期的な視点から子どもを見てあげることが可能になる。

 どうせ思い込むなら、ポジティブな思い込みの方が、生活全般に対してプラスに作用する。何かを習得した場合、それが波及して、他の分野でも自信につながるということもある。せっかく楽器を習うのなら、そんな思いがけない副産物も手に入れてもらえたらなあと思う。

 人前で注目されて演奏するというのも、自己コントロールの訓練としてはうってつけだ。大人でも緊張したり、普段のように上手くいかなかったり、自分でもびっくりすることがあるはずだ。努力重視の教育は受けてきても、自己コントロールを学ぶ学習機会があまりに少ないからだ。九九を覚えたり、漢字を書き取りしたりするのと同様、もっと自分の感覚や能力を、客観的にコントロールするためのカリキュラムがあればいいのにと思う。その点、楽器やスポーツなどの習い事は、学校教育には馴染まない部分を補えるような気がする。

 どんな場面でも自分を的確にコントロールし、能力を最大限発揮するというのは、相当難しい技術だ。しかしこれもある程度は、経験と練習を通して習得するもの。たくさんの道具が詰まった鞄を持ち運んでいても、大事なときにその蓋が開かなかったら、宝の持ち腐れになってしまう。努力や根気の要求だけでなく、パフォーマンスを最大化するための実践的教育が、もう少し注目されたら良いなと思う。

 

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