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摩利支天像の誘惑 ~権現の森にてサイケデリックな気分に浸る

↑は長野県茅野市の金沢にある金山権現、通称「権現の森」。先日投稿した岐阜の南宮大社と同じく金山彦神が祀られており、製鉄や鍛冶の神さまとして信仰されています。

南宮大社の投稿↓ご一読いただければ光栄です。この金山彦神はかなり面白い神さまだと思います。

↑のようにそれなりに車の往来もある国道沿いにあるのですが、鳥居をくぐって一歩境内に足を踏み入れると別世界のような雰囲気になります。よい寺社の特徴ですね。

現地の説明板

この説明板では武田信玄の金山開発と関わりがあるとありますが、その「金鶏金山」は当社の西側にあります。一方でこの地域一帯の地名が「金沢」、さらに当社のすぐ近くに川(宮川)も流れているので(温泉もある)かつては鉱山の採掘だけでなく砂鉄の採取や製鉄業が行われていたのでは?との推測もしたくなります。江戸時代には宿場町が形成されていたわけですが…

金山彦命を祀った小祠
祭神の説明

この権現の森は信州らしく(?)神仏習合の気配が濃厚にうかがえる場所になっておりまして(名前からして「権現」ですし)、主役は完全に境内に安置された石仏の数々。そしてその中でも出色の出来栄えなのが画像↓の摩利支天像です。


台座も含めて2メートル以上あるはず、堂々たるお姿。境内に足を踏み入れてこれを目にした瞬間に「おおっ、かっこいい!」と興奮してしまいました。

京都建仁寺の禅居庵の安居院や東京の徳大寺などで祀られていることでも知られる摩利支天ですが、なんといっても本場は信州。とくに武田信玄が統治していた地域で盛んに信仰されていたようで(山本勘助がとくに信仰していたことでも知られています)、現在でも各地で摩利支天像が見られるそうです。この像は背後に明治22年の銘が刻まれている比較的(?)新しいものです。

この摩利支天はインドの神「Mārīcī」が仏教の守護神(天部)として取り入れられたもので、陽炎を神格化したもの。そのため「捕まることもなく、傷つけられることもない」神として戦いの世界で生きる武士たちの間から信仰を集めていました。

「陽炎のごとく生じたかと思うと跡形もなく消える」という連想からでしょうか、忍者たちからも信仰を集めていたようで、自分の姿を消すことができる「摩利支天隠形法」なんて術も使われていた(使われている?)とか、いなかったとか。

この神さまの最大の特徴はイノシシに乗っている点ですが、この像でもなかなかステキなイノシシが見られます。そして摩利支天の表面には今も赤い彩色が残っています。

その見事な出来栄えと大きさに圧倒されつつ、この色と「陽炎」のイメージからわたくしの頭の中にはB’zの「紅い陽炎」…じゃなくてジミ・ヘンドリックスの「Purple Haze」が流れ始めたのでした(B’zファンの方、ごめんなさい!)。「陽炎」の英語訳は「heat haze」みたいですけど。

しかもジミ・ヘンドリックスのオリジナル・バージョンだけじゃなくてクラシックの弦楽四重奏団「クロノス・カルテット」の室内音楽バージョンも。

というわけでクロノス・カルテットの録音も↓

YouTube にはライブ録音も。これは来日公演でのパフォーマンス。スタジオ録音よりもこちらの方がトリップ感があっていい。

今でこそクラシックのオーケストラや演奏家がロック系の曲を取り上げるのも珍しくなくなりましたが、彼等が最初に取り上げた当時(80年代後半)にはかなり話題になったようです。

クラシックのスタイルで演奏する場合、この曲の特色になっているサイケデリックな雰囲気をうまく出せるかどうかが最大の鍵となると思うのですが…原曲ではヘヴィなグルーヴが生み出していたサイケデリックなムードをこのクロノス・カルテットバージョンではなんとも言えない浮遊感でうまく表現できているように思えます。サイケなムードに浸って頭がフラフラ・クラクラになっているみたいな(?)

境内にたたずみつつ脳内でこれらの音楽を再生させていると次第になにやらサイケデリックなトリップ感を味わいはじめて…「観光だけじゃなくてこっちのトリップも悪くないな」なんて気分にひたったりもしました(嘘)

境内の様子。左端に摩利支天像
すぐ近くを流れる宮川

境内には見事な不動明王像も。制多迦童子と矜羯羅童子とのセットで。


しかも制多迦童子をよく見ると…

腕のところに小さなカエルがちょこんと!

なんかちょっとうれしい。😊

信州は古くから歴史的・文化的に独自性を保ち続けていたようで、諏訪大社を筆頭にユニークな史跡や伝統を見ることができます。ただ関東からは新幹線や特急でアクセスしやすいのに対して関西方面からのアクセスがあまりよくなくて…リニアの中央新幹線はそれを改善するよいきっかけになるんじゃないかとも思うのですが…現在の状況では開通はいつになることやら。

思えば、現代の私たちが「サイケデリック」と言われて思い浮かぶイメージは基本的には1960年代にアメリカを席巻した「ラヴ&ピース(Love & Peace)」を掲げたフラワームーブメント(ヒッピー運動と呼ばれることも)のなかで生まれたサイケデリック・アートからもたらされているものです。

そしてこのフラワームーブメントでは東洋思想、とくにチベット仏教と禅仏教(当時のアメリカでは鈴木大拙の著作がよく読まれていたとか)が大きな注目を集めていたそうです。瞑想や輪廻転生をはじめとした仏教の概念がサイケデリックアートのイメージ生成に大きな影響を及ぼしたとも言われています。

そしてこの時代・ムーブメントのトップランナーであったジミ・ヘンドリックスの音楽には黒人音楽の要素が宿っており、クロノス・カルテットは「Purple Haze」のアレンジ/カバーにおいてサイケな雰囲気だけでなくそんな黒人音楽の要素をも飲み込みつつ、西洋のクラシック音楽に仕立て上げている。

そして2023年、ひとりの日本人(わたくし)が仏教と神道がごちゃごちゃになったような場所でサイケデリックなムードに浸る。

何が言いたいのかというと「宇宙は繋がっている」。そしてそれをわかりやすく表現したのが「LOVE & PEACE」なのだ。

…なんか妙に壮大なオチになっちゃった(笑)あまり真剣に受け止めないでね! 念のために言っておくとフラワームーブメントには何の思い入れもありませんし、当時をリアルタイムで経験している世代でもありません。


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