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むるめ辞典

■同僚

[読]どうりょう

同じ僚

[例文]
同僚は優秀でパソコンに詰め込まれた仕事を手際よく整理していく。いつもコーヒーは冷めていて、土砂崩れの跡みたいに茶色の筋を拡げたコップが二つ、汚れたまま置かれている。

その横には来客用の紙コップホルダーが二つ並んでいて、一つは会社用の携帯電話、もう一つは自分のスマートフォンを差し込んでスタンド代わりにしている。

マナーモードに設定した会社携帯が緑に点滅しながら彼の机を振動させる。相手によっては居留守を使っているのを私は知っていて、彼としては「なんで用件を先にラインで伝えないんだ」と小さい怒りを忍ばせているらしい。それでも折り返しの電話をするときは、感じの良い声を作っている。

彼は仕事なんてお金のためだから、と割り切っていて、なんでも卒なくこなす。情報に早いし話も面白い。

私たちが生活に求めてるものは決して交わらないものばかりだったので、しばらく会っていないし、連絡も取っていない。

また会うことが約束されていて、出勤日が近付くと気にかかってくるこの同僚は、会社のことを馬鹿馬鹿しいものだと思っていながら、この仕事の先は誰かの笑顔に繋がると心得ていた。

彼とは友達にはなれないけど、一緒に仕事をするには頼もしかった。私たちの共通点は、どちらも上司からは遠巻きに見られていて「扱いにくい」という札を貼られていることだった。

明後日の出勤に向けて、もうほとんど遠い昔のことに思える会社のオフィスで、色の塗れないキャンパスみたいな将来を思って不安な私のところに、同僚からラインが届いて「俺、やっぱり洋服には人を元気にする力があると思うんだよな、頑張ろうな」というメッセージがあった。

「お前がそういうなら、俺もそう思うよ」と返信した。私は少し勇気をもらった。ちょっとだけ元気もでた気がする。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。