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むるめ辞典

■執拗

[読]しつよう

執に拗

[例文]
繕いの手をつけていないところはない、というくらい朽損した平屋建ての工場には1.6mくらいの高さの塀があった。

近所の子供にとってはこの160cmに身長が届くか届かないかで、大人のようか、そうでないかというのが決まった。それに男にとって、デカイというのは、とにかく大切な意味を持つことだった。

当時、この壁に顎を突き出して背の高さを競うのと同じように、襟足だけを長く伸ばす短髪が流行っていた。

私の友人にも、伸びた後ろ髪を首筋にかけてもう少しで1.6mに届きそうなやんちゃに構えた少年がいた。

友人はほどなくしてそのブロック塀を越えてデカイ男という称号を手に入れた。

私たちは家が近くて、しかも同じ人に憧れていたので、毎日会って、毎日サッカーをした。彼より背の低くなった工場の塀のブロックのどれか一つを的にして、交互に狙い続ける「壁あて」という遊びを繰り返していた。

何年かして狙ったところにボールが蹴れるようになると、そこだけブロックが黒く変色していった。

友人の身長が170cmを超えた時、私たちが執拗に狙い続けたブロックのいくつかは、浜辺の使い古された投網のように黒ずんでくたびれていた。友人は背が高くなったばかりで中身は子供だったので、そのブロックに自分の名前を石で刻んだ。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。